魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

75. リリスには違う世界が見えるようです

「魔族ならば『勇者』の条件を満たしません」


 なぜか過去の勇者はすべて人族だった。魔族から生まれたことは一度もない。


 やっとアスタロトの言いたいことを理解したルシファーが、勢いよく本の文章を確かめる。魔族である一番の条件は魔力量だ。続いて外見の特徴、さらに寿命の長さだった。


 リリスの真っ白な肌は上位貴族の魔力量を示している。黒髪だが、瞳は赤い。ルシファーや大公に届かなくても、伯爵位の貴族並の魔力は確定していた。しかも彼女は魔力の流れを感知するほどの才能がある。寿命はわからないが、成長速度は魔族に近かった。


「確かに……魔族として認められる」


 呟いたルシファーが安心したのか、どかっと椅子に倒れこんだ。抱き着いていたリリスが目を覚まし、ごしごしと赤い目元を擦る。あわててルシファーが小さな手を止めさせた。


「ダメだ、目が傷になる」


「どうしたの、パパ……嬉しそう」


 ほわりと笑ったリリスの可愛らしさに、ちゅっと音を立てて目元にキスをする。反射的に目を閉じたリリスが、擽ったいと身をよじった。


「リリスはパパの子で、パパと同じ魔族だったんだ」


「うん」


 よくわからないだろうに、同じという表現に頷く。アスタロトは手を伸ばしてリリスの手を握った。


「簡単なテストをしますからね」


 握った小さな手に、じわりと魔力を流す。すると目を見開いたリリスが、流し込まれた魔力の流れを追う形で指先から肩まで追いかけた。肩の位置で外へ抜いた魔力が拡散する。


「魔力の流れを感知していませんか?」


「そうなんだよ。さっき気付いたんだけど、オレの右腕の異常を指摘した。他の魔族の子より早いよな。試しに左腕の魔力を遮断したら、それもわかるんだぜ。優秀すぎて驚いた」


 ベタ褒めするルシファーに、アスタロトはほっとして座り込んだ。これでルシファーとリリスが対立する未来は避けられるだろう。安心して力が抜けてしまった。この人はリリス嬢に甘すぎて、彼女のために死ぬと言い出さないか心配だったのだ。


 掴んでいたリリスの手を離すと、幼子は無邪気に感想を口にする。


「アシュタのは赤くて、パパのはきらきらしたお月様の色」


 お遊戯で覚えた星を示すキラキラの仕草を右手で行うリリスは、にこにこと満面の笑みだった。だが表現された内容が理解できない。何が赤くて、きらきらなのか。


「アスタロトが赤い? もう着替えてるから黒だろ……もしかして目の色?」


 彼の領地で会った時は確かに服がずっしり赤く染まっていたが、今は着替えて黒衣を纏っている。髪の色は金だし、赤いのは瞳くらいか。そういえば、アスタロトは赤い瞳で、ルシファーは銀だ。瞳の色と納得したルシファーだったが、彼女自身が首を振って否定した。


「ちぁ、っう! アシュタはトマトさんの色で、パパはお月様の色なの! まわりにあるの」


 また噛んだリリスの可愛さに身悶えしながら、垂れる鼻血をハンカチで誤魔化す。隣で側近が軽蔑交じりの眼差しを向けてくるが、可愛いものは仕方ない。リリスの可愛いは正義だ。


 身体を包むように手を振り翳して説明するリリスに、心当たりがあるらしいアスタロトが問いかけた。


「……魔力の色、でしょうか? 身体のまわりに見えるのですよね」


「パパのお手手もお月様色なの。それで、ここだけ色が黒いの」


 すでに傷痕がない頬と背中を指差し、続いて右腕を掴んだ。何度も撫でる仕草に、やはり魔力の色の話だと確信した。つまり、リリスは他者の魔力を色で読み取っているのだ。魔族であってもそんな特殊能力を持つ存在は聞いたことがなかった。


 彼女特有の能力なのだとしたら、それこそ魔族としての証明かも知れない。


「リリスは何色なの?」


「うーんとね、リリスはないない」


 首を振る。リリスの能力で、自分自身は読み取れない可能性が出てきた。魔王であるルシファーの鑑定では、伯爵位程度の魔力があるのだ。リリスの能力が魔力を色で感知するなら、自分自身は鑑定対象から外れるという意味だった。


「パパには分からない感覚だけど、リリスが凄いのはわかったぞ」


「リリス、しゅごい?」


 またもや垂れてきた鼻血を押さえながら、ルシファーはでれでれと頬を緩ませた。

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