魔王様、溺愛しすぎです!
51. ゆっくりしすぎました
「なに、この羨ましい状況。リリスから抱きついて頬ずりとか……あれか? 毛皮か? 毛深ければいいのか」
ぶつぶつと不審なことを呟くルシファーだが、ひとしきり撫でると満足したリリスがのけぞった。慌てて抱き締めて身体を密着させると、ぎゅっと小さな拳に襟を掴まれる。先ほどから眠かったのもあり、ぐずり始めた。
「やぁ……るー、るー」
「はいはい。抱いててやるから寝んねしろ」
慣れた仕草で寝かしつける主の姿に、セーレは疑問の眼差しをアスタロトへ向けた。先ほどから近くの魔狼を椅子代わりにして寛いでいる彼は、フェンリルの視線に気付くと肩を竦める。
「見てのとおり、すっかりお気に入りでして。我々も手出しさせてもらえません」
一時期は甘やかしすぎてどうなるかと思ったが、ベールの機転で保育園へ通わせて方向修正を行った。苦労は尽きないが、最近リリスに対して周囲の反応が変わってきた。にこにこよく笑う彼女に対し、可愛いと評判が急上昇中なのだ。乱暴な行為が落ち着いたのも影響しているだろう。
「飽き性の我が君が……1年以上も」
「なんだ? お前ら失礼だぞ」
憮然としたルシファーの言葉に、アスタロトは平然と言い返した。
「今までの行動を省みてください。初代セーレの時なんて2ヵ月もたなかったでしょう」
「……そうだっけ?」
とぼけるルシファーは、腕の中で寝入ったリリスにキスを落とす。
「ところで我が君、今回は人族の都を落とすと聞きましたぞ」
「いやいや、都じゃなくて砦な。あと後ろの街か」
都だと人が多くて被害が大きくなり過ぎる。以前の偽者勇者騒動もあるが、あまり事を荒立てる気はなかった。どうせあと数年で勇者が現れるに決まっている。決着は勇者とつければ済む話なのだ。
「セーレ、攻め込む準備は整ったのでしたね」
ぐるりと見回した先に魔狼が少ない。どうやら配置についているらしい。ルシファーも同様に見回すと、残っていたセーレを撫で回した。
「お前は本当に真面目だな」
「我が君が一族のために動いてくださるのです。協力は当然です!」
「初代はもっとルーズだったぞ」
苦笑いしながら、よくじゃれついて森を破壊した初代セーレを思い出す。なぜか彼はルシファーにもらった名を大切に息子へ引き継いだ。そのため、2代目の息子に名付けなかったほどだ。いつの間にか慣習となり、フェンリルの総領が『セーレ』と呼ばれるようになった。
「この戦が終わったら、息子に跡を譲るつもりなのです。その際は」
「わかってるよ。オレが息子にセーレと名付ければいいんだろ? もう7回目か」
代替わりのたびに、儀式のように親子揃って顔を見せるフェンリル達を思い出し、ルシファーがからりと笑った。
「お前の息子は凄いな。オレの顔を踏みつけたぞ」
「は? ……ご無礼を」
詫びようとしたセーレの尻尾がくるりと巻かれる。耳がぺたんと垂れた姿は、図体が大きいだけに気の毒になるが、どこか可愛らしい。
「あれは陛下が悪いのでしょう。そろそろ動きますよ。日が暮れてしまう」
眉をひそめたアスタロトの指摘に上を見上げれば、確かに日が傾きかけていた。わかったと動き出したルシファーの腕で、リリスがごしごしと目を擦る。
「リリス、起きたのか?」
「ルー、アシュタ、わんわん」
ルシファー、アスタロト、セーレの順に指差して得意げなリリス。微笑ましい仕草に頬を緩ませたルシファーだが、「なんでオレだけルーのままなんだ?」と変化がなかった呼び名に複雑な思いを噛み締めた。
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