魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

132. お披露目会場は保育園

 途中で中断された演説も無事終わり、後は無礼講で騒ぐのみだ。妨害は毎回この辺りから出てくるのが恒例だった。頼もしい国民は、放っておいても勝手に盛り上がる。


 現れた敵は各個撃破で排除し、見知らぬ隣人と手を取って踊り、最後に全員潰れて二日酔いが定番コースだった。ちなみに種族ごと酔う物が異なるため、酒盛りが酒類だけとは限らない。マタタビの実だったり、他者の血やハーブのこともあった。


 堂々と羽目を外せるチャンスを、娯楽好きの魔族が見逃すはずはない。大いに盛り上がり、竜がブレスを吐いて森を焦がす騒動や、魔王が嘔吐を隠すために地割をして叱られた黒歴史もある。今年も例に漏れず大騒ぎとなるだろう。


 純白の魔王は嫁となる幼女を抱いて、すたすたと会場を横切る。魔王による王妃候補宣言は、彼女のお披露目も終わった最終日に予定していた。


「お披露目はどこだっけ?」


 5歳以上になった魔族の子の初顔合わせは、お披露目というイベントで行われる。毎年5歳前後の子供が集められて、互いに挨拶したり友達を作るのだ。毎回の参加人数は百人規模だった。魔族は長寿種族が多いこともあり、意外と出産数が少ない。一番多いのは魔獣系だろうか。


 即位記念祭の年にあわせ、4歳や6歳と近い年齢の子を参加させる親も多かった。リリスも同じで、今年あと数ヶ月で4歳になる。


「今年は保育園の庭をお借りしました。あちらは広いですし、何より囲われていて守りやすいので」


 アスタロトの返答に、それもそうかと納得する。あの建物は外敵から子供を守る目的で建てられ、中央の庭は堅固な建物に囲まれて安全だった。攻め込まれても、助けが来るまで籠城できる装備もある。


 人族は寿命が短いせいか、とにかく理由をつけて攻め込んできた。彼らにとって1年は長いのだろうが、魔族の1年は季節と変わらない。そのため、暇さえあれば攻めて来られる印象があった。




「オレはリリスと参加してくる」


「お気をつけて。何かあれば転移しますので、お呼びください」


 一礼して見送るアスタロトが手を振ると、左腕に抱かれたリリスも「ばいばい」と笑顔で手を振る。イヤイヤ期全開のリリスだが、こういった場で駄々を捏ねることは少ない。意外と症状が軽いことに安堵したのは、ルシファーより側近かもしれなかった。


 中庭に分類されるテラスからふわりと舞い上がり、少し先で転移して消える。魔王の黒い翼は有名で、魔族にとって力の象徴だった。そのためイベントでは必ず翼を出すようにしているルシファーである。


 今回はリリスのお披露目もあるし、彼女の余剰魔力を大量に受け入れたこともあり、大盤振る舞いで4枚出した。ルシファーの姿が見えるたび、魔族は大喜びだ。


「民へのサービスは大切ですよ」


 何度も口酸っぱく繰り返してきたベールは、満足げにルシファーの後姿を見送る。きゅっと指を握るルキフェルが「あとで話を聞いて」と得意げに声をかけた。人族排除派のベールは、ルキフェルの話を好ましく聞いてくれるだろう。わくわくしながら、ルキフェルは約束を取り付けて笑った。








 保育園周辺は、大量の魔物と魔獣が衝突していた。といっても飲みすぎた酔っ払い同士のケンカに近い。


「どうした?」


 降り立った保育園の玄関で声をかけると、突進した猪をかわす狼が振り返る。その狼の隙をついたオークが後ろから殴り、さらにオークを素手で叩きのめすミノサウルスがいた。大混乱である。


「パパ、牛! 豚!」


 お肉の種類で呼ぶのはやめてあげて! 狩りが得意だと自認するリリスにとって、魔物や魔獣はすべて食肉分類のようだった。目をきらきらさせて喜ぶリリスが興奮して、なんとか降りようと暴れる。


「危ないぞ、リリス。お披露目終わってからにしような」


 気をそらすつもりで告げたが、周囲は違う意味に解釈した。すなわち、『お披露目が終わったら魔王とその愛娘により実力を誇示する狩りが始まるから覚悟しておけ』――と。


「「「す、すみませんっした!」」」


「「「お騒がせしやした!!」」」


 丁寧に頭を下げて、さきほどまで殴り合っていた魔物達は互いに肩を貸して立ち去る。ほうほうの体で逃げる彼らを見送り、ルシファーは首をかしげる。


「なんだったんだ。アイツら」


 ここにアスタロトがいれば、「あなたに狩られると思ったんでしょう」と辛辣な一言で教えてくれただろうが、今回は彼がいない。誰も答えてくれない疑問を浮かべたまま、ルシファーはお披露目会場へ向かった。

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