魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

21. 魔王様は真面目にお仕事もこなします

 リリスを取り上げるなんて、虐待だ! 意味不明の主張を振り翳したが、ベールとアスタロトの2人がかりで言い負かされた。憮然とするルシファーの腕の中で、リリスはすやすや眠っている。


 玉座に腰掛けたルシファーが赤子を左腕に抱くのは、もう恒例行事として認識されつつあった。今日も謁見を求めた上級妖精族ハイエルフの使者は、微笑ましそうに見守るだけで言及しない。


「街道と領地の報告は以上です。最近になり人族が領土を広げようと森を開拓しています。どこまで放置してよいものか……」


 判断に困る。エルフ特有の長い耳をぴくぴく動かした女性は、薄い緑色の瞳を細めた。同色の髪は長く、膝をついて傅く彼女の足元で床に届くほどだ。


 彼女らが膝近くまで伸ばすのは、ハイエルフ特有の事情だった。髪が長い方が森の声を聞き取りやすい。そんな伝説が残っていた。事実、髪の長いハイエルフは森と同化する術に長けている。


「人口が増えたと聞く。ある程度の開拓は仕方あるまい」


 斜め後ろに立つアスタロトが差し出した資料を眺める。人族は繁殖力が高く、とにかく子供が生まれるのだ。しかも魔力が低く生存率が低い。成人できるのは半数ほどだった。


「それが、緩衝地帯を抜けた魔の森にも手をつけておりまして。長老などは侵略だと騒いでおります」


 魔族や妖精族といった他種族と直接接しないよう、魔王によって設けられた緩衝地帯が存在する。人族が緩衝地帯の森を開拓する分には問題ないが、魔の森は様々な種族が暮らす領地だった。


 ハイエルフから見た人族は、野犬の集団のような感覚だ。野蛮で未成熟、育てきれないくせに大量の子供を季節構わず生みまくる。その野犬らが自分達の領分に入り込もうとしているなど、到底許せない。彼女の主張は当然だった。


「魔の森か。それは侵略に近いな」


 差し出された地図をぽんと右手で放って、空中で展開させる。広がった半透明の地図に描かれた領土の区分は、種族によって色分けされていた。


「どの辺りまできた?」


 尋ねられたハイエルフの使者、オレリアが一礼して立ち上がる。彼女は以前にルシファーが拾ったハイエルフの子孫だった。そのためハイエルフからの使者に、必ずオレリアが加わる慣例だ。


 地図を指差し、魔力で上書きした。赤い色が一気に2倍ほどに広がる。その端が妖精族や魔狼達の領土にかかっていた。


「こちらが現在把握している状況となります」


 明らかな侵略行為、領土侵犯だ。世界のほとんどは魔王の管理下にある。自治領の形で神龍シェンロン翼竜ドラゴンなど、古い種族の治める土地が残る程度だった。人族に自覚があるかわからぬが、赤色で示した彼らの領地も魔王領の一部なのだ。


 領土内でのトラブル解決は、君主である魔王の仕事だった。


 人族相手なら大仰な物言いを心がける魔王だが、付き合いの長いハイエルフには多少砕けた口調で応じる。寝返りを打ったリリスの顔に黒髪がかかるのを、指でそっと払いのけながら溜め息を吐いた。


「仕方ない、人族を押し戻すとするか」


 魔の森へ手を出した理由は、先日の勇者もどきでも分かるとおり、人族が多少なりと魔法を扱えるようになったためだ。大した威力はなくとも、森を焼いてひらくのに役立つだろう。


 今までは勇者と賢者くらいしか魔法を扱えなかった。しかし称号を生まれ持たぬ人族にも、魔法の恩恵に預る者が現れたと考えられる。

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