魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

28. 魔族の心がひとつになる瞬間

 純白の衣を纏った悪魔がいる。


「こんな噂を、城下町でよく聞きます。民が恐れていますので……」


 アスタロトは玉座に座る魔王ルシファーへ報告する。執務室か玉座がある謁見の間にいることが多いルシファーの足元で、リリスが積み木で遊んでいた。いつもと違い叩きつける遊びではなく、大人しく積み重ねている……魔王の服の裾に。


「悪魔? 正体不明という意味か?」


 魔族ではなく、悪魔。それは残虐非道で無慈悲な輩につけられる、一種の称号であり呼び名だった。大きく首をかしげたルシファーの三つ編みも揺れる。


「陛下、すこし話がれても構いませんか?」


 報告書から目をあげ、側近は溜め息をついた。問いかける姿勢を作っているが、実際には強制力がある命令に近い言葉だ。一瞬眉の端を動かしたルシファーだが、尊大な態度で玉座に寄りかかったまま頷く。


「その髪型はどうなされました?」


「リリスがいじるのでな、ベルゼビュートに頼んだ」


「なるほど。では足元でリリス嬢が服の裾に積み木を積んでいるのは?」


「構わぬ。余が許した」


 こんなときだけ、しっかり魔王の威厳を保っている。本来、民の前で見せるべき態度なのだが……呆れ顔で顳を押さえたアスタロトは、斜め後ろで控えるベールに視線を向けた。彼は礼儀作法はもちろん、様々なトラブルに対応する参謀役だ。魔王のこの状況に、真っ先に文句を言う存在だった。


 そう、魔王ルシファー本人ではなく……側近のアスタロトへ向けて。


「ベール大公閣下、この状況になにかご意見は?」


 後でネチネチ嫌味を言われるくらいなら、魔王ルシファーへ直接ぶつけてもらおうと考えたアスタロトの声に、ベールは一礼して前に進み出た。


「陛下、発言をお許しください。公的な場にリリス嬢を伴うことをおやめいただきたい。国政の頂点である会議の秩序が乱れます。陛下のプライベートは極力尊重いたしますが、玉座の間は公務の場です」


 もっともな意見に、ルシファーは素直に頷いた。


「そなたの進言は一理ある。だが――『お前が言うな!』という状況である自覚はないのか?」


 途中で地が出たルシファーだが、取り繕った言葉遣いで締めくくる。アスタロトの目に映る光景は、どっちもどっち。大差ない状況だった。


 ルシファーはリリス嬢を伴っているし、ベールは右腕に常にルキフェルを抱き上げている。


 一応ルキフェルは大公の一人なのだが、幼子ルキフェルは甘やかしてくれる保護者ベールの存在に、すっかり成長を止めてしまった。明らかにベールの失態だ。成長しなければずっとベールが隣にいて、大事にしてくれる。幼子はそう学んだのだから。


「逆に私の失態があるからこそ、陛下に進言しているのです。リリス嬢がルキフェルのように成長を止めても構わない、と?」


 その瞬間、ルシファーは僅かに身を起こし頷いた。


「望むところだ!」


 言い切ったよ、この魔王バカ


 口に出さないが、アスタロトを筆頭に玉座の間にいたほぼすべての魔族の思考がシンクロした。自己主張が強く、我が侭でまとまりがない種族であるはずの魔族が、ここまで気持ちをひとつにした瞬間があったであろうか、いやない!


「あぁ…っ! ルー、ばぁ!!」


 この場で唯一人の人族であるリリスが空気を読まずに怒り出した。みれば、さきほどルシファーが動いたせいで、裾の上に積んだ積み木が崩れている。


「ごめんな、リリス。全部アスタロトおじ……お兄ちゃんが悪いんだぞ」


 人のせいにしながらも、途中で言い直したルシファーがリリスを抱き上げる。耳や首筋に噛み付いて怒りを発散する凶暴な幼児の姿に、魔族は一斉に目を背けた。


 再び、一部を除いた魔族の心がシンクロする。


 ――おじちゃんと呼ばせないんだ。○万年は生きてるくせに……。

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