魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

54. 計画は完璧だったのに

 当初の計画では「魔王だぞ」と派手におどかして砦の上部を壊して門から突入―――でした。半日ほどかけて、ゆっくり魔獣系が街を侵略すれば、住民は一斉に都方面へ逃げ帰るだろう。そして空になった街を、魔王ルシファーが破壊する。


 完璧な計画だったはずなのに。


 溜め息をついたアスタロトの前に広がるのは、派手に壊された砦上部……と、それを受け止め損ねて壊れた門だった。魔の森へ続く門が潰れて瓦礫になったため、魔獣達の侵入経路がない。


「これは……ベールがいたら叱られたでしょうね」


「な、内緒にしてくれるよな? な、アスタロト」


 ベールの説教を回避すべく笑顔で誤魔化そうとするルシファーだが、人族排除派のアスタロトは機嫌がいい。特に条件を出されることもなく、頷いてもらえた。


「いいですよ。ですが……どこか壊す必要がありますね」


 城壁に似た背の高い塀がぐるりと街を囲んでいる。向こう側の門まできっちり隙間なく塞がれた塀は、上から見ると綺麗な円形ではなかった。一部を拡張した結果だろう。歪な楕円に近い形の街が形成されている。


「……四角く作った方が管理が楽じゃないか?」


 不合理だと指摘するルシファーへ、アスタロトは肩を竦めて説明を始めた。


「一番最初は四角かったのですが、東に新たな住民の居住地を用意し、西に商店街を作り、北に畑を増やした結果が……この醜い街です」


「醜い、ね。確かに計画性がなさ過ぎる」


「魔族ほどの計画性も知識もないのでしょうが、それにしても原始的で美しくありません」


 ばっさり切り捨てたアスタロトが、ふと視線を下へ落とす。そこには弓に矢をつがえる青年がいた。黒髪の彼がつがえた矢の先に、わずかだが魔法の気配を感じる。


「滅びろ、魔王めっ!!」


 叫ぶ声と一緒に飛んでいた矢を、無造作にアスタロトが掴んだ。鳥の羽根を使った矢羽は優秀で、まっすぐにルシファーへ飛ぶ。その間に移動したアスタロトは、掴んだ矢の先端に感心した声をあげた。


「ほう、これはまた」


「どうした、アスタロト」


「陛下、ご覧ください。やじりに魔法陣を刻んでいます」


 攻撃のための矢はあっさり防がれ、あげくに敵の手で検分される事態になっていた。続けざまに3本の矢をいる青年だが、ことごとくアスタロトが回収する。風を操る彼らの魔法に、物理的な攻撃は意味を成さなかった。


「こちらは火、これは水……いえ氷ですね。矢羽の近くにある小さな記号は、風の魔法陣を省略したものです。人族にも知恵はあるようですよ」


 まるで未開の地の猿のように語る毒舌ぶりは、アスタロトが上機嫌な証拠だった。


「魔獣よりレベルは低いですが」


 たいがい失礼な見下し口調のアスタロトに苦笑しながら、ルシファーはリリスを抱き寄せる。間違って鏃に手を触れてケガでもしたら大事件だった。結界に包んで保護しているが、絶対はない。


「人族だって工夫はするだろうさ」


 まだ足元で叫んでいる青年は、フードで顔が見えない仲間に引き摺られていく。無造作に矢を折ると、アスタロトは手の中で燃やした。


 灰を払ったアスタロトに、リリスは無邪気に手を伸ばす。


「アシュタ! きれー」


「どうしました?」


 はしゃぐリリスに首をかしげると、彼女は小さな手を必死に伸ばした。手招きするルシファーに従い近づくと、金の髪が気になるらしい。


「そっとだぞ、リリス。そーっと」


 ルシファーが注意しているので大丈夫だろうと一房差し出せば、きゅっと握った手の中の髪をじっと見つめ、にっこり笑った。

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