魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

107. お邪魔しました

「パパにひとつ教えてくれるか?」


「なぁに?」


「パパはすっごい嫌なことをされた。哀しいし、悔しい。バカにされたし……でも許してあげないといけないのかな」


 子供に何を聞いているのかと自嘲する。噛み砕いて説明しても、リリスには答えられない難しい質問かも知れない。それでも口から出た言葉を取り消すことは出来なかった。


「ケンカしたら、両方ごめんなさいするのよ」


 保育園で言い聞かされたのだろう。一般的な回答に苦笑いが浮かんだ。


「うーん、ケンカじゃないな。意地悪されたんだ」


「リリスがいてもかなしいの? ぎゅっとすれば、もうかなしくない?」


 予想外の答えだった。言葉通り、ぎゅっと抱きついたリリスの黒髪が首筋を擽る。自分と同じシャンプーの香りがして、すべすべの子供の肌が頬に額に触れた。小さな手で一生懸命ルシファーを抱き締めようとする。反射的に抱き締め返して、一緒にヤンの上を転がった。


「哀しくなくなったよ。ありがとう、リリス」


 きゃっきゃとはしゃいで笑いながら寝転がるリリスの腹に顔を埋め、ルシファーは魔王らしからぬことを考えていた。


 追放した女も、サタナキアの娘も……こんな無邪気な頃があったんだろう。近々戻してやれたら。










「陛下…………お邪魔しました」


 ノックして開かれたドアの先で、そのまま閉めて出て行こうとするアスタロトに慌てて飛び起きた。ひどい誤解をされた気がする。主に犯罪方面で。


「邪魔じゃない! じゃれてただけで」


「ああ、ですね」


「意味深な言い方するなって」


 思ったより明るい様子のルシファーに、内心ほっとしながらアスタロトは結果を報告した。彼の性格をよく知るからこそ、今頃落ち込んでいるだろうと心配していたのだ。


 まさか扉の向こうで幼女を押し倒していたとは予想外でしたがね。アスタロトの生ぬるい視線を避けながら、報告を受けたルシファーはヤンの毛玉から抜け出した。


「我が君、次からはベッドの上でお願いいたします」


「災難でしたね、ヤン」


 まるで毛皮の上でいかがわしいことをされたような言い回しに、アスタロトはヤンへ同情の眼差しを向けた。場を深刻にしないよう、状況をわかっていて揶揄やゆる彼らの優しさに気付き、肩を竦めて言及を避ける。


「明日から書類仕事が多少入りますので、今日はこのままお休みください」


 窓の外は完全に闇に包まれていた。部屋が明るいと外の変化に気付きにくい。特に他のことに意識を奪われていたなら、なお更だ。


「わかった。リリスの保育園はどうするか」


 あの騒動の翌日から通わせるのは、さすがに怖い。リリス本人の気持ち面と、保育園の安全対策上の問題だ。とくに保育園はリリスが通うことで、彼女を狙う者による危険度が増す可能性もあった。


「5日後に遠足が予定されていましたね。防犯対策は樹人族ドライアドの一族総出による結界強化を行うため、2~3日お休みすれば問題ないと思われます。必要ならば、ヤンを護衛につければいいでしょう」


 有能な秘書も兼ねるアスタロトはすでに話を決めてきたらしい。王妃候補となったからには、今後のリリスに個人的な警護をつけることも可能だ。ヤンならばリリスも嫌がらないだろうし、ルシファーも心配が軽減される。


「そうするか……リリス、明日はお休みしてパパと一緒にいよう」


「遠足は?」


「あと5つ寝たら遠足だ。パパも行くよ」


「わかった」


 にこにこ笑ったリリスは、抱き締めるルシファーの腕で爆弾発言をした。


「アシュタ! パパにぎゅってして、膝まくましたの!」


 一部言葉がおかしいが、アスタロトは「まくま」をスルーした。幼女を左腕に抱くロリコン魔王を上から下まで失礼な眺め方をしたあと「まさか、本当に襲ったとは」と溜め息を吐く。


「ち、違うぞ! いや違わないけど……」


 言い訳にならない言い訳をするルシファーの慌てぶりに、アスタロトは心から笑った。

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