魔王様、溺愛しすぎです!
103. 断罪と反省の舞台
リリスを抱いたルシファーが入ると、貴族達は一斉に頭をさげた。
「魔王陛下、このたびもお騒がせいたしましたこと、深くお詫び申し上げます」
淡々とベールが口上を述べ、大仰に頷いたルシファーは用意された玉座へ腰掛けた。膝に座ったリリスは届かない足をぶらぶら揺らしている。その可愛い旋毛にキスを落として、ルシファーは集まった諸侯を見回した。
「騒動の発端は?」
「はい、王妃の間を設計図に載せたことで勘違いした城仕えの者や貴族達が、我先にと欲に走った結果にございます。陛下に王妃を献上しようと、一族中の未婚女性を集結した結果がこたびの騒動の原因です」
淡々と切り刻む言葉を吐くベールに、一部の侯爵や伯爵が反論を試みる。ざわめく謁見の間に彼らの怒号が響いた。
「我らは一族の優秀な未婚女性を集めたのだ」
「そうだ。陛下が王妃をお望みだと通達が……」
ある伯爵の失言に、アスタロトが満面の笑みで発言の許可を求めた。
「陛下、発言をお許しください」
一礼したその態度に、勝手に言葉を発した自らの失態に気付いた貴族達が青ざめる。全貴族の個人名を把握しているアスタロトはもちろん、家名程度は記憶するルシファーも溜め息を吐いた。勝手に声を上げた連中を順に視線で追って、軽い脅しをかける。
「アスタロト大公、許す」
珍しく肩書きをつけて呼んだことで、ここが正式な審議の場であると示す。ルシファーの冷たい声に、広間のざわめきがぴたりと止んだ。
ここ数千年ほど、ルシファーはゆったり過ごしてきた。その態度しか知らない貴族達は、怒らせた本気の魔王の恐怖を知らない。それゆえの勝手な発言や行動を許したわけではなかった。都度咎めなかっただけだ。
退屈なのか、リリスが足を大きく揺らす。黒髪をなでると振り返り、そのまま首に抱きついた。耳元で何か声をかけると、機嫌を直したリリスが笑顔を振りまく。再び大人しく座ると、アスタロトの用意した人形を受け取り、リリスは「ありがと」と膝の上に乗せて抱っこした。
「ありがとうございます。さきほどラシアーナ伯爵の発言された『王妃をお望みと通達があった』という内容について、私の調査結果をご報告申し上げます。陛下はもちろん、われわれ大公も通達は行っておりません。文書、命令問わずです」
そこで意味深に言葉を切って、ぐるりと諸侯を見回す。目があった貴族の半数が目を伏せた。心当たりがあるのだろう。
噂の発端は「陛下が王妃の間を作った」というもの、次に「陛下が王妃を探している」それが「未婚女性を求めている」になり、最終的に「陛下に献上する未婚女性を献上せよ」の命令形となって伝わった。だが大公も魔王も命令や通達は出していない。
人形の髪を撫でるリリスが「パパ」と小さな声をあげた。首をかしげて待つルシファーへ、人形を差し出す。どうやら褒めて欲しいようだ。「よく出来た、可愛いな」とリリスに囁くと、嬉しそうにまた人形をなで始める。周囲の緊迫した空気を無視した2人に、ベールが溜め息を吐いた。
「王妃の間は、旧魔王城にもありました」
衝撃の発言に、貴族達がざわめく。彼らの中で一番年配者でも2万歳ほどだ。旧魔王城を造った時代を直接知るのは、大公と魔王のみだった。つまり昔からあった部屋を移設しただけだとしたら、それは魔王の私室や執務室と同じ扱いなのだ。
新しく設えたと勘違いしたため、彼らは入れ物となる部屋に相応しい女主人が求められていると考えた。その根幹部分が間違っていると突きつけ、アスタロトはさらに罪を突きつける。
「移設した部屋の主はすでに決まっています。にも関わらず勘違いで暴走した貴族の集めた雌共は、この城の現在の女主人であるリリス嬢を傷つけ、魔王陛下の逆鱗にふれました。このたびの追放措置はそのためです」
「だが罪が重すぎる!」
「そうだ! 我が一族の女性達は半分以上が追放された」
声を上げた侯爵と子爵の名を記憶しながら、アスタロトは優雅に振り返った。向き直った魔王へ目配せして、頷いて許可を得ると再び諸侯に向き直る。上位者に許された長い衣がしゅるりと軽い音を立てて揺れた。
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