魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

14. 圧倒的な力の差は卑怯だそうです

「これが勇者とやらか」


 ばさりと大きく黒い翼を広げて登場した魔王は、城門の上に陣取った。悪役を自認する魔王ともなれば、高いところから勇者を見下ろすものだろう。それが玉座であったり城門であったり、場所が多少変化したとしても、基本的にバカと何とかは高いところが好きだ。


 冷めた感想を抱くアスタロトが後ろにつき従う。ベールとルキフェルは他の地方へ出向いて留守、ベルゼビュートは賭けがバレて謹慎中だった。


「魔王様、アスタロト様! 彼らです」


 城門を守る魔族の兵が槍を片手に立ち塞がる。勇者は人族から生まれる存在で、必ず仲間を連れてくる。それは魔法使いや騎士だったり、稀に妖精族を連れているが……。


 今回の編成は5人だった。意外と多い。集団の中の、おそらく先頭に立つ若者が勇者だと思われた。


 勇者、魔法使い、騎士が2人、なんだか分からないお姉さんが1人。最後の女性は神官服を纏う姿から、回復魔法が使えるのか。


 ばさりと翼を広げて羽ばたき、ゆったりと兵の前に降り立った。


「陛下、危険です」


「勇者なら余の敵であろう」


 兵の制止を振り切って顔を上げると、5人はひそひそと相談を始める。溜め息を吐いて、ぐずるリリスにおしゃぶりを咥えさせた。揺すってあやしながら様子をみる。


「お前が魔王か」


「いかにも」


 側近のアスタロトに散々注意されたため、もったいぶった話し方を心がけた。普段の軽い感じで話したら、勇者を倒した後に側近アスタロトとベールに攻撃されたので、出来るだけ偉そうに聞こえるよう振舞う。


「戦うなら場を設えるが?」


 いつでもいいぞと上から目線で余裕をかます。――左腕に赤子を抱いて。慣れた様子であやす魔王は気付いていないが、外から見ると威厳もへったくれもない。


 アスタロトが城門で崩れ落ちた。


「その前に質問をしたい」


 頷いて待つルシファーへ、勇者が口を開いた。


「その……赤ん坊は、いったい」


「気にするな。余の養い子だ」


「戦うなら置いてきた方が…」


「問題ない。余の勝ちで終わる」


 一刀両断した魔王に、騎士達が剣呑な眼差しを向ける。神官らしき女性は困惑しているらしい。魔法使いに「赤ちゃんがいるのに攻撃を?」と話しかけた。フードで顔を隠した魔法使いは女性で、やはりリリスが気になるようだ。


 女性達の責める眼差しと、騎士達の早く戦おうという無言の促しに、勇者は困った顔でルシファーへ提案した。


「赤ん坊がいると、こちらは攻撃が出来ない。誰かに預けてもらえないか?」


 至極まっとうな意見だったが、ルシファーは眉を顰めて首を横に振った。


「絶対に嫌だ」


 黒い翼を器用に畳んで消すと、右手を翳して複数の結界を張った。その結界を中からコンコンとノックして見せる。


「お前らの攻撃はこれで防げる。問題はない」


 苛立ちから口調が崩れている。これ以上はキャラ崩壊の危機と判断したアスタロトが、魔王の結界の外へ転移した。


「陛下、リリス嬢は私がお預かりしますから(遠慮なく戦ってらっしゃい)」


「嫌だ(渡すわけないだろ)」


「……遊びではありません」


「い、や、だ」


 区切って絶対の拒否を示す姿は、魔族の頂点にたつ王というより我が侭な子供だった。挙句、お互いに心の声が駄々漏れである。顔を見合わせる勇者と女性達を他所に、騎士達は剣を抜いて振りかぶった。


「倒したあと、赤ん坊を保護すればいいだけの話だ!」


「死ね、魔王!」


 勇者を無視して飛び掛ってきた騎士2人が、圧倒的な力の差で結界に阻まれる。そもそも魔王と対である勇者でもない彼らの攻撃が、ルシファーに通用するはずがない。


「卑怯だぞ」


「いや……力不足をこちらの所為にされてもねぇ」


 ついに魔王ルシファーの口調が崩れ、素が顔を覗かせた。

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