ディスカウントショップで兄がわたしを18禁コーナーに連れていこうとしています。

雨野美哉(あめの みかな)

「おにーちゃんとえっちした(い)。⑧」

おにーちゃんは、わたしの世界で一番大切な、大好きな人。

わたしは、おにーちゃんとこんな風に毎日いっしょにいられて、おにーちゃんもわたしのことを好きでいてくれて、大切にしてくれる……
それだけでもう十分すぎるくらい、全部夢なんじゃないかってこわくなってしまうくらいにしあわせだから。

だから、おにーちゃんが一生懸命働いて、頑張って貯めてた貯金を切り崩すような真似をさせてまで、高価なものを買ってもらったり、おごってもらうのはすごく気が引けてしまうのでした。


価値観なんて人それぞれだと思うし、何が正解かなんてわからないけど、でもわたしは思うの。

好きな人が一生懸命働いて稼いだお給料や貯金を、自分のために使わせて、それが当たり前だって思ってるような女の人は、たぶんその男の人のこと、本当に好きじゃない。
だって、それ、男女の立場が逆転したらただのヒモだもん。
逆転しなくても、援助交際と何が違うの? ってわたしは思っちゃう。

これから先のことはまだよくわからないけど……
たぶんわたしたちは、ふたりでずっと一緒に生きていくことになると思うし、少なくとも今のわたしはそれを望んでいて、願っているから。

だから、さっきわたしが、

『ペアリングを買ったらホテルに行って、いっぱいえっちしよ?』

なんて言ったのは、おにーちゃんをドキドキさせるための嘘。

一度くらいはそういうところで、いっぱいえっちなことをしてみたいなぁと思うけど、たぶんそういう機会は、ふたりで旅行に行ったりするときとかに、いつかあるだろうから、別に今日じゃなくてよかったのです。

今のわたしはおにーちゃんのお部屋で、おにーちゃんにいっぱいえっちなことをしてもらって、わたしもいっぱいしてあげて……それだけでしあわせだから、ホテルよりもあのお部屋の方がいいくらい。
たまに、気分を変えたくなったら、わたしのお部屋でしてみるのも、ありだし……ありだな……本当に。


おにーちゃんとわたしは、その後、

「やっべー……値札見ただけで、頭がくらくらしてきた……」

「わたしも……スマホの画面で見る50万円とか70万円とかと、実際に実物の前に置かれてる値札で見るその値段って、こんなに重みが違うんだね……」

「そうだね……アマゾンだと、セイバーの変身ベルトとか簡単にカートに入れちゃえたけど、イオンで見本を見てから値札を見たら、いやいや、ベルトから引き抜く剣の長さがこんなに短くて伸縮もしないんなら、この値段は高いだろって思ったもんなぁ」

「……おにーちゃん、なんでもライダーを例えに出すのは、さすがにそろそろやめようね」


わたしたちは、店員さんに声をかけられる前に早々に高島屋を後にして、わたしがペアリングならここで、と決めていたお店で、ちゃんと予算一万円以内で、わたしにもおにーちゃんにも似合う指輪をふたりで選びました。

わたしもおにーちゃんも、右手の薬指にはめたその指輪を見て、ずっとニヤニヤしていました。
たまに目が合うと照れくさくなったりして。
わたしは、少し恥ずかしかったけど、自慢の彼氏とらぶらぶなのをまわりに見せつけたくて、おにーちゃんの腕にわたしの腕をからませました。

「おにーちゃん……
わたし、はじめての彼氏がおにーちゃんで本当によかった」

「ぼくは、みかなにずっと悪いことしちゃってたな、ってすごい反省してる……」

わたしの言葉に少し落ち込んじゃったおにーちゃんに、

「確かに、わたしから見たら、ずーっと浮気されてたみたいなもんだもんね」

と、追いうちをかけるようなことを言ったあと、

「でも、おにーちゃん、最後にはちゃんとわたしを選んでくれたからいいの。
それに、たくさん浮気したおかげで、すごーくえっちが上手になったおにーちゃんにかわいがってもらえるのは、すっごくしあわせだから」

わたしは、本当におにーちゃんが好き。
昨日よりも今日の方が、ずっとずっとおにーちゃんが好き。
きっと明日は今日よりも、ずっとずっとおにーちゃんが好きになってる。
わたしがおにーちゃんのことを好きになってからのこの10年は、毎日それの繰り返しだったから。


わたしは、ホテルの話は冗談だよって話をして、おにーちゃんをちょっとがっかりさせたあと、ふたりでビッグカメラでゲームを見たり、アニメイトに行ったり、高島屋に戻って東急ハンズに行ったり、本屋さんに行ったり、それから近鉄パッセで、おにーちゃんの大好きな女の子の服を、たくさん思う存分見させてあげたりしました。

近鉄パッセは一階が近鉄名古屋駅の改札口になっているから、そろそろ帰る? って話になったんだけど……
そのときになって、わたしは気づいたことがありました。

わたしは高校も大学も名古屋だから、今日おにーちゃんとデートした場所は、一部を除いてどれも当たり前のいつもと変わらない風景だったけど、実家を離れてたおにーちゃんにとっては3年ぶりの名古屋なんだなっていうこと。

もしかしたら、行きたいところがあったけど、わたしに遠慮したりしてるんじゃないかなって。

だから、わたしは、

「おにーちゃん、どこか行きたいところあったりするよね?」

きっと、わたしと同じように高校も大学も名古屋だったおにーちゃんには、懐かしくて、行きたい場所がたくさんあるだろうな、と思ったのです。

おにーちゃんは、少し難しい顔をして思案すると、

「しいて言うなら……、メイドカフェ? かな?」

その口調とは真逆に、カッと目を見開いて、そう言いました。


な……!?

おにーちゃんのために、えっちなベビードールとかだけじゃなく、とうとう女児服にまで手を出した、こんなに純情で従順なかわいい妹と、ようやく付き合うことになったっていうのに、毎日えっちしほうだいだというのに、つきあいはじめて初めてのデートの最後に、メイドカフェをご所望だと……!?


わたしは、いますぐおにーちゃんの頭をかちわって、その脳漿を改札口の前にぶちまけたい気持ちにかられながらも、それを必死に我慢して、声を絞り出しました。

「東急ハンズに戻ろっか……わたし、メイド服買う……」


おにーちゃんのその発言が、わたしにやきもちをやかせ、わたしのコスプレのレパートリーを増やすため、あえて仕掛けた罠だということにわたしが気づいたのは、おうちに帰ってからおにーちゃんにメイド姿を披露したあとのことだったのでした。


          

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