魔王様、溺愛しすぎです!
118. いや、リリスがするの!
抱っこしたリリスを脱衣所に下ろすと、自分でピンクのブラウスを脱ごうとする。ボタンがついたブラウスのため、唇を尖らせて一生懸命頑張っていた。いつもの癖で、つい手を差し伸べる。
「パパが外そうか?」
「いやぁ!!」
ぱちんと手を叩かれて、しょんぼり引き下がる。女の子なんだし、もしかしてパパとお風呂は嫌になったのだろうか。侍女を呼んだ方がいいかもしれない。おろおろしながら、ルシファーが声をかけた。
「アデーレを呼ぼうか?」
「やっ!」
これも拒否された。どうしていいか分からなくなり、正座したままリリスがボタンを外す姿を見守る。手を出すと怒られるので、彼女がなんとかすべて外し終えるまで気長に待った。おかげで折角戻った足の痺れが再びルシファーを襲う。
「うっ……痺れた」
呻きながら立ち上がると、下着まで脱いだすっぽんぽんの娘が容赦なく手を伸ばす。
「抱っこ」
……え? 今のタイミングで? 痺れた足をなんとか我慢しながら、リリスを抱き上げた。多少腰が引けた間抜けな格好をしているが、指摘する者がいないため、ひょこひょこと不器用に歩いていく。素直に首に手を回すリリスにほっとした。大丈夫、嫌われたわけじゃない。
「いつもみたいに、パパが洗ってもいい?」
「いやなの」
えええ……。どうしよう。娘から連続で繰り出される「いや」に困ってしまい、洗い場にある椅子へリリスをおろす。自分でスポンジを手に取るので、石鹸を差し出すと「やだ、戻して」と叩かれた。もうどうしていいかわからない。
情けない顔で少し離れた床にぺたんと座った。そこで気付いて、慌てて自分の服も脱ぎさる。ルシファーが戻した石鹸を手に取り、滑って落としながらもなんとか泡立てたリリスが満足そうに身体を洗っていた。背中に手が届かないため、気になって声をかける。
「リリス、背中はパパが……」
「いやっ、リリスがするの!!」
「はい」
反論できずに大人しく床に正座する。長い純白の髪が洗い場の床に散っていた。なんだか哀れな姿である。とても魔王には見えなかった。満足するまで洗ったらしいリリスが、髪の毛を洗おうとする。さすがにこれは無理だと思い、そっと手助けしようとした手を弾かれた。
「ダメなの! リリスがやるんだから!!」
この拒絶に、ルシファーは肩を落として溜め息をついた。娘の豹変の理由がわからないし、どう対応していいかもわからない。あきらかに多すぎたシャンプーが泡で彼女を包む。本人は機嫌よく泡立てているが、シャンプーの中身を半分ほど使っていた。
泡が大量に溢れてリリスの目に沁みた。
「ぱぱぁ……いたい」
半泣きの娘に慌ててお湯を作って上からかけると、目をごしごし擦ってしまう。
「傷になるから、我慢して。リリス」
ここは素直に頷いてくれた。赤い目の外側まで真っ赤に充血した右目に、優しくお湯を流して痛みの原因である泡を流す。じっとしているリリスを撫でて、急いで自分の身体を洗った。抱き上げて湯船に入れようとすると、自分で入りたいと駄々を捏ねられる。
「……なんだろう、拗ねてても可愛い」
こっそり魔力で足元を手助けしながら、自力で湯船に入るリリスを見守った。唇を尖らせた様子も、何か気に入らなくて湯をばちゃばちゃ叩く仕草も、愛らしさの前に許せてしまう。ほんわかしながら湯船に入ると、リリスが寄りかかってきた。
お湯に沈まないよう支えながら、彼女が好きな薔薇を大量に庭から取り寄せる。魔力を使いすぎると叱られるが、このくらいは許される範囲だった。棘が刺さらぬよう確認してから、複数の薔薇を湯船に浮かせる。
「リリス、こっちは?」
「リリスがやる!」
いつも通り薔薇を千切って、花びらだけをばら撒くリリスはご機嫌だった。先ほどの不機嫌さが嘘のようだ。ほっとしながら、ルシファーはリリスの黒髪にキスを落とした。
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