魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

52. 報復の狼煙は派手に

 人族が緩衝地帯の森を抜けた先に作った街は、活気に満ちていた。思ったより人口が多そうだ。あちこちに魔法や蝋燭の火が見える窓が並び、ひとつずつに人の生活があるのだろう。


「合図はどうする?」


「陛下が砦を落とすのが合図です。勢いよくやってください」


 お目付け役のアスタロトは無責任に魔王をけしかけた。ルシファーが砦を落とす狼煙のろしを待って、魔狼や魔熊などの魔獣達が攻め込む手はずだ。彼らと人族の兵士が戦う間に、住民が避難を開始するだろう。


 半日あれば大半が逃げ出した街は、形だけのがらんどうだ。


「リリス嬢をお預かりしますが」


 手を差し出すアスタロトへ首を横に振った。黒い翼を広げてばさりと羽ばたく。赤い目をきらきらさせるリリスの頬を撫でながら、ルシファーは呟いた。


「隠したってどうせバレる。最初から隠さない方がいい」


 砦の上部で監視に立つ連中が騒がしい。こちらの姿に気付いたか、魔法使いが魔力に気付いたらしい。にやりと笑うルシファーが魔力を放出すると、舞い上がるように白い髪が広がった。


「久しぶりの戦場だ。ちょっと派手にやるか」


「ご武運を」


 一礼して後ろに下がるアスタロトの見送りを受け、ルシファーは優雅に砦の前へ進み出た。


「魔族が何用だっ!」


 叫んだ男の手に握られた剣が、松明の火を弾いて輝いた。弓を構えるもの、剣を抜くもの、槍を運ぶもの。それぞれが戦の支度を整えていく。


「ふむ。おかしなことを言う。先に攻めたはお前達であろうが」


 謁見の際に使う、大仰な話し方で首をかしげる。人が足元にも及ばぬ美貌は笑みをたたえ、舞い上がる純白の髪と闇を抜く白い肌が目を引いた。満月まであと2日の明るい月光が黒い翼を照らし出す。


 明らかに魔族、それも上位の魔族だとわかる態度で威嚇する。


「知らぬっ」


「知らぬでは通らぬよ。我が居城へ偽の勇者を送り込み、眷属の子狼を攫い、我が領地へ火を放った。この代償は安くないぞ」


 くつくつ笑いながら、右手を掲げる。その手を目指して雷が落ち、天と彼の間に美しい光の柱が立った。上空に雲がない空から放たれた雷は、まるで月光を凝縮したように見える。落雷時の激しい音がバリバリと響き渡った。


 無造作にその右手で彼らを指差す。まずは砦の上に掲げられた王国の旗を焼き落とした。久々で加減を誤ったのか、後ろの教会らしき塔が崩れる。


 やべっ、いきなり街に当たっちゃった。


 内心では焦りながらも、悠然と構えるルシファー。見えにくい位置で闇に紛れながら、アスタロトは苦笑いしていた。しかし咎める気はない。彼は人族排除派の先鋒なのだ。


「次はその砦をもらおうか」


 いちいち予告するのは、容認派筆頭のルシファーが考えた作戦だ。これならば逃げる時間を与えてやれる。そんな気遣いを無視して、魔法使いが光を放った。浄化の光がルシファーとリリスを照らし出す。


「ルー、きらきらぁ」


「ん、綺麗だな」


 凶悪な笑顔を引っ込めて、リリスに柔らかい笑みを向ける。以前みた花火だと勘違いしたリリスが無邪気に光へ手を伸ばした。人族であるリリスは完全無害なはずだが、念のため薄い結界を張っておく。


 ちなみに浄化の光はアンデッド系に効果が高いが、残念ながら魔王に対して効果は皆無だ。穢れを纏う一部の魔族ならば火傷を負う程度の魔法だった。後ろのアスタロトもしっかり結界を張っている。


 有能な部下の心配は無駄なので省いたルシファーが、ひらりと右手を振った。すでに雷を落とした手が揺れるだけで、浄化の光はかき消される。魔力で上書きした光をみた魔法使いが、次の手を打った。

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