魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

76. 魔王城襲撃事件?

「そうでしたか」


 ほっとした顔で報告を受けたベールが、再び手元の書類に目を通す。慣れた様子で署名を施してルキフェルへまわした。並んで作業をする2人の向かいで、やはり椅子に腰掛けたアスタロトも署名を施す。面倒だが魔王を頂点とした貴族社会を構成している以上、彼ら3人の署名は代理権の行使に必要だった。


「リリス嬢が勇者だったら……」


 意味ありげにアスタロトは言葉を切る。後ろに続く不吉な言葉を、ルキフェルもベールも聞かずに首を横に振った。4人の大公の中でもっともルシファーに傾倒しているのは、アスタロトだ。彼にとって魔王はルシファーでなくてはならず、他の魔王に仕える気はない。


 彼はリリスよりルシファーを選ぶだろう。


「違ってよかった」


「陛下も安堵されたでしょう」


 長椅子でリリスのお昼寝に付き合う姿を思い出し、アスタロトは頬を緩めた。機嫌よく書類を片付けていく彼の姿に、ベールとルキフェルは顔を見合わせる。なんだかんだ言っても、アスタロトだって情は移っているのだ。天真爛漫なリリスを可愛く思わないわけがなかった。


「来年は即位記念祭でしたね」


 アスタロトの指摘に、ベールが署名の手を止める。少し考えるように宙を睨み、すぐに頷いた。執務室のカーテンを風が揺らしていく。夏が終わりかけたこの季節、すでに風は秋の色を帯びていた。


「そろそろ支度をしないと間に合いませんか」


 混沌としていた魔族の争いを鎮め、魔王が即位した記念のイベントだ。国民達にとって最大のイベントだが、あまりに魔族は長寿過ぎた。魔王ルシファーが即位して7万年近く経つが、彼の圧倒的な力も整った容姿も即位から衰えない。それどころか魔力は増えていた。


 毎年だと国庫の負担となり、国民に増税を強いることになる。そう判断したルシファーの一言で、10年に一度の大祭と定められた。来年の春がその10年目に当たるのだ。


「1年早いですが、リリス嬢のお披露目もしてしまいましょう」


 上位貴族の子供達は5歳を過ぎるとお披露目を行う。魔族の子供は5歳までの死亡率が高いため、お披露目の年齢はある程度大きくなってからが多かった。しかし魔王自身が庇護するリリスの噂は広まっている。顔を知らしめておいた方が安全だろう。


 どうせなら大きなお祭のときに一緒に済ませれば、余計な経費もかからない。打算を含んだアスタロトの提案に、ベールは考えることなく承諾した。


「わかりました。警備や準備はこちらで手配します。ルキフェル、手伝ってください」


「うん、わかった」


 幼く見えるが、これでも1万年を生きた大公だ。数え切れないほど繰り返した祭の準備と手順は理解している。ベールに頼りにされた事実が嬉しいのか、頬を紅潮させて頷いた。


 微笑ましい彼らのやり取りを見ながら、アスタロトは最後の書類にサインを終える。積み重ねた書類の上に乗せると、立ち上がって軽く会釈をした。


「それでは、陛下に提案してまいります」


 頷いた2人を残して踵を返した瞬間、ドアの外で大きな破裂音がした。強烈な爆風が周囲の部屋の窓ガラスを砕いたらしく、あちこちで悲鳴が上がっている。


「何事ですか!?」


 窓辺に駆け寄ったベールが、テラスから身を乗り出した。庭に突き刺さる大きな塔の先端が、爆発の威力を物語る。魔王城自体は石造りの建築物に過ぎないが、壁や床には結界に相当する現状維持や自己修復の魔法陣が描かれていた。簡単に爆破など出来ないはず。


 自己修復の魔法陣ごと破壊された塔の姿に、ベールは息を飲んだ。


「城内の指揮は任せます!」


 常に隣に立つ側近として、アスタロトは魔王の元へ向かった。叫んだ声にベールが何と返答したか確認しないまま、彼は駆け出した。

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