ディスカウントショップで兄がわたしを18禁コーナーに連れていこうとしています。

雨野美哉(あめの みかな)

番外編「わたしを妹カフェに連れていったおにーちゃんが、妹カフェの偽の妹にデレデレになるわけがない。とは限らない」②

「おかえりなさい、お兄ちゃんお姉ちゃん。
ふたりとも今日はここに帰ってきてくれるのはじめてだよね?
わたしは妹のつかさだよ。よろしくね。
今からこのお店の説明をするからね、つかさ説明苦手だけどがんばるから、ちゃんと聞いておいてね」

繰り返しますが、それがぼくたちと妹つかさちゃんとの出会いでした。

席へと案内されたぼくたちはつかさちゃんから、おてふきを渡されて、お店のシステムについての説明を受けたのです。

「ちょっとだけお金がかかっちゃうんだけど、会員になってもらうと、ここに帰ってきてもらってご飯を食べてもらったりゲームをしてもらったりするとポイントが貯まって、貯めたポイントで妹たち全員と写真がとれたり、ゲームをするのがただになったりするんだよ。それから……」

そんな説明を受けながらぼくは、ぼくのことをお兄ちゃんと呼び、ぼくの実の妹のみかな氏をお姉ちゃんと呼ぶこのつかさちゃんという女の子は、一体ぼくにとってどんな存在なのかという命題について思案していたのです。

そして説明を聞き終える頃、ぼくはその命題のこたえを見い出したのでした。

そうか! 一番下の妹なんだ!!
(たぶんぼく馬鹿です)

「……ていう感じになってるんだけど、お兄ちゃんとお姉ちゃん、どうする? 会員になってくれる?」

「もちろんふたりとも会員でお願いします」

ぼくは普段なかなか見せることがない男らしさで、即決を決め込みましたが、まだ店の雰囲気に馴れることができず、緊張のあまり妹のつかさちゃんに対して敬語で話しかけるのでした。

いくつかある「う◯ぎぐみセットメニュー」の中から、ぼくはドリンクだけを頼み、みかな氏は毎度のことながら「なんでわたしだけ……」といやがりましたが、ぼくによって強制的にドリンクとゲームのセットを頼まれてくれました。

ぼくたちはジンジャーエールをそれぞれを頼み、

「おまたせ。はいお兄ちゃん、ジンジャーエールだよ。お姉ちゃんもジンジャーエールおまたせ」

つかさちゃんはぼくたちの前にジンジャーエールをふたつ置きました。

「お兄ちゃんからゲームしてくれる? それともお姉ちゃん? あ、おにーちゃんはドリンクだけだったね? ごめんなさい。お兄ちゃんもつかさと遊んでくれるものだと勘違いしちゃって……」

ぼくは、つかさちゃんにそんなことを言われ、今すぐメニューを変更し「トランプ」を選びたい気持ちでいっぱいになりましたが、我慢しました。

ていうよりは、やっぱりまだ店の雰囲気に馴れないし、つかさちゃんとは初対面だし、緊張のあまりとてもつかさちゃんと楽しく仲良くむつまじくゲームができるような精神状態ではなかったのでした。

それに比べて、みかな氏はあいかわらずすごい。

毎度毎度、ぼくにつきあわされ、ふりまわされながらも、嫌々ながらもすでに完全にこの店に、いな! このう◯ぎぐみに馴染んでいる……
これが、コミュ力というものなのか……
いや、もはやこれはZONE(ゾーン)とでもいうべきもの……

そう、一流のコンセプトカフェめぐりスト(名古屋弁だと、コンセプトカフェめぐりゃー)だけが手にするという伝説の……ZONE(ゾーン)。

「ゾーンとかじゃないから。おにーちゃんがコミュ障すぎなだけだから」

またしてもぼくの心を読んだみかな氏の発言に、つかさちゃんは一瞬きょとんとしましたが、

「おにーちゃんもコミュ障なの? つかさといっしょだね?」

「そっかー、つかさちゃんもコミュ障かぁ……小さいのに、難しい言葉知ってるなぁ……」

「えへへ……つかさ、えらい?」

「えらいよぉ……、うん、えらい。そして、尊い」

「尊い?」

「うん、尊い。さっきから鼻血でそうだし、そのまま出血多量で死にそうなくらい」

そんなぼくに、ジト目を向けるみかな氏。

その目は、

――よく見ろ、おにーちゃん、衣装にだまされるな、
明らかにつかさちゃん、わたしより年上だろ、
童顔だからわたしと変わらないように見えるだけで、絶対に高校は卒業してるだろ、
あと、ほんとにコミュ障な子がこんなバイトするか、

と言っているように見えましたが、たぶん気のせいでしょう。


うん、だって、つかさちゃんがぼくに嘘なんかつくわけがない!!


みかな氏は「妹のきまぐれゲーム」を選んでいました。

「妹のきまぐれゲーム」は、その名の通り、店の、じゃなくてう○ぎぐみの中にたくさん用意されたゲームの中から、妹がきまぐれで選んだゲームを楽しむというものでした。

つかさちゃんはしばし悩んだ末に、ハート型の盤のオセロをぼくたちのテーブルに運んできました。
このオセロ、石もハート型ですごくかわいいのです。

「みかなおねえちゃん、つかさといっしょにオセロしてもらってもいい?つかさ、あんまり上手じゃないんだけど」

そう言いました。


こうして、浜松市を舞台に、ぼくという名の、お兄ちゃんという名の、聖杯をめぐる、自ら恋のサーヴァントとなったふたりの妹による聖杯戦争の火蓋は切られたのです。



~~~第一回戦 つかさちゃんVSみかなおねえちゃん オセロ~~~


序盤から激しい石のとりあいになるも、互いに一歩も譲らない攻防が続きました。

中盤にさしかかる頃、小学生の頃ガラケーのアプリで相当やりこんだというみかな氏が徐々に優勢となっていきました。

つかさちゃんの石がみかな氏にとられるたびに、

「悪いお姉ちゃんでごめんね」

と、ぼくはつかさちゃんに何故か謝り、

「またつかさちゃんの石をとって!」

「なんてひどいことするんだ、この子は!」

実の妹よりも、行きずりのその場限りの妹の側につくぼくなのでした。

――なんでおにーちゃん、みかなじゃなくてつかさちゃんの味方なの?

冷たい視線が真横からぼくを突き刺しましたが、ぼくはそれでもつかさちゃんを応援しつづけたのです。

みかな氏のいやらしい攻撃により、やがてつかさちゃんは石をおくことさえできなくなってしまいました。

「まったくなんておそろしい子なんだ、この子は……」

結局、みかな氏の圧勝でオセロは幕を閉じたのです。

「おねえちゃんすごいね。オセロ強いんだね」

負けてしまったのにくやしがるどころか、対戦相手を誉め称える、そんな健気なつかさちゃんはぼくの心をわしづかみにし、

「まったくあんたって子は! こんないい子にこんなことして! つかさちゃんをここまで追い詰めるなんてひどいよ!」

ぼくは最後までつかさちゃんの味方であり続けたのでした。


みかな氏とつかさちゃんはふたりでなかよくオセロを片付けはじめ、片付けおわるとつかさちゃんは言いました。

「おねえちゃん、つかさとゲームしたくなったらいつでも声かけてね」

そう言われたのはぼくではなかったわけですが……とりあえずぼくは次なるゲームにそなえるべくトイレに立ったのです。

この聖杯戦争を最後まで無事見届け、そして、後世に語り継がねば……

それがぼくに与えられた使命だったからです。

          

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