魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

105. 野の獣以下でした

「他の貴族への処断は、大公らへ一任する」


「「「「かしこまりました」」」」


 意味ありげに微笑を浮かべるアスタロトは、魔の森の奥に捨てたを記憶している。これは魔王の命令であり、処断する各貴族家を断定するための手段だ。元から記憶力には定評のあるアスタロトが一礼すると、他の大公もそれに倣った。


 ルシファーの腕に抱かれたリリスが、大公達にバイバイと手を振るのを見送る。ゆっくり顔を上げたアスタロトは名前を連ねた書類の束をおもむろに広げ、読み上げた。しかし記憶している彼の目は貴族達を睨みつけており、まったく文面を見ていない。


「ラシアーナ伯爵、ピアース侯爵、エイムズ子爵……以下102の家は、議場にて魔王陛下の許可なく発言した罪で罰金刑を。中でも虚偽の発言をしたラシアーナ伯爵については、領地の一部を没収とします」


 しんと静まり返った謁見の間に、アスタロトの冷たい声が響く。金額や没収する領地は後日、書面で通知されるのが慣わしだった。この場で告げられるのは罪の有無と罰の大まかな内容だけだ。


「スヴェント侯爵家は、娘アンの無礼な振る舞いが陛下の怒りを買いました。侯爵は50年の謹慎、娘を魔の森の奥へ追放とします」


「異議有り」


「スヴェント侯爵、なにが不満です?」


「娘の追放は、どのような振る舞いがあろうと重すぎます」


 必死に娘を庇う侯爵に同情の目が向けられる。事情を知らなければ、確かに重い罰に感じられるだろう。魔の森の奥へ追放されるのは、先にリリス嬢へ無礼を働いた輩と同類だと判断したと同じ意味だった。抗議する親の気持ちは理解できる。


 しかしアスタロトに容赦する気など微塵もなかった。


「では無礼な振る舞いの内容を公表いたしましょう。娘は、城門へ転移した陛下の許可なく一方的に声をかけ、名乗りをあげた上、陛下のに触れようとしたのです」


「右腕、に……!」


 絶句した侯爵が崩れるように座り込んだ。魔王ルシファーが国民を護るために、城の魔法陣による逆凪を受けた右腕の話は貴族でなくとも知っている。その右腕は引き裂かれるような激痛に包まれ、現在ほとんど使用不可能だという。


 現在の魔王にとって一番触れられたくない場所へ、無遠慮に腕を絡めようと触れたのだ。それは一種の敵対行為だった。他意はなかったと騒いでも通用しない。


 たとえ左腕にリリス嬢を抱いており、右腕しか触れる場所がなかったとしても……手を伸ばしたのが側近アスタロトであったとしても、許可なく触れることは許されなかった。それほどの事態を引き起こしながら、彼女は反省すら出来ないのだ。


 王妃としての資質以前に、魔族としての常識すら疑われるレベルだった。だから罪の内容を克明に告げなかったのは、アスタロトの温情なのだ。異議を差し挟まれた以上、スヴェント侯爵の面目が潰れようが、おもんぱかってやる必要はなくなった。


 さすがに声を殺しきれなかった貴族からざわめきが起こり、いとう眼差しをスヴェント侯爵へ向ける。不用意に敵対せぬため、上位者に対して魔族は最低限の礼儀を示してきた。魔獣ならば鼻を地に擦り付け地に伏せ、人型の魔族は武器を持たぬと両手のひらを見せてから一礼する。


 これらのマナーは常識の範囲内とされ、親から子へ引き継がれていく。己の一族の血を絶やさぬよう、教育として娘に施さねばならぬ侯爵の不手際は、他の貴族から見ても眉をひそめるものだった。


「陛下は『野の獣であっても、もっと礼儀を弁えている』と大変お怒りでした。ましてや大切な王妃候補リリス嬢を抱き上げた陛下に触れたのなら、お怒りを解くのは無理でしょうね」


 どの道、恩赦を得られたとしても侯爵の娘は不幸になる。魔王の不興を買った娘を娶る貴族はいないし、一族の立場を悪くした彼女を同族も認めないだろう。言い切ったアスタロトの声に、スヴェント侯爵のすすり泣く声が重なった。

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