ディスカウントショップで兄がわたしを18禁コーナーに連れていこうとしています。

雨野美哉(あめの みかな)

「これは、おにーちゃんと佳代ちゃんとわたしの物語」⑤


「みかなが自分のことがどれだけ嫌いだったとしても、ぼくはみかなが好きだよ」

わたしが抱えていた闇について、話を聞き終えたおにーちゃんは言いました。

「前にみかながぼくに言ってくれたみたいに、みかなもちゃんと人の愛し方を知ってるんだよ。
毎日、一日中、ぼくは、こんなにかわいいみかなに、こんなにも愛されて、本当に幸せだって感じてる。

ぼくの愛はちゃんと届いてる?
ぼくがみかなを必要としてるの届いてる?」


「ちゃんと、届いてる……」


「みかながいてくれたから、今ぼくは生きていられるんだよ。
生まれてきたことは間違いじゃなかったと思えるようになったんだよ。
みかなのおかげで、ぼくはもう、死にたいだとか消えたいだとか、そんなことは思わなくなれたんだよ。

ぼくはみかなとふたりでしあわせになりたい。

みかなが不安に思わなくなるまで何回でも言うよ。
ぼくは、みかな以外の女の子を選んだりしない。
みかなしか見てない。

だから、ふたりでしあわせになろう」


おにーちゃんは、そう言ってくれました。

わたしは、それがただただ嬉しくて、また泣いてしまいました。


「わたし、おにーちゃんの妹に生まれてこれて、本当に本当によかった……
おにーちゃんがいなかったら、わたしはきっともう、今ごろ生きてられなかった」

「ぼくもだよ。みかながいてくれなかったら、今生きてないよ」


「おにーちゃん、抱いて。今すぐ抱いてほしい」

わたしのお願いに、おにーちゃんは少し困った顔をしました。

わたしを抱きたくないわけじゃなくて、きっとおにーちゃんはわたしが望むことはすべてしてくれようと思ってくれてるはずでした。

おにーちゃんが困ってるのは、下の部屋に佳代ちゃんがいること。

今えっちをしちゃったら、わたしのあえぎ声を佳代ちゃんに聞かれたり、えっちしてるのを見に来たりするから。


「声、なるべく出さないようにするから。だから、お願い。して?」

わたしは、もう我慢ができなくて、着ていた服を脱ぎ始めていました。

おにーちゃんは、わたしをやさしくやさしく抱いてくれました。


わたしを抱いた後、おにーちゃんはそのまま寝てしまいました。

わたしも隣で寝たかったけど、でも佳代ちゃんがリビングでずっとわたしを心配して待っていてくれていたから、わたしはおにーちゃんを起こさないようにそっと部屋を出ると、階段を降りていきました。


佳代ちゃんはリビングでひとりで飾りつけをしてくれていました。

ひとりで戻ってきたわたしに気づくと、

「みかな? 大丈夫なの?」

佳代ちゃんは今にも泣きそうな顔でそう言いました。
わたしのことをすごく心配してくれてたのが、一目でわかりました。

「うん、もう大丈夫。ごめんね、心配かけて。それに、飾りつけもひとりでやらせちゃって」

そう言ったわたしに、

「わたしこそごめんね。ごめんなさい」

佳代ちゃんも何故かわたしに謝りました。

「佳代ちゃんは何にも悪くないよ?」

わたしはそう言いました。

だって、わたしが勝手に、物心ついたときからずっと、佳代ちゃんに嫉妬してただけだから。
物心つく前からの幼なじみなのに。
わたしの、たったひとりの、大切な友達なのに。


これは例えばの話っていうか、憶測でしかないんだけど……

物心ついたときに、お父さんかお母さんのどちらかしかいなかった人たちから見たら、きっとわたしやおにーちゃんは、親がふたりともいる、それだけで恵まれてると思われちゃうんじゃないかな、って思うのです。

でも実際には、親がふたりいても、わたしもおにーちゃんもふたりから愛情を注がれた記憶がなくて、全部が全部おとーさんとおかーさんのせいじゃないとは思うけど、わたしたちは愛するとか愛されるっていうことがよくわからないまま育って、わたしは優しいパパとママからたくさんの愛情を注がれていた佳代ちゃんがうらやましくてしかたがありませんでした。

だけど、わたしから見たらすごく恵まれた家庭環境で育った佳代ちゃんだって、きっといろんな悩みを抱えていて、もっと恵まれている人たちのことを羨ましがってたりするんじゃないかって。

その、佳代ちゃんが羨ましがるほど、もっと恵まれた人たちも、やっぱりいろんな悩みを抱えていて、さらに恵まれた人たちを羨ましいと思ってる……

わたしは、おにーちゃんのおかげで、そんな風に思えるようになっていました。

だから、佳代ちゃんが謝る必要なんて、どこにもないはずでした。

だけど、佳代ちゃんは言いました。

「わたしね、ひろゆきお兄ちゃんの次くらい、みかなのことわかってるつもりだったの。みかなのお母さんやお父さんよりもね。
みかなが何をされるのが嫌かとか、何をされたら喜ぶのか、笑うのか、とか。
でも、本当に、わたしは、わかってたつもりなだけだったみたい」


「どういうこと?」


「みかなとお兄ちゃんといっしょにいるだけで、わたし、いつの間にか、自分でも気づかないうちに、三年前までの中学生のころに戻っちゃってたみたい。
みかなとわたしでお兄ちゃんを取り合ってたころが、わたし一番楽しかったから」


「佳代ちゃん、今、楽しくないの? しあわせじゃないの?」


「みかなには、わたしはしあわせそうに見える?」


「見えるよ」


「そっか……じゃあ、わたし結構演技上手なのかもね。みかなには見破られてると思ってたから」

そして、佳代ちゃんは言いました。


「わたし、全然しあわせじゃないよ」



          

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