ディスカウントショップで兄がわたしを18禁コーナーに連れていこうとしています。

雨野美哉(あめの みかな)

「独白① おにーちゃんの場合。」後編

佳代ちゃんもみかなも、とっくに気づいてたみたいだけど、ぼくはずっとみかなのことが、妹としてだけじゃなくて、異性として、女の子として好きだった。
みかながぼくのことを好きでいてくれてることもわかってた。

でも、それは許されないことだから。
実の兄妹は結婚できないから。
近親相姦は、生まれてくる子どもの血が濃くなってしまうから。

だからぼくは、みかなのことを諦めなきゃいけないと思った。
みかなにも、ぼくのことを諦めてもらわなきゃいけないと思った。

だから、相手は誰でもよかったんだ。
みかなの代わりなんて、どこにもいないんだから。


ぼくの彼女だった女の子たちはね、みんな、誰からも一度も優しくされたことがないような子ばかりだったんだ。

ぼくは、自分でも最低だと思ってるし、クズだとすら思ってるんだけど、そういう優しくしてあげれば簡単に落とせるような子ばかりをSNSで探して、うまいこと連絡先を聞き出しては、会いたいと思わせるようにして、はじめて会ったその日にセックスできるような雰囲気に持っていっては付き合ってた。

ぼくの頭の中にはね、どうやったらSNSで知り合った女の子からうまく連絡先を聞き出して、会う約束をとりつけることができるか、マニュアルみたいなものが出来てるんだよ。
知り合ってから一ヶ月もあれば十分なくらい、そのマニュアルを元にして動けば簡単なんだよ。


彼女たちは誰からも優しくされたことがないような子たちだから、もちろん誰とも付き合ったことがなくて、付き合うっていうことがよくわからなかったんだろうね。

ぼくの職場に毎日のように顔を出しては、ぼくのまわりにいる人たちに彼女アピールをしたり、仕事の邪魔になるからやめてって注意してもやめてくれなかったりした子もいた。

ぼくと同じシフトに、アルバイトの女の子がいるだけで嫌味や小言を言ってきたり、その子から上司からのセクハラについて、ぼくに相談のLINEが来るだけで不機嫌になったりする子もいた。

バレンタインに職場で義理チョコをもらうだけで怒ったり、ホワイトデーにお返しをすればまた怒る子もいた。

職場の飲み会すら女の子がいるなら行くなとか言い出したりする子もいたよ。

あとは、スマホを勝手に見たりとか、これはみんな大体するね。


ぼくは、みかなに教えてもらうまで、自分は人の愛し方がわからない人間だと思い込んでたんだ。

セックスでしか愛情を表現できなくて、愛されてることも、生きていることすら実感を得られなかった。

セックス以外のぼくの愛し方は、欲しがってる物を買ってあげたりとか、かわいいだなんて一度も思ったことがないような彼女のことを、かわいいかわいいって心にもないことを言って褒めて、わがままをなんでも聞いてあげて、ちやほやして、甘やかす。
そういう愛し方だったんだ。

だから、みんな自分はかわいいんだって、世界は自分を中心に回ってるんだって勘違いしていっちゃったのかな……
どんどん言動がおかしくなっていったよ。

でもね、ぼくみたいな男を相手にしてくれる女の子は、そんな子しかいなかったんだ。


正直、今でも自信がないんだ。

彼女だった女の子たちを、そんな愛し方しかしてこなかった自分が、ちゃんとみかなを愛せているのか。

でも、みかなは、セックスをしなくても、ちゃんとぼくの愛は伝わってるって言ってくれた。

ぼくは、自分のことは信じられないけど、みかなのことは信じられるから、だから、ぼくはちゃんと人を愛せる人間だったんだなって、すごく嬉しかったんだ。


でもね、ぼくは、佳代ちゃんやみかなに愛してもらえるような男じゃないと思う。

こどもの頃にあんなにつらい思いをして、大人になってからも社会でまともに人間として扱われてこなかったのに、好意をふみにじられたりすることがどれだけつらいかわかっているはずなのに、それなのに人の気持ちがわからないんだ。

平気で人の弱みにつけこんで、好意を踏みにじって傷つけられるんだ。
傷つけてきたんだよ。


佳代ちゃんとみかなは、小学生になるくらいの頃から、ぼくのことをずっと取り合ってたよね。

「お兄ちゃんはわたしなのー」

「ちがうもん、わたしのおにーちゃんだもん」

って。

ぼくはみかなの気持ちには気づいてたけど、佳代ちゃんの気持ちには気付けなかった。

佳代ちゃんはひとりっこだったし、きっとお兄ちゃんが欲しかったんだろうなって。
そんな風にしか思ってなくて、だからぼくにとって佳代ちゃんはずっと妹だったんだ。

だからごめんね、佳代ちゃん。

ぼくは、佳代ちゃんのことを、今まで一度も、異性として見たことがなかったんだ。

だからゆうべ、佳代ちゃんの気持ちを知って、ぼくはすごく申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

いま、ぼくは佳代ちゃんを、妹じゃなくてひとりの女の子として見始めてる。

みかなだけじゃなくて、佳代ちゃんに好きでいてもらえてることが、すごく嬉しいんだ。

ぼくは、昨日みかなに、佳代ちゃんを異性として見たことがない、これからもそういう目で見ることは絶対にない、って言ったばかりなのに。
ごめんね、みかな。

異性として意識し始めた瞬間、目の前にいる佳代ちゃんが弱っていて泣いているのを見て、ぼくのことを何度も好きだって言ってくれるのを聞いて、ぼくは佳代ちゃんを抱きたいと思った。

だけど、必死で我慢した。

佳代ちゃんを抱いてしまったら、みかなを裏切ることになる。
みかなだけじゃなくて、佳代ちゃんのことも傷つける。

そして、ぼくはふたりとも失うことになるんだと思ったら、怖くなった。

みかなだけじゃなくて、佳代ちゃんも、ぼくにとっては、かけがえのない存在なんだ。

ネットで知り合ったどうでもいいような女の子たちなら、すぐに抱けるのに。

みかなを選ぶまで、ぼくはずっとそういうことを繰り返してきたのに。

みかなのことをなかなか選べなかったように、ぼくは佳代ちゃんを抱くことができなかった。

佳代ちゃんを抱いてしまったら、そのときはお互いによかったとしても、ぼくはみかなと佳代ちゃんをふたりとも失うことになる。

たとえ、みかなが許してくれたとしても、佳代ちゃんが許してくれたとしても、ますます自分のことが嫌いになるのがわかったから。

ぼくは、ふたりのことを大切に思っているふたりをしてるだけで、結局は自分のことしか考えてないんだ。

ぼくは、みかなにも佳代ちゃんにも愛されていたい。

今の関係のまま、……違うね、みかなにも佳代ちゃんにも愛されて、みかなだけじゃなくて佳代ちゃんのことも愛して、抱いて……

それを、ふたりが受け入れてくれて、ぼくは何も失うこともなく、これ以上自分を嫌いになることもない……

そんな風に、3人でこの家で暮らせることが、ぼくの理想。

これが、ぼくの本音。

ぼくは、本当に最低で、本当にクズな男なんだ。


あ、ぼく、今になって、気づいたよ。

ぼくは、こうやって本音を話すだけで、佳代ちゃんを抱いてなくても、ふたりを失う可能性があるね。

でもね、それでもぼくは、もしかしたら、みかなと佳代ちゃんなら、受け入れてくれるんじゃないかって、淡い期待を抱いてるんだよ。

普段は悲観的にしか物事を考えられないくせに、こういうときだけ楽観的になるんだよ。

ぼくみたいな人間は、人を傷つけることしかできない人間は、生きていちゃいけないと思う。
生まれてきちゃいけなかったんだって、心の底から思うよ。

ごめんね、みかな。

ごめんね、佳代ちゃん。


ふたりが好きになってくれたぼくが、こんな人間で。

ぼくはやっぱり、ぼくのことが嫌いだ。
殺してやりたいほど、嫌いで憎いよ。



          

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