ディスカウントショップで兄がわたしを18禁コーナーに連れていこうとしています。

雨野美哉(あめの みかな)

「おにーちゃん、男の娘になる。③」

おにーちゃんの初女装を、おかーさんに目撃されてしまうという、まさかの大惨事が起きてしまった、9月20日の「初女装記念日」。

おかーさんは、典型的な田舎のおばさんなので、当然「男の娘」なんて文化が、わたしやおにーちゃんのような若者たちのごくごく少数、一部の一部の一部くらいの間で、一大ムーブメントを巻き起こしていることなど知るよしもなく……

そもそも、「男の娘」を「おとこのこ」と読むことすら知らないわけで、「花より男子」を「はなよりだんし」と読むかのごとく、「おとこのむすめ」と読んでしまうわけでして……

「おとこのむすめ」って書いて、「おとこのこ」って読むことから、男の娘文化について、一から十まで丁寧にわかりやすく説明したところで、おかーさんに理解できるわけもなく、そもそも理解する気があるかどうかもあやしく、


「みかな! さっき、あんた、遺伝子がどうたら言うとったやろ! 誰の子や? どこの間男に孕まされたんや? もう女の子だってわかっとるっていうことは、お腹が目立たへんだけで、妊娠してから結構たっとんのか!?」

うん、まったく理解できてなかった!!

間男って実際に使う人、わたし初めて見たよ……

「はぁ……まさか、みかなみたいなしっかりした子が、誰の子かもわからんような子を妊娠するなんて……
ところで、ひろゆき、あんたはなんでそんな格好しとるんや? とうとう頭が完全におかしくなったんか!?」

と、まぁ、そんな感じでとりつく島もないと言いますか……

わたしは、どこの馬の骨かもわからない男の人(しかも相手も不明)の赤ちゃん(女の子だとすでに判明)を妊娠している、というあらぬ疑いをかけられたものの、おかーさんの中で「まさか、みかなみたいなしっかりした子が」という認識だったことに対して、
おにーちゃんは、女装を見られながらも「とうとう頭が完全におかしくなったんか!?」という、前から頭がおかしかったけど、とうとう、という認識だったという、新たな悲劇を産み出した瞬間でもありました。

……うちって、わたしも含めて、まじでまともな人が誰もいないんだなぁ、としみじみ思うみかなちゃんでした。


ふたりがかりで、なんとかわたしが妊娠しているという誤解だけは解けましたが、おかーさんのおにーちゃんに対する誤解は変わることはなく……

まぁ、わたしも、おにーちゃんのこと、そこいらのヤンキーとか暴走族の方の数百倍はやべー人だってずっと思ってたし、わたしはそんなおにーちゃんが大好きなので、別に誤解は解けなくてもいいかなぁ、なんて思ったり思わなかったり。

だって、おにーちゃんは、みかなのだから。
もう誰にもあげたり、貸したりしないなら。
だから、わたしさえ、おにーちゃんのことをちゃんと理解してたら、それでいいと思うのです。


おにーちゃんの「初女装」、おかーさんの「間男発言」、わたしの「妊娠疑惑」など、様々な記念日となったその夜、わたしはおにーちゃんに、自撮りするのに一番いいカメラアプリはどれかを聞かれたので、わたしが以前から使っているULikeというアプリを教えてあげたところ……

おにーちゃんは早速そのアプリをインストールして、男の娘自撮りは翌日の21日の明け方まで、およそ8時間、自撮り写真は数百枚に及んだのでした。

ノーメイクのままでしたが、アプリのおかげで百枚に一枚くらい、いわゆる奇跡の一枚というのが撮れたりしていました。

どうやら、おにーちゃんは気づいてしまったようなのです。

女装した自分が、ノーメイクの状態でも、これまでに付き合ってきた歴代彼女たちの誰よりもかわいい、ということに……

わたしは毎回、ほんとにブスばっかり連れてくるなぁとか、またぽっちゃりした子を連れてきたなぁとか思っていたので、結構早めにその事実に気づいてはいたのですが。

ちなみにおにーちゃんは、歯並びの悪い女の子がご飯を食べているのを見るのが好き、それだけで興奮するという、やばい性癖の持ち主なので、歴代彼女さんたちはみんな歯並びが悪かったりもします。


そして翌日、おにーちゃんの男の娘生活2日目の9月21日も、お昼過ぎにいつもわたしが18禁コーナーに連れていかれているディスカウントショップやセリアなどで、ダイソーでは手に入らなかったものを探す旅が始まったのでありました。

えーっと、おにーちゃん?
すっごく盛り上がってるところ悪いんだけど、ハロウィンってどうなったの?


          

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