魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

31. 尊敬した過去? きっぱり黒歴史です

「……陛下、私は少なくとも……玉座の間であなたを見直したのですよ、本当に」


 項垂れたアスタロトの背を、よじよじとリリスが登っていく。最近腕の力がめっきり強くなり、ハイハイが出来るようになった彼女は、いろいろなモノによじ登ることに嵌っていた。そう、モノが「者」だったり「物」だったりするだけの話だ。


 同じ部屋で謹慎すれば見張りが要らないと主張したルシファーの所為で、アスタロトは最大のピンチに面していた。


 魔王の配下である貴族は様々な種族が集う。国政がかたよらぬよう、人口の少ない種族であっても代表を送り込むことが決まっていた。そのため貴族の数が多い。そして多種多様な種族の中に、角と蝙蝠の翼を持つ種族がいた。ヤギのような形状の角が2本、淡い金髪の間から生えている。


 何を隠そう、アスタロト本人である。吸血鬼系統で、他者の魔力を吸って生きながらえる種族だった。この種族にとって角は命より大切な誇りなのだが、その角に興味を持ったリリスが必死に山登りならぬ「アスタロト登り」に夢中なのだ。


 普段は魔力を抑えるため角を消しているが、たまたま気を緩めたアスタロトの角に気付いたリリスが騒いだ。人の1歳ならば話始める時期だが、魔力が大きすぎる生き物は成長が遅い特性がある。リリスも当てはまるらしく、最近ようやくハイハイや擬音による意思表示が始まったばかりだった。


「だぁっ。アー!!」


「知ってるけど……ああ、喉が痛いなぁ……ご飯を食べるのも辛くて」


 脅しながらリリスに角を触らせろと要求する主君に、アスタロトは心の中で叫んだ。本当に反逆して、その首が痛まぬよう斬り落としてやろうか! と。しかし真面目な彼は、結局断りきれない。


「触るだけ、ですからね」


「大丈夫、折ったりしないよ。可愛い可愛いリリスだぞ」


 首に巻いた包帯を見せつけながら、蕩けそうな微笑を浮かべるルシファーの視線は、愛し子に向けられていた。今の言葉がフラグにならぬよう祈る。


 陛下の言う『可愛い可愛いリリス嬢』が、城下町で悪魔と呼ばれていたんですよ。


「私は、リリス嬢心配してるんですけどね」


 溜め息をついて、リリス嬢に腕を回した。仕方ないのですこしだけ触らせて、すぐ終わりにしよう。そう考えたアスタロトに抱き上げられ、リリスは嬉しそうに笑った。それはもう花が咲くような満面の笑み。さすがのアスタロトも見惚れた。


「アー!」


「リリスをたぶらかす気か?」


 リリスが手を伸ばして角の先に触れたところで、上からおどろおどろしい声とともに、ポキンと間抜けな音がした。痛みはない。リリス嬢の微笑みに目を奪われたアスタロトの手から、ルシファーが険しい顔でリリスを引き剥がした。


 どちらかといえば、リリスがアスタロトを誑かしたのだが……そんな事実をルシファーが認めるはずもない。頬ずりして、リリスに囁いた。


「他の男の腕に抱かれるなんて、1000年早い。パパは許さないぞ。リリスぅ」


 顔中にキスを降らせる親バカ魔王へ「リリス嬢の寿命より長くないですか?」ともっともな指摘をする。そして、無邪気に手を振るリリス嬢へ手を振りかえして動きが止まった。


 右手は何も持っていない。パーの状態だが……左手に握っている、は?


 牙のような形の、先端が鋭く尖った何か。


 己の手が震えている。そっと伸ばして角の先に触れると……先端がなかった。そう、角の一番尖った先っぽが平らになっている。大きさ的にリリスの小指くらいだろうか。


「へ、へいか……つの、え? つのが……」


 突然片言になったアスタロトに怪訝そうな顔をしたルシファーだが、必死に角を指差すアスタロトの言わんとする意味を理解した。


「あぁーその、それはそれで格好いいぞ?」

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