魔王様、溺愛しすぎです!
59. 名付けはセンス命です
今は息子が魔王城の城門に陣取っているが、今後は逆になる。父が魔王城近くに住み、息子は受け継いだ群れを守りながら魔の森に住むことになるだろう。
嬉しそうに尻尾を振るたび、森の木はみしみし音を立てながら台風並みの風に耐えていた。魔王とリリスは気付かぬまま、ぬくぬくと毛皮に包まれる。
「ルーファ、ルー…」
ぱちくりと赤い目を瞬いたリリスが、ごしごしと目元を擦る。慌ててとめようとしたが、それより早くリリスは歓声をあげた。
「わんわん、すごぃ! わんわんっ」
「リリス。セーレって呼んでごらん」
複雑そうな音を立てたセーレの喉に気付いて、名前を教える。名をもつ魔獣は上位のものだけで、自分より格下に名乗ることはなかった。しかし「わんわん」と犬扱いされる現状に不満があるセーレは、ルシファーの言葉に期待を滲ませる。
名を呼ばれれば、わんわん扱いから脱出できるのだ。もうすぐ引き継いでしまう名であっても、犬呼ばわりから逃れられるかも知れない。
「せぇれぇ?」
「ちょっと違う、それだと精霊になるからベルゼビュートだぞ」
「ベウゼ?」
余計な名前を口にしてしまい、反応するリリスの頬をつつく。素直に顔を上げたリリスの額にキスをして、もう一度言い聞かせた。
「セーレだ」
「せぇれ」
かなり近づいたが、そこで気づいた。この名前はすぐに譲渡されるため、リリスが呼ぶ期間は非常に短いのだ。また覚え直しさせると混乱させてしまいそうだった。
「ちょっと待っててな。リリス」
「ぁい」
いい子でお返事したリリスの黒髪を撫でながら、寄りかかったセーレに声をかけた。
「なあ、新しい名前付けるか? 息子に譲った後が不便だろう」
「先代は亡くなって我に名を譲ったので……確かに今後困ります」
「うーん。オレが考えてもいいけど、アスタロトが反対するんだよな。なんかセンスがないとか言ってさ」
ここ2万年ほど何かを拾うたびに言われ続けたため、ちょっとしたトラウマ状態だった。ベールにも「センスというより頭がおかしいのでは?」と辛辣な言葉を向けられたくらいだ。自分では気付かないが、そうとう酷いのだろう。
「我が君が名付けてくださるなら不満は言いませんが……リリス嬢は我が君が名付けられたのでしょう? よい御名ではありませんか」
「お前って優しいよな」
ぽんぽんと毛皮の塊を叩いて、真剣に悩み始めた。
フェンリル……をもじってフェンとかフェルとか付けたら、また側近連中が騒ぐだろう。リリスが発音しやすい名前で、それなりに格好いい名前か。
「にゃん、ルーファ」
「ああ……っと、さすがにニャンは酷いな。オレでもつけないぞ」
リリスの言葉に苦笑いする。わんわん扱いに不満があるセーレは、種族としては魔狼族の最上位となるフェンリルである。猫のにゃんは付けられない。しかしリリスは首を横に振って、毛皮をなでた。
「にゃ……やん」
ヤンか? ニャンじゃないのか。
「セーレ、『ヤン』というのはどうだ?」
「………我が君、さきほどのニャンから思いついたのでは?」
ぎくっとするが平然と言い切った。こういうのは、照れたり目をそらしたら負けだ。よく分からない理論でルシファーは押し通す。
「いや、リリスがヤンがいいと言うので提案したまでだ」
「我が君がくださる御名です。ありがたく拝領いたします」
その割には文句言ったよな? そんな気持ちを込めてぽんぽんと尻尾を叩いて、「よろしくな、ヤン」と声をかけた。
「魔王様、溺愛しすぎです!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
-
6
-
-
全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ
-
14
-
-
S級魔法士は学院に入学する〜平穏な学院生活は諦めてます〜(仮)
-
3
-
-
ある化学者(ケミスト)転生〜無能錬金術師と罵られ、辞めろと言うから辞めたのに、今更戻れはもう遅い。記憶を駆使した錬成品は、規格外の良品です〜
-
4
-
-
最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。
-
5
-
-
【旧版】自分の娘に生まれ変わった俺は、英雄から神へ成り上がる
-
32
-
-
ハズレ勇者の鬼畜スキル 〜ハズレだからと問答無用で追い出されたが、実は規格外の歴代最強勇者だった?〜
-
5
-
-
水魔法しか使えませんっ!〜自称ポンコツ魔法使いの、絶対に注目されない生活〜
-
20
-
-
乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
-
15
-
-
《完結》解任された帝国最強の魔術師。奴隷エルフちゃんを救ってスローライフを送ってます。え? 帝国が滅びかけているから戻ってきてくれ? 条件次第では考えてやらんこともない。
-
2
-
-
パーティに見捨てられた罠師、地龍の少女を保護して小迷宮の守護者となる~ゼロから始める迷宮運営、迷宮核争奪戦~
-
5
-
-
夢奪われた劣等剣士は銀の姫の守護騎士となり悪徳貴族に叛逆する
-
25
-
-
魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?
-
13
-
-
聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜
-
6
-
-
冒険者パーティー【黒猫】の気まぐれ
-
57
-
-
悪役令嬢、職務放棄
-
10
-
-
ガチ百合ハーレム戦記
-
15
-
-
婚約破棄されたので帰国して遊びますね
-
10
-
-
婚約者が浮気したので、私も浮気しますね♪
-
9
-
-
世界を渡る少年
-
32
-
コメント