ディスカウントショップで兄がわたしを18禁コーナーに連れていこうとしています。

雨野美哉(あめの みかな)

「おにーちゃん、男の娘になる。④」

おにーちゃんが7月にお仕事をやめて実家に帰ってきたのは、心も体もぼろぼろになってしまうくらいに、追い詰められてしまったからでした。

それから2ヶ月、おにーちゃんがお出かけするのは2日か3日に一度くらいで、どうしても必要なものをコンビニに行くくらいでした。
でも、おにーちゃんは、ひとりでコンビニに行くのもなんだかつらそうで、どこかさびしそうで、だからわたしはその度に一緒について行っていました。

わたしは毎回、もしかしたら今日はコンビニだけじゃないかもって、しっかりお化粧をしたりお洒落をしたりしてたんだけど、おにーちゃんはコンビニに行くだけで疲れちゃってまっすぐ帰ってきちゃう。

毎日いっしょにいるけど、ちゃんとしたデートは、この2ヶ月で5回あったかどうかくらいでした。4回? 3回かも。

そんなおにーちゃんが、2日連続でお買い物にお出かけできるようになるくらい、元気になってきてること、やりたいことが新しく見つかったことが、わたしにはすごく嬉しくて……

おにーちゃんとセックスしたい!!

そんな風に、おにーちゃんの車の助手席で、わたしがおにーちゃんに対してニヤニヤキュンキュンしていたのは、9月21日のお昼過ぎのこと。


おにーちゃんは、ひとりで車を運転するときは、本人曰くそこそこ上手らしいんですが、助手席にわたしとか、彼女がいるときは彼女さんを乗せたりすると、人様の大切な命を預かっているという重責から、運転ポテンシャルががた落ちしてしまうのです。
どれくらいがた落ちするかというと、赤信号に気づかず直進してしまったり、左折するときに縁石に乗り上げてホイールカバーがどこかに飛んでいったり、もはや逆にわたしの命が危なくなるレベル!!

そんなおにーちゃんが、もう本当にかわいくてかわいくて……

おにーちゃんとセックスしたい!!

かわいくてしかたがないのです。


それにしても、いつも車の中では菅田将暉くんを流してるのに、今日はなんで芦田愛菜ちゃんのアルバムなんだろう……
これ、マルマリモッコリのすぐ後くらいに出たやつだよね……

歌詞をそのまま引用するとJASRACさんやカクヨムさんに怒られちゃったりするので、一部改変してお届けしますが、

「知ってるかってばよ! 愛菜って名前ってばよ!! 聖書によるとってばよ!!! 神様からの贈り物なんだってばよ!!!!」

助手席でサビを口ずさみながら、何年も前におにーちゃんがヘビロテしてた、このアルバムの歌詞を、いまでもちゃんと覚えてることにわたしは気づきました。
わたしって、幼い頃からおにーちゃんに完全に調教……じゃなくて、英才教育されてたんだなぁ……

そんなことを改めて考えていると、わたしは

おにーちゃんとセックスしたい!!

助手席でニヤニヤがもうとまらなくなっちゃった!!

おにーちゃんが今まっすぐに進んでいる「男の娘」という名前の「変態」の「道(ロード)」の先には、一体何があるんだろう……

そこに、もし、さらなる変態への扉があったとしても、わたしはおにーちゃんと一緒にその扉の向こうへ行こう……

ううん、わたしもいっしょに行きたい!!

あと、おにーちゃんとセックスしたい!!(4回目)


おにーちゃんは、どうやら

「かわいい男の娘に俺はなる!!」

という、新しい趣味であり新しい夢に、かーなーり本気モードに入ってしまったようでした。

お化粧については、前日に、わたしがしてあげるし、わたしのを使えばいいと話していたのですが、

「自分でちゃんとできるようになりたいから、自分専用のお化粧道具がほしい」

と言って、その日は出かける直前まで、男の娘になるためのサイトでしっかりメイクについて勉強していました。


行き先は、わたしがこの私小説なのか日記なのかよくわからない駄文を書くきっかけにもなった、おにーちゃんがわたしを18禁コーナーへ過去に二度も連れていったディスカウントショップ。

そのお店は、わたしたちの家がある市内の国道沿いにあるのですが、近隣の県から車で片道二時間とかかけてわざわざ来る人がたくさんいるくらい、地元ではかなりの有名店なのです。
「キンブル 弥富店」で検索して、この作品の聖地巡礼してみてね!

18禁コーナーはそのほんの一部、一区画でしかなく、それ以外の部分は飲み物や食べ物から、家具、家電、時計、文房具、ゲーム、DVD、スポーツ用品、子供用のおもちゃから大人用のおもちゃまで、大体なんでも揃ってしまうお店なのです。
一部中古品もありますが、ほとんどは新品で、売れ残りがドンキホーテなどから大量に流れてきていて、定価の半額以下の値段、1/4とか、へたしたら1/8くらいの値段で、いろいろ買えてしまうのです。
化粧品の取り扱いももちろんあるので、実はわたしも行きつけのお店だったり……

しかし、わたしは、
一女子として、
一美少女として、
一JDとして、
そして、世の中のすべての女性を代表する者として!

たかだか男の娘になろうとしているおにーちゃんと同じ化粧品を使っている、なんていうことは、絶対に知られるわけにはいかなかったのです。

そのため、めっちゃいい化粧品(語彙力!)を使っているふりをして、いつも使ってるものなのにアマゾンのレビューをいちいち見たりして、知らないふりをしていたのでした。

おにーちゃんは、わたしの意見を参考にしながら、化粧水や乳液、ファンデーションにリップ、グロス、チークなどを選びました。
アイシャドウのことをすっかり忘れていたけど、それだけ買っても2000円弱という安さなのです。

その後、おにーちゃんはまたしてもわたしを18禁コーナーに連れていったのですが、その目的はいつものようにわたしを辱しめるためなどでは決してなく、

「ばっちりメイクまでするなら、えっちな自撮りをしたい!!」

という、まさかの「自分用のえっちなベビードールなどのランジェリー選び」のため!!(1着330円)

以前、わたしはこのコーナーでえちえちなランジェリーを5着買ってもらったのですが、ここにあるの、まじでえろいんです。スケスケなんです。大体Tバックがついてるんです。

まさか、1ヶ月以上も前のわたしのえちえちランジェリー選びが、実は前もって準備されていた伏線で、今ここにつながり、その伏線が回収されるとは……(偶然だよ!)

ですが、問題は、やはりサイズ。

どれもゆったりめに作ってあるので、わたしは買ってもらった5着を全部、すごくえっちにかわいく着こなせたのですが、
おにーちゃんの背がいくら多少世間の男性より低いとはいえ、
おにーちゃんより背の高い女の子がいくらたくさんいるとはいえ、
男女の体の違いは、あまりに大きいのです。

一体どれならおにーちゃんも着れるんだろう……

わたしが頭を悩ませていると、おにーちゃんは着れるか着れないかではなく、着たいか着たくないかで、ランジェリーを選んでいました。

大変! おにーちゃんがご乱心!!

と、思いきや、おにーちゃんは言いました。

「ぼくは、えっちな自撮りさえ撮れればいい。
試着できない以上、現時点でどれが着れて、どれが着れないかは、あくまで想像でしかないから、結局のところはわからない。
だったら着たいものを買って、もしサイズが合わないなら、写真に映らない背中の部分を切るだけだ!!」

なんか突然、名言キター!!


かつて、ランジェリー好きで有名な三人の戦国武将が、こんなランジェリー川柳を詠みました。

「着れぬなら 着れるまで痩せよ ランジェリー」  徳川ランジェリー家康

「着れぬなら 無理矢理着せよ ランジェリー」   豊臣ランジェリー秀吉

そして、おにーちゃんのこの発想は、

「着れぬなら 背中を裂けば すぐ着れる!」

まさに、織田ランジェリー信長さんと同じ発想……

まさか、おにーちゃん、第六天魔王の生まれ変わりなの?
手相に覇王線とかあるの??

やばいやばいやばい! なに? なんなの? そのえっちな自撮りに対する執念!?

男の娘になると決めてから、まだたった2日だよ?
それなのに、おにーちゃんの変態係数が、元々300オーバーだったのに、今は1000を軽々振り切ってるんですけど!!
もうとっくにドミネーターの射殺対象だよ!?

おにーちゃんのえっちな自撮りに対する異常なまでの執念を垣間見たわたしは、フリーザ様の最終形態の圧倒的且つ規格外すぎる強さを目の当たりにしたベジータさん(ナメック星編より)のように、ぶるぶると震え、

「あの……おにーちゃん? 今回もお会計するのおにーちゃんがしづらいものばっかりだから、わたしがするね……」

恐怖のあまりに、自分からお会計係を名乗りでたのでした。


そして、そんな恐怖体験もようやく終わり、家に帰って一息つくと、おにーちゃんは言いました。


「ところでさ、みかなが使ってるめっちゃいい化粧品ってどんなやつ? 見せて!」


な、なんだと……

まだ、わたしの恐怖体験は終わってはいなかったのです。
これから、はじまるのです。


          

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