魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

95. 久しぶりの魔王城

 魔王城の中庭に踏み込むと、見上げるサイズの巨石がごろごろしていた。


「きらきらの石」


 リリスは目を輝かせるが、子供の遊び道具ではないのでスルーする。なんとか手を伸ばして触れようとするリリスを掴まえたまま、出迎えにきた大公達に向き直った。


「魔王陛下、ご帰城お待ち申し上げておりました」


「陛下には、しばらくご不便をおかけします」


「ああ、ご苦労。どこまで出来た?」


 一部、城の修繕を手伝いに来ていた諸侯も並んでいるため、ルシファーは大仰に頷いて挨拶を受ける。その頭によじ登ろうとする幼女に、肩を足蹴にされているとしても……誰もが見ていないフリで目をそらした。ルシファーの頭の上から雲母煌く石へ触れて満足したのか、リリスは大人しく降りてくる。


「陛下の居室でございますが、やっと完成しました。本日からお使いいただけます。リリス嬢のお部屋はしばらくかかりそうです」


 ベールが一礼して案内をかってでる。後ろをついて歩き出したルシファーの腕に落ち着いたリリスは、今度はヤンを探してきょろきょろし始めた。


「どうした? リリス」


「ヤンは?」


 一緒に転移したヤンは城門で寝そべっていた。最近は昼寝の時間を削って警護していたため、ゆっくり休ませてやった方がいいだろう。苦笑いしたルシファーがリリスの黒髪を撫でながら言い聞かせる。


「ヤンは疲れたからお休みだ。門にいるから、後で焼き鳥を運んでやろう」


 昨日リリスが撃ち落したコカトリスは、まだ大量に残っている。魔族でもコカトリスは毒抜きしたら食べられる認識があるので、食材としてアスタロトが運んだのだ。城の建設作業に従事するドワーフなどにも振舞われる予定だった。


「わかった」


 手をあげて笑う幼子に、後ろをついていく貴族達がほんわかする。久しぶりの魔王との対面で緊張した人々を、彼女は意図せず癒していた。


「パパ、リリスの(お部屋)は?」


「今作ってる」


 小声で会話しながらベールの背中についていくと、廊下が工事中の区間にはいった。正面の城門から見える壁は最優先で作ったらしいが、奥に入るに従い、焼け焦げた壁や修繕前の穴が目立つ。完成に10年と見積もっていたが、本当に10年で間に合うのか。


 工事の進行状況を検分しながら歩くルシファー達は、荷運びを担当するゴーレムとすれ違った。稀に人族に使役されることもあるが、基本的に彼らは大人しい。人型のゴーレム以外にも、大型犬のような四足のタイプも見受けられた。岩で出来たような身体をしている。


「あれも、わんわん?」


「ゴーレムだ」


「ふーん」


 リリスが「ばいばい」と手を振ると、手が空いているゴーレムが一斉に手を振り返した。にこにこご機嫌のリリスは、その後もドワーフや首なし騎士デュラハン相手に手を振っている。おかげでルシファーの魔王城帰還は、彼らの口経由であっという間に知れ渡った。


 ふと、先導していたベールが止まる。


「こちらです」


 城を建て直す勢いで設計変更した結果、居室はすべて奥へ纏められた。警護の関係を考えれば、確かに魔王や関係者の居住スペースは城の奥が向いている。入り口に執務関係の部屋をまとめ、中央に中庭と謁見関連の広間を作るらしい。


 開かれた扉の先はすでに人が住める状態に整えられていた。他の貴族を置き去りに、さっさと部屋に入ったルシファーに続いて、後ろ手にアスタロトがドアを閉める。新しい家具が並ぶ室内を見回し、とりあえずソファに落ち着いた。


「なんで大名行列しなきゃいけないんだ?」


「仕方ありませんね。民を庇った行為は有名ですから、心酔する貴族が増えていまして」


 断りきれなかったとアスタロトは笑う。大げさにしたくなかったと嘆くルシファーをよそに、いろいろな種族を見たリリスは指を折って数えていた。


「石のわんわんと、小さいおじちゃん、ライン君のパパ、兎さん、首取れた人」


 見かけた中で興味を惹かれた種族を並べるリリスの頭を撫でる。それだけで癒されるルシファーの前に、アスタロトが紅茶を用意した。ベールは書類と図面を手に戻ってくる。


「このお部屋は今日からお使いいただけますが、隣室は家具がまだです。あとこの辺りもまだ使えません」


 地図や図面を広げて説明され、頷きながら記憶していく。工事区域にリリスが迷い込むと危険だ。ふと気になる部屋を見つけた。ルシファーの部屋から扉経由で繋がっているが、クローゼットではなかった。


「この部屋、なんだ?」

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