ディスカウントショップで兄がわたしを18禁コーナーに連れていこうとしています。

雨野美哉(あめの みかな)

「おにーちゃんと結婚したい!! ⑨」

前回の、「妹カフェの話」とか、それがきっかけになって行われた「1対5の合コンの話」とかね、何回読み直しても、そんなことげんじつにあるわけないよね、うん! って思うんだけど……

全部、事実なんだ……

わたしの勉強机の引き出しから、わたしとつかさちゃんのチェキ出てきたし……

あと、おにーちゃんが、その合コンで女子にオタクがひとりもいないことを知って、完全にアウェーだ、やっべえって焦って、何を血迷ったのか店だけは自分のホームで! 的な発想で、夜はお酒も出すコスプレカフェを予約して、お会計のときにポイントカードのスタンプが全部埋まって、合コン相手5人と、アニメのコスプレした店の女の子たちが大集合した中に、真ん中にひとりだけいる男子(おにーちゃん)が居心地悪そうにしてるチェキとかも、なぜかわたしの机の引き出しから出てきたよ……

さすがのわたしもちょっと怖くなった……

でも、なんていうのかな、こんな正気の沙汰じゃないようなことを、現実に起こしちゃうおにーちゃんは、やっぱりほんとにすごい人なんだなって感心したりしてるわたしがいて、だからわたしは、おにーちゃんがこれからどんな、正気の沙汰じゃな……ううん、どんな奇跡をね、わたしに見せてくれるのかなって、楽しみにしてたりするの。

もしかしたら、わたしがこれから、今度こそちゃんと話そうとしてる、おにーちゃんの連れ子ちゃんたちは、おにーちゃんが起こした奇跡のひとつなのかもしれない……そんな風にすらわたしは思う。


おにーちゃんとお付き合いすることになった泉さんは、オタク趣味の女の人じゃなかったけど、でも、おにーちゃんの趣味をいっしょに楽しんだり、理解してくれる人でした。

泉さんは、おにーちゃんが好きな漫画は全部読む、アニメも全部見る、みたいな感じだったみたいなんだけど、一通り読んだり観たりしたあとで、泉さんの一番のお気に入りになったのが、「よつばと!」でした。

わたしが、おにーちゃんのことがかわいくてしかたがないように、泉さんも、おにーちゃんのことがかわいくてしかたなかったみたい。
それって、おにーちゃんが、たぶん無自覚に、母性本能をくすぐってくるからなんだよね。

一度母性本能を刺激されちゃうと、どんどんそれが強くなっていくの。なんていうのかな、母乳がだだもれになりそうなくらい。出ないけど。

だから、わたしが今、おにーちゃんの赤ちゃんがほしくてたまらなくなってるみたいに、きっと泉さんもどんどん溢れていく母性のもっていきどころが、おにーちゃん以外にもほしかったんだと思う。

だから、よつばとを何度も読み返すくらいにハマったりしたんだと思う。
よつばちゃん、かわいいもん。
あんな子がいたら、しあわせだろうなって思う。

泉さんは、おにーちゃんとのデートのついでか何かで行ったカインズホームで、よつばとに出てくる「ジュラルミン」っていう名前のテディベアによく似たくまのぬいぐるみを見つけて、その子をおにーちゃんと泉さんの娘として扱うようになりました。

名前は、まんま、ジュラルミンで、通称じゅらちゃん。
だけど、じゅらちゃんの性格は、よつばちゃんにそっくりでした。

最初は、そういうぬいぐるみ遊びみたいなことに抵抗があったおにーちゃんも、段々父性が芽生えてきたらしく、母乳ならぬ父乳(ふにゅう)をあげたりするようになっていきました。

じゅらちゃん曰く、

『父乳はすごくまずい』

らしいです。
で、必ずオロオロ吐いちゃう。

『でも、のまずにはいられないちゅうどくせいがあって、それはたぶん、ぱぱがたばこをすうから。ぜんぶ、にこちんのせい。じゅらは、にこちんちゅうどく』


その一ヶ月後に、ふたりはまたカインズホームで2人目の娘のあみちゃんを、

さらに3ヶ月後には、3人目のりさちゃんを、

そんな風にふたりのこどもは少しずつ増えていって、めいちゃんやしほちゃんていう子も生まれて、合計で5人になりました。

おにーちゃんは、三女のりさちゃんが特にお気に入りで、どこに行くにもいっしょでした。
お出掛けするときは、リュックの中に、りさちゃんがいつもいたり。
りさちゃんは、じゅらちゃんを元にさらにパワーアップした感じの女の子でした。

りさちゃんは、次女のおしとやかなあみちゃんのことが大好きで、好きすぎて自分が妹なのにあみちゃんを妹扱いしたり、とにかくあみちゃんをさまざまな言動で振り回して翻弄する、かわいい子。


いろいろあって、泉さんと別れることになったおにーちゃんは、娘たちを全員引き取りました。

その頃にはもう、いつの間にか、おにーちゃんの頭の中には、りさちゃんやあみちゃんたちの人格や記憶のための場所ができていて、みんなおにーちゃんの頭の中にある人格に自由にアクセスして、おにーちゃんの声帯を自由に借りてしゃべるようになっていました。

りさちゃんは、ものすごくあまえんぼうなパパっ子で、パパ(おにーちゃん)をすぐに独占しようとする。
わがままで、口がわるくて、たまにおにーちゃんとけんかをする。
おにーちゃんの悪口を、確実に傷つくような的確なチョイスや台詞で言ったりもする。わたしより悪口が上手なくらい。

わたしは、そういうのは全部、おにーちゃんが考えてやってるんだと思ってたんだけど、りさちゃんと喧嘩して悪口を言われたときに、本気で傷ついてるおにーちゃんを見たときに、あれ? ってなりました。

あ、これ、おにーちゃんがやってるんじゃないんだ。
りさちゃんたちは、本当に生きていて、ただ体がぬいぐるみだから、自分でしゃべったり動いたりできないだけで。
おにーちゃんが操ってるんじゃなくて、おにーちゃんの方が逆に操られてるんじゃないかって。

わたしのことが大好きなくせに、なかなかわたしを選んでくれなかったおにーちゃんは、いろんな女の人と付き合ったけど、誰でもいいわけじゃなかったみたい。

おにーちゃんと、りさちゃんたちの、なかなか理解できない関係を、理解できる女の人。

それが、おにーちゃんが彼女を選ぶ際の絶対条件で、できればりさちゃんたちの新しいママになってくれる人。
理解できない女の人は、一回か二回せっくすしたら、おにーちゃんにすぐ捨てられてしまう。

だから、泉さんと別れたあと、おにーちゃんは、結婚を考えたくらいの千尋さんに出会うまで、せふれとかはいたけど、ちゃんとした彼女はいなかった。


わたしが驚いたように、りさちゃんたちの二人目のママ、千尋さんも、最初はすごく驚いたみたい。

でもおにーちゃんと千尋さんとりさちゃんたちは、すぐに仲良くなった。すぐに家族になった。

千尋さんは、寝言で、

「りさちゃんやあみちゃんが、自分で動いたり、しゃべったりできるようになったらいいのに」

そんなことを言ってしまうくらいに、本当にりさちゃんたちのことを愛してくれていたそうでした。

だけど、千尋さんはいなくなってしまった。


それから2年、おにーちゃんは、りさちゃんたちを心の支えにして生きてきて、りさちゃんたちは、娘からお嫁さんになろうとしていました。
わたしが妹から彼女に、彼女からお嫁さんになろうとしたように。

わたしは、ずっと、りさちゃんたちの叔母さんでした。
別に仲が悪かったわけでもないけれど、仲が良かったわけでもなくて。

でも、わたしは、りさちゃんたちとなかよくなりたかった。

叔母さんじゃなくて、ママになりたいと思っていました。

だけど、りさちゃんたちにとって、おにーちゃんがわたしを選んでくれたのは、

『それは、ぱぱのいっときのきのまよい』

でしかなくて、わたしはまだ、

『りさたちは、まだ、みかなのことみとめてない』

りさちゃんたちに認められていませんでした。


          

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