魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

55. 攻め込む入り口を作ります

「きらきらぁ」


「光るものが好きみたいだ。さっきもオレの魔法に大喜びだったからな」


 説明しながらルシファーが上の月を視線で示す。月光が明るいので、反射する氷や金髪に興味を示したのだろう。事情を理解したアスタロトは、彼女が掴んでいる髪を耳の少し上で切り落とした。


「御守りくらいにはなりますよ」


 金髪を魔法で編み上げると、リリスの右手首に巻きつける。


「ありがとうは? 貰ったらちゃんと言わないとダメだぞ」


「あいがとぉ」


 保育園でも習ったとおり、ぺこりと頭を下げてお礼を言う仕草は愛らしかった。子供特有の舌足らずな物言いが、不思議と耳に心地よい。貴族の子が多いせいか、保育園で最低限の礼儀作法とマナーを教えてくれるらしい。リリスは覚えたばかりの挨拶を笑顔で振りまいた。


「ルーファ、もっこ。もうっこ」


 左手をぶんぶん振るリリスが強請ねだる意味に気付き、ルシファーは自分の髪をアスタロトと同じように切り落とす。足元まで届く長い髪を魔法で編み上げると、数回手首に回してから留めた。


「ほら、もう一個だ」


 リリスの左腕に巻いた編み髪に、彼女はご満悦だった。両方の手を交互に見て嬉しそうに笑う。興奮して真っ赤になった頬にキスをして、ルシファーはアスタロトに向き直った。


「ありがとうな。にしてもお前が髪をくれるなんて意外だ」


 魔力の高い魔族は、己の髪や爪の管理に煩い。己の一部だったパーツは魔力を宿しており、魔法の媒体や魔術の材料になることを理解しているからだ。アスタロトも同様で、髪を他者に渡す姿を見せることはなかった。


「あなたがいますし、多少の庇護にはなるでしょう」


 照れたのか顔をそらすアスタロトは、口早に話題を変えた。


「それより、門をなんとかしなくては困りますよ。どこか塀に穴を開けますか?」


「うーん。門をどうにかするより、穴を開けるほうが簡単そうだな」


 魔法陣を刻んだ塀を一瞥して、ルシファーは呟いた。照れているアスタロトを突くと、後が怖いのでスルーは鉄則だ。茶色の壁の材質は分からないが、大きな石を切り出して積んであるように見えた。


「お任せします。そろそろ魔狼達も到着しますね」


 今回の報復で最初に街へ踏み込む権利は、魔狼族が勝ち取っている。一年前に子狼を誘拐され領地に火を放たれた彼らの、名誉回復のチャンスだった。駆けつけてくるまで時間の猶予はない。


「砦のある南に纏めた方がいいのか?」


「そうですね……こちらから攻め込まないと、街の人族が右往左往して余計な戦闘が増えます」


 南から北の街道へ押し出す必要があると指摘するアスタロトの意見に従い、砦の両脇とさらに数箇所の穴を作ることにした。


「光る魔法、雷系か……」


「土でもいいのでは?」


 大地を揺らしてヒビをいれ、轟音を立てて崩す方法を提案するアスタロトへ、ルシファーは真剣な表情で首を横に振った。何か大事な理由があるらしい。


「リリスが光る魔法を好むんだよ。だけど雷と氷、青炎は使ったし、どうせなら違う魔法も見せたいんだよなぁ」


 真面目に悩む魔王の腕の中、両手を月光に翳して光る編み髪に喜ぶリリス。カラスでもあるまいに、とアスタロトは苦笑いして提案した。


「ならば光で切り裂けばよいのでは?」


「さすがアスタロト。それでいこう」


 高度に圧縮した光を放つため、手元に光を集める。手がかりを月光にし、直視できないほどの光が右手に集められた。ゆっくり練るように形を変え、1本の剣を作り出す。


「きれぇ……」


「気に入ったか? おっと手を出すなよ。痛いぞ」


 触れるだけで切れるほどの光剣に、リリスは目を輝かせた。ルシファーの左腕を足がかりに飛びつこうとするが、するりと避けられる。きらきら光る剣を揮うと、街を守る塀は柔らかなチーズのように刃を通した。


 さくさく切り刻んだ塀が崩れて落ちる。その先を大地の魔法でスロープ状態にならして用意完了だった。

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