魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

154. 絶対に嘘だぁぁああああ!!

 ピンクの巻き毛が直毛になるくらい苦労して、言いつけられた罰をようやく終えたベルゼビュートが戻ってきたのは、拉致られてから1ヶ月後だった。


 幼児に甘いベールを赤ちゃん役にした黒幕だとバレたため、魔の森の掃除を担当させられた。定期的に魔王軍が行っている魔物の間引きを、たった1人で担当したのだ。


 予想以上に魔物の数が増えており、囲まれて一斉攻撃されたり、噛まれたり、毒で痺れたり、寝ている間に襲撃されて睡眠が取れなかったりしたが……なんとか達成した。終了地点を塗りつぶしながら進んだ地図は、見事に真っ赤に塗られている。


 同時進行で、アスタロトにも捕獲されて罰を言い渡された。いつか煮え湯を飲ませてやろうと考えていたベルゼビュートは、リリス経由でリアル煮え湯を飲ませたが……逆に違う意味で煮え湯を飲まされてしまった。怖ろしすぎて、思い出したくもない。


「死ぬかと思ったわ……」


 足を引きずりながら辿りついた魔王城は、拉致られた時より見事になっている。働き者のドワーフは1ヶ月もあれば、小さな城のひとつも作り出しそうだ。以前にリリスが壊した塔も、城門から見える魔王城の壁も修復が終わっていた。


「見違えるようね」


 よたよた城門をくぐろうとするベルゼビュートだったが、ヤンが立ちはだかった。


「許可のない者は入場できぬ」


「久しぶり……ヤン」


「気安く名を呼ぶでない。我が君に賜った名であるぞ」


 きりっと言い切られて、もう気力も体力も限界のベルゼビュートが崩れるように座り込んだ。豊満な胸元はぼろ布にかろうじて覆われているが、太ももや腕は傷だらけ。普段は手入れが行き届いた肌はぼろぼろ、ピンクの巻き毛はストレートになった上で色がくすんでいた。


 どう見ても、大公閣下には見えない。


「……陛下に取り次いで」


 それだけ頼むと、城門前に倒れこんだ。困惑顔のヤンの視線が、後ろの城と目の前の不審者の間を往復する。状況がわからないが、ここは不審者をどこかに捨ててくるのが正しい選択だろう。


 しかし咥える服が残っていない。ほとんど裸体に近い女性を直接噛んで運ぶのははばかられた。迷ったヤンがうろうろしていると、後ろを保育園帰りのリリスとルシファーが通りがかる。


「どうした? ヤン」


「我が君、この不審者をどうしようかと」


 横に避けて見せる不審者は、汚い赤茶色のぼさぼさの髪の女性らしい。魔力量も少なく、褐色の肌をしている。迷い込んだ人族だろうか。


「何も武器を持ってないが……それ以前に服がほとんどないぞ」


「我もそれで困っておりました」


「パパ、リリスのお洋服あげてもいいよ」


 繋いだ手を揺らして、幼女が無邪気に提案する。どうやっても着られるサイズではないが、その優しい提案が素晴らしいとルシファーが微笑んだ。しゃがんでリリスと視線を合わせる。


「リリスは優しいいい子だね」


「このおばちゃん、ご飯も食べてないかも……」


 心配するリリスの黒髪を撫でる。


「うーん……このおばさんに、何か食べ物と服を分けてあげようか。本当にリリスは優しい子だ」


 ルシファーとリリスのほっこりした会話を、城門を警備する兵が微笑ましげな目で見守る。通りがかった納入業者やドワーフもにこにこしていた。


「おば……おばさん、じゃないわ」


 ぎぎぎっと擬音を付けたくなる動きで顔を上げたベルゼビュートの般若の顔に、リリスが悲鳴を上げた。


「こわい! このおばちゃん、こわぁい!!」


 叫んだ彼女が両手を前に突き出す。直後、巨大な雷が落ちた。


「あっ」


 ルシファーが結界を張る前に、雷が女性を直撃する。城門自体に刻まれた魔法陣が防御したため、ヤンや兵達は無傷だった。しかし城門前の丘に焼け焦げた大地と人らしき物体が残される。


「リリス、いくら怖くてもいきなり攻撃したら焦げちゃうだろ?」


「うん……でも怖いもん」


 反省させるというより、焦げた城門前の話を始めたルシファー。ずるずると黒焦げの死体が動き、がしっと裾を掴まれた。


「我が君に触れるなっ!」


 吼えたヤンが黒焦げを攻撃する。何度か踏みつけ、ようやく引き剥がしたが……そこでルシファーがようやく気付いた。


「あれ? この顔って……ベルゼじゃん」


 その言葉で、城門や入り口周辺にいた魔族が一斉に振り返る。直後、魔王城が揺らぐほどの絶叫が響き渡った。


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