魔王様、溺愛しすぎです!

necoaya

01. 散歩すら自由に出来ないのか 

 魔の森と呼ばれる樹海を背に、銀龍石で作られた古城が建っている。森が護るように包む城は、『魔王城』と呼ばれていた。人族が住む地から離れた魔王領の奥深く、朝日が昇る気持ちよい朝を引き裂く無粋な声が響き渡った。


「死ね! 魔王!!」


 魔術師が最高の炎を練り上げて叩きつける。巨大な炎の塊が飛来し、魔王城の前に立つ黒衣の青年に襲い掛かった。純白の髪とシミひとつない肌に銀の瞳が輝く美貌の青年は、物憂げに左手を振る。


「散歩に出ただけで、オレは攻撃されるのか」


 溜め息を吐いた青年の数メートル上で、魔法により生み出された炎は消えた。散るのではなく、まるで存在しなかったように忽然こつぜんと消えたのだ。圧倒的な魔力差で、魔法を打ち消した魔王は大きな溜め息を吐いた。


「非礼にも程がある」


 ぼやきながら、「ばかなっ」と定番の言葉を吐く魔術師を指差す。その瞬間、魔術師も消えた。城へ向かい丘になっている草原を、朝日が照らし出す。


 遥かかなたへ転送した人族の悲鳴も届かない。無事に森の中で着地できたか、確認してやる必要も感じなかった。礼を欠いた輩に配慮など無用だ。


「……爽やかな朝の空気が台無しだ」


 ここ数十年の日課である朝の散歩を切り上げる。むすっとした態度で吐き捨て、ローブを翻したところで、彼は足を止めた。斜め後ろの何もない空間へ声をかける。


「アスタロト、いたなら顔を出せ」


「失礼しました。でも邪魔をしたら怒られますからね」


 あなた様の邪魔をする気はなかったのですよ。そう告げる青年は消えた魔術師と対照的に、何もない空間から浮かび上がる。半透明の姿が色を濃くして、足元に影が出来た。


「残りは任せる」


「かしこまりました」


 一礼したアスタロトが残忍な笑みを浮かべた。波打つ金の髪を風になびかせ、アスタロトは空中を右手で握りこむ。その手の中に現れたつかから剣が生えていく。魔力によって生成された刃が、虹色の光を放った。


「ルシファー様のお言葉に従い、侵入者を排除しますか」


「ああそうだ。アスタロト、そこらに死体を残すなよ」


「承知しております」


 魔王という名称から人族が想像する魔王城とは、殺された人々の髑髏どくろや骨が転がる石造りの殺伐さつばつとした城だろう。だが目の前にある城は、確かに石造りが基本だが人族の城とほとんど変わらない。古城に分類される長い年月の証として、つたこけに覆われている程度だった。


 城の北側にある大きな森に溶け込んで、風景としては森の古城だ。おどろおどろしい感じは微塵みじんもなかった。古いながらも手入れの行き届いた城へ向かって歩き出す。純白の髪が光を弾いて銀色に光っていた。

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