魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

29. 悪魔の正体みたり!

「話を戻しましょうか」


 ブリザードを背負ったアスタロトの声に、魔族たちは一斉に背筋を伸ばした。八つ当たりされてはたまらない。


「よかろう、アスタロト大公。悪魔とやらの対処だったか」


 取り繕ったところで、リリス相手に地が出たのだから遅い。それでも表面上は威厳のある魔王ルシファーへ、報告書の続きを平然と読み続けるアスタロト大公。ベルゼビュート大公はまったく関与せずにそっぽを向いているし、ベール大公はルキフェル大公を抱き上げたままだった。


 あの話しの後でもルキフェルを下ろそうとしないベールは、ある意味、一本太い筋が通っている。大したものだと呆れながら、他の公爵や伯爵位の魔族は耳を傾けた。


「悪魔は常に白い衣を纏い、すれ違いざまに髪を引き抜いたり、噛み付いたりするそうです。被害者から事情を聞いた際、歯型も採取しました。こちらです」


 報告書に添付された資料を差し出す。ルシファーが魔法で引き寄せた資料に、牙がある小さな歯型が描かれていた。


「歯形は、耳に噛み付かれた狼獣人に協力してもらいました」


 狼って、噛む側だよな。そんなルシファーの心境が駄々漏れの表情は、複雑そうだ。加害者じゃなく被害者になった狼獣人の気持ちを、真剣に聴取してみたい好奇心が疼く。


「その者から話を聞けるか?」


「やめてください。トラウマになっていますし、何よりあなた様が聞くとイジメです」


 付き合いの長いアスタロトは、ルシファーが何に興味を持ったか見抜いて止める。腕の中のリリスが、資料を引っ張って覗き込んだ。


「ん? リリスも興味あるのか、賢いな」


 新しい玩具だと思ったんじゃないですか? アスタロトの冷めた眼差しを他所に、リリスは涎だらけの手で資料を掴んで噛み付いた。


「陛下、大切な証拠品です。返してください」


「なんだ、まだ複製してないのか? しょうがないな」


 偉そうに文句を言いながらリリスに三つ編みを握らせ、その隙に資料を取り返す。この辺の手腕は、ここ1年真面目に育児をした成果といえた。もちろん、魔王の仕事は育児ではない。もっと大事な仕事は机の上に積まれたままだった。


「はあ……まったく。最初の報告が上がったばかりで……………」


 ふわふわ風に乗って戻された資料を受け取ったアスタロトの動きが止まる。完全に時間がとまった同僚を不審に思ったベールが近づき、ルキフェルと資料を覗いた。そして彼らの刻も止まる。


「どうしましたの?」


 さすがに見て見ぬフリができなかったベルゼビュートが回り込み、目を見開いて固まった。


 4人の大公が動けなくなるような術が!? 騒ぎになりそうな広間で、溜め息をついたルシファーが立ち上がり、周囲のざわめきを制した。


「何があった、アスタロト」


 抱いたリリスが三つ編みに指を突っ込んでいるが、無視して声をかける。ようやく束縛から逃れたベールが気まずそうに答えた。


「陛下、城下町に出現した悪魔の正体がわかりましてございます」


「それは重畳ちょうじょう。民も安心するだろう」


「リリス嬢を連れた陛下、ですね?」


 断定したアスタロトの声に、広間の空気が凍りついた。シーンと耳に痛い沈黙が降り積もり、幾重にも重なっていく。逃げ場のない玉座の間で、最初に動いたのは魔王ルシファーだった。


「いやいや、それはないわ」


 苦笑いしてリリスの黒髪を撫でる。こんなに可愛いリリスを捕まえて、悪魔とか。どの口がそんな非道なことを言うのだろう。


「資料を齧ったリリス嬢の歯型が、証拠品と一致しました」


 突きつけるように目の前へ翳した歯型資料が、ぼっと火を噴いて燃え上がる。咄嗟に水を作ったアスタロトが手ごと資料を水へ突っ込んだ。火傷も周囲への延焼もない。


「証拠が消えたようだ。本日の審議はここまでとす…」


 最後の「る」を言い終える前に、魔王ルシファーは転移したアスタロトに剣を突きつけられていた。

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