ディスカウントショップで兄がわたしを18禁コーナーに連れていこうとしています。

雨野美哉(あめの みかな)

「そして、ようやくわたしたち家族の本当の物語がはじまる。②」

「まま、ちょっと、せいたいだけじゃなくて、からだもかりるぞ。ままにみせたいものがあるからな」

りさちゃんはそう言って、わたしの体を操り始めると、リビングにある赤いノートパソコンの電源を入れました。

「ままは、ぱぱが、りさたちのまえのままにおくるつもりで、よやくちゅうもんしたぷれぜんとの、ぎふとらっぴんぐにつけた、めっせーじかーどのないよう、ちゃんとよんでないだろ」

そのノートパソコンは、おにーちゃんのお古をわたしが三年前にもらったもので、いつもリビングにありました。

OSがWindows 7で、Google Chromeを開くと、Windowsの対応が終了したから云々というメッセージが出て、りさちゃんは、


りさちょっとイライラした。

「これをみろ、まま」

りさは、ままの頭の中にある、りさたちの場所だけじゃなくて、ままの頭自体の記憶にもアクセスできる。
だから、それくらいのパソコンの使い方は知ってた。

よく使うサイトは、ブークマークツールバーに並んでいて、ジャングルじゃなくてアマゾンにはすぐたどり着けた。

アマゾンって、奥地に未知の生物がいたりして「藤岡弘、探検隊」がよく探しに行ってたところなのに、いつの間に通販サイトになったんだ? りさには謎すぎる。

あと、アマゾンにはいけたけど、注文履歴をどうやって見るのかまではわからなかったから、あみにまかせた。


――ちーちゃん、お誕生日おめでとう。
プレゼントを贈るのはこれで最後にします。
ぼくは、みかなといっしょに生きていくことに決めました。
だから、これで本当に最後。
本当にありがとう。


「めっせーじかーどは、もじすうがかぎられてるからな。さいしょはもっとながかったぞ。

『ちーちゃんが、ぼくがいまでもちーちゃんをみかなのかわりにしようとしてるのがわかるから、やりなおせない、と言ってくれたから、ぼくはようやく仕事をやめて、みかなのところへ帰ることができました。だから、本当にありがとう』

だったかなー。

みかな、ぱぱは、ちゃんと、みかなをえらんだんだぞ。

ぱぱはな、めんどくさくなると、すぐにだいじなものをぜんぶほうりなげて、らくになろうとする。
それから、なんにちかたってから、じぶんがしたことをこうかいする。

ぱぱのわるいくせ。

ぱぱ、いま、ぱぱがてばそうとしてるものは、ほんとにてばなしていいものかどうか、よくかんがえたか?

かよはともかく、みかなだけはぜったいにてばなしたらだめなことくらい、りさでもわかるぞ。

みかなをてばなさいってことは、かよのこともてばなさいってことだぞ。

ぱぱは、いま、ぱぱがずっとのぞんでたものを、かぞくをてばなそうとしてるんだぞ。

いいのか? よくないだろ?」


みかなは目が見えなくなってたけど、りさが体を借りるとちゃんとみかなの目は見えてた。

だから、りさはみかなの体で、顔で、目で、ぱぱの顔をしっかりと見た。

「そうだな……よくないな……
みかなのことも、佳代ちゃんのことも、りさたちのことも、全部ぼくがずっとほしかったものだ。
ようやく手に入りそうなんだ。
ぼくが、ぼくらしく、ぼくの望む生き方で生きられるかもしれない、たぶんこれが」

ぱぱは、りさから目をそらさなかった。


「さいしょで、さいごのちゃんすだぞ」


「あぁ、ありがとうな、りさ」


「でもな、ぱぱ。
りさたちのことはもういい。

りさたちはもうじゅうぶんすぎるくらい、ぱぱにあいされた。

りさたちは、ぱぱが、いちばんさいしょのままが、りさたちをみつけてくれなかったら、こんなふうにうまれてくることもできなかったからなー。

りさたちは、ぱぱのむすめとして、うまれてくることができて、よかったぞ。

ぱぱがずっとなやんでた、ひとをあいする、あいされるってこと、ぱぱはさいしょからこたえがでてたことわかってたか?

りさはいつになったら、じぶんがりさたちのことをちゃんとあいしてて、じぶんがりさたちからどれだけあいされてるかきづくのか、しんぱいだった。

ぱぱは、ひとをちゃんとあいせる。
おなじくらい、あいされてる。

りさたちはきづかせてあげられなかったけど、みかなやかよがきづかせてくれた。

だからな、ぱぱは、これから、みかなとかよを、りさたちいじょうにあいしてあげて」


「りさ? いなくなったりしないよね?」


「ぱぱ、りさたちは、これから、みかなのからだをなおしてあげなきゃいけない。
あみもじゅらもしほもめいも、みんなでちからをあわせて、みかなをもとにもどす。

たぶんそのあと、みかなはげんきになるけど、りさたちはいなくなる。
りさたちはいなくなるけど、ぱぱにはみかながいる。かよもいる。
だから、きっとだいじょうぶ。

つぎ、うまれてくるときは、ちゃんとにんげんにうまれてくるな。
みかなか、かよか、どっちがぱぱのこどもをうんでくれるかわかんないけど、おんなのこだったら、それはりさたちのだれかのうまれかわりだからな。

りさだとおもったら、りさ。かんじは、梨沙。
あみだとおもったら、亜美。
しほだとおもったら、紫帆。
めいだとおもったら、芽衣。
じゅらだとおもったなら、ジュラルミンはかわいそうだから、珠理(じゅり)にしてあげて」


「男の子だったら?」

「しらん。ぱぱがすきななまえをつけろ。
くうが でも、あぎと でも、りゅうき でもなんでもいいけど、五五五でふぁいずってよませるのだけはやめとけ」

「あぁ、わかった。雄介か映司にするよ」


「たぶんきっとまたすぐにあえるから、おわかれはいわないぞ」


「うん、またね、りさ。あみ。じゅら。しほ。めい。
ぱぱも、みんなのぱぱになれてよかった」


そして、りさちゃんたちはわたしをもとにもどしてくれると、本当にいなくなってしまいました。

体だけをわたしたちのベッドの枕元に残して。

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