魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

53. 壊しすぎたようですが…?

「ファイヤー・ボール!」


 人を包み込めるサイズの火球が飛んでくる。真っ赤な炎は温度が低い。再び黒い笑みを浮かべたルシファーの右手に青白い炎が浮かんだ。手を核に燃える炎は、下級の赤い炎を吸収して揺らめく。


 上級の白炎が飲み込んだ赤い炎は一瞬で色を変えて、青白い揺らめきの一助となった。身体を包めるほどの炎は凝縮されてルシファーの右手に収まる。


「きれっ、ルーファ。きれー」


「リリス、今! ルーファって呼んだのか? 凄いな、賢い」


 状況を忘れて喜ぶルシファーの左腕で、リリスは白い手を炎に突っ込んだ。しかしルシファーの結界があるため、ほんのり温かい程度だ。温度が違うことが不思議なのか、何度も手を入れては抜いてを繰り返す。


 両手が塞がっているため、リリスに頬ずりしたルシファーは右手を砦へ向けて無造作に放った。魔法使いの攻撃に使われた赤い炎は、上級の青白い炎となって返される。咄嗟に彼らが張った結界は一瞬で砕かれ、砦を構成する石が飴のように溶け始めた。


 初級のファイヤー・ボール程度なら石で作られた砦にぶつかって散るが、さすがに炎の中で最上級の温度を誇るブルー・ファイヤー系統は石も溶かす。マグマに近い温度を誇る攻撃に、人族は慌てふためいた。


「逃げろっ」


「崩れるぞ!」


 叫んで飛び降りたり階段へ飛び込む人々を見ながら、ルシファーは冷めた声で呟いた。


「さっきの雷で降りればよかったのに」


「ルーファ、きれーして」


 急速に言葉が整っていくリリスににっこり笑いかけ、次は何がいいか迷う。本当は雷だけでいいと思っていたが、リリスが興味を示すならいろいろな魔法を見せてやりたい。


 出来るだけ見栄えがする美しい魔法……少し考えてから右手のひらを上に向けた。


 呪文も魔法陣もなく、氷をひとつ作り出す。空には満ちかけた月があり月光が降り注ぐ。氷はさぞ美しく光を弾くだろう。周囲で待つ魔獣への合図にも最適だと思われた。


「綺麗なの作るからよく見てるんだぞ」


 拳ほどの氷は見る間に大きく育つ。棘を生やした薔薇の枝のように、凶悪な姿ながら光を弾いて輝いていた。さきほど直撃した塔ほどの大きさに育てると、右手で砦を示す。膨大な質量が音もなく移動し、爆音を立てて砦の上に落ちた。


「どうだ、凄いだろう」


「ルーファ、しゅごぃ」


 耳を両手で塞いだリリスが赤い目を瞬く。結界があるから音も防いだはずだが、彼女は大きな音がすると思ったのだろう。ゆっくり手を外して、全身を揺らして喜んでいる。


 ちょっと複雑な心境になる。見下ろした先の砦はぼろぼろで、時間をかけて攻撃したが巻き込まれた人は皆無ではない。同じ人族に分類されるリリスは、目の前の光景がどういった意味をもつか理解できないはずだ。本来ならば彼女にとって同族なのだが。


 この光景を隠してもいずれバレると思い、攻撃中も抱いていたが……状況を理解できない幼子とはいえ、ここまで無邪気に喜ぶ姿は教育を間違えた気がしなくもない。


「随分手間をかけましたね」


「ああ」


 端的な言葉と複雑そうな表情に、長い付き合いからルシファーの考えを読んだアスタロトは溜め息を飲み込んだ。この人は割り切ればいいのに、また余計なことを。


「人族はリリス嬢を手放したのです。彼女は魔族のお姫様ですよ。それでいいじゃありませんか」


「っ、そう、だよな」


 きゃっきゃと全身を揺すって興奮するリリスの黒髪を撫で、風に揺れた白いレースのリボンを直してやる。彼女は魔族として育てればいい。そう考える言い訳を与えたアスタロトの機転に、ルシファーは同意した。


「ところで……すこしばかり壊しすぎましたね」


 指差すアスタロトが眉をひそめる。確かに門の上にある砦の塔を壊したため、下の門が完全に潰れていた。

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