あなたが創ったこの世界をわたしは壊したい。
最終話(第31話(第146話))
「ねぇ、あんた誰? なんでここにいるの?」
梨沙は孝道を見て言った。
梨沙は孝道のことを本当に知らないように見えた。
「君はおそらく、ぼくのことはもう忘れてしまったんだろうね。
女王の血や力が邪魔をして、記憶の消去がずいぶん遅れてしまったようだけれど。
ぼくは寝入ちゃんや璧隣家の人々が亡くなってから今日までに君が知りえたこと、そしてぼくに関する記憶のすべてを忘れるよう、君に指示した。
だから、君には今、璧隣家一家殺人の後から今日までの記憶の大部分が抜け落ちている。そうだろう?」
梨沙は何も答えなかった。
答えないことこそが、それを認めているということになることを彼女はわかっているのだろうか。
その目は、孝道をただただまっすぐ睨み付けていた。
そんな彼女に、彼は携帯電話を見せた。
「携帯電話の発する電磁波を利用して、通話相手の脳から記憶を消す技術を作ること自体は、それほど難しいものじゃなかった。
けれど、問題があった。
消える記憶がランダムであったり、すべてであったりしては意味がないからね。
消さなければいけない記憶は、時と場合によるから。
だから、消さなければいけない記憶のキーワードとなる言葉や、いつからいつまでの記憶なのかといったことを、携帯電話に向かって話すことで、携帯電話の中にぼくが組み込んだ記憶消去プログラムが自動的に消去対象となる記憶だけをプログラムを追加するシステムを構築するようにしなければいけなかった。
ぼくが発した言葉を自動的に瞬時にプログラム化し、それが通話相手の脳に電磁波によって干渉し記憶をハッキングする。
ぼくが作ったものはそういったものだった。
それは君たちが今している、こうしたい、と思うだけで、君たちだけが持つ強力な脳波により世界の理さえも変えてしまう、言霊(ことだま)に限りなく近い。
真依ちゃんの言う通りだった。
ぼくは今、世界で一番君たちに近い力を持っている。
あのときぼくは、電磁波を使ってぼくがハッキングできるのは脳や記憶だけじゃないことに気づいた。
新しくプログラムを作る時間はなかったから、記憶消去プログラム自体に自らプログラムを書き換えさせることにした。
成功する可能性は限りなく低い賭けだったけど、成功した。
この世界は、人の遺伝子がそうであるように、有機物にも無機物にも、すべてプログラムが存在し、その形を維持している。
この星だけでなく宇宙のすべてが、世界の理というプログラムによって管理されているにすぎない。
だから、君たちは脳波で、ぼくは電磁波で、その世界の理にハッキングを行っているにすぎない。
君たちの力にはまだ遠く及ばないけれど、ぼくにでもこんな風に一度透明にされた身体を、元に戻すこともできる」
白璧梨沙、と孝道は梨沙の名を呼んだ。
「ぼくのことを忘れてしまった君にもう一度、ぼくが誰なのか教えてあげるよ。
ぼくは、シノバズ。
警視庁から璧隣家一家殺人の真相を暴くよう、捜査依頼を受けたハッカーだ。
ぼくは国防の要と呼ばれている。
ぼくが守りたいのは国ではなく、国民ひとりひとりの命だけれど。
君がこれからしようとしていることは、ぼくが守りたい人々を傷つける。命を奪う。
たとえ真依ちゃんが君を見逃そうとしていても、ぼくは君を見逃すわけにはいかない」
「わたしを殺すつもり?」
梨沙はようやく孝道の言葉に返事をした。
「あんたがわたしに近づいてくる前に、わたしはあんたを殺す。
真依も殺す。
誰にもわたしの邪魔はさせない。
女王はわたしひとりでいい」
孝道は、ゆっくりと梨沙に向かって歩いていった。
「ぼくは君を殺したりはしない。
君もまた、ぼくが守りたいこの国の人々のひとりだから。
ぼくは、真依ちゃんと約束をした。
真依ちゃんを返璧の家の次期当主であることや双璧の家から、この村から解放すると。
今もう一度約束するよ。
真依ちゃんだけじゃない。君のことも、ふたりとも、家や村や女王の血筋、その力から必ず解放する」
梨沙は、抵抗しなかった。
携帯電話を二台、左右の耳に当てられても。
梨沙は言った。
「ありがとう」
そして、孝道は、梨沙の記憶と力を消した。
その身体に流れる血に刻まれていたものさえも。
そして、彼は、
「真依ちゃんの記憶は消さなくても大丈夫だよね?」
と笑い、
「そうだね。このままがいいかな。
両親や兄や姉たちと、ちゃんと話をしなきゃいけないし。
それにたぶん、あなたもわたしも、みかなと大喧嘩することになるだろうし」
わたしも笑った。
今のわたしはもう、自分で生きたい人生を選んで生きていくことができるから。
そして、わたしは、わたしに降りてきてくれていた、神にも等しき力をあるべき場所へと返した。
太陽に。
もうわたしにその力は必要ないから、と。
もう二度と太陽の巫女があなたの力を借りることはないから、と。
          
梨沙は孝道を見て言った。
梨沙は孝道のことを本当に知らないように見えた。
「君はおそらく、ぼくのことはもう忘れてしまったんだろうね。
女王の血や力が邪魔をして、記憶の消去がずいぶん遅れてしまったようだけれど。
ぼくは寝入ちゃんや璧隣家の人々が亡くなってから今日までに君が知りえたこと、そしてぼくに関する記憶のすべてを忘れるよう、君に指示した。
だから、君には今、璧隣家一家殺人の後から今日までの記憶の大部分が抜け落ちている。そうだろう?」
梨沙は何も答えなかった。
答えないことこそが、それを認めているということになることを彼女はわかっているのだろうか。
その目は、孝道をただただまっすぐ睨み付けていた。
そんな彼女に、彼は携帯電話を見せた。
「携帯電話の発する電磁波を利用して、通話相手の脳から記憶を消す技術を作ること自体は、それほど難しいものじゃなかった。
けれど、問題があった。
消える記憶がランダムであったり、すべてであったりしては意味がないからね。
消さなければいけない記憶は、時と場合によるから。
だから、消さなければいけない記憶のキーワードとなる言葉や、いつからいつまでの記憶なのかといったことを、携帯電話に向かって話すことで、携帯電話の中にぼくが組み込んだ記憶消去プログラムが自動的に消去対象となる記憶だけをプログラムを追加するシステムを構築するようにしなければいけなかった。
ぼくが発した言葉を自動的に瞬時にプログラム化し、それが通話相手の脳に電磁波によって干渉し記憶をハッキングする。
ぼくが作ったものはそういったものだった。
それは君たちが今している、こうしたい、と思うだけで、君たちだけが持つ強力な脳波により世界の理さえも変えてしまう、言霊(ことだま)に限りなく近い。
真依ちゃんの言う通りだった。
ぼくは今、世界で一番君たちに近い力を持っている。
あのときぼくは、電磁波を使ってぼくがハッキングできるのは脳や記憶だけじゃないことに気づいた。
新しくプログラムを作る時間はなかったから、記憶消去プログラム自体に自らプログラムを書き換えさせることにした。
成功する可能性は限りなく低い賭けだったけど、成功した。
この世界は、人の遺伝子がそうであるように、有機物にも無機物にも、すべてプログラムが存在し、その形を維持している。
この星だけでなく宇宙のすべてが、世界の理というプログラムによって管理されているにすぎない。
だから、君たちは脳波で、ぼくは電磁波で、その世界の理にハッキングを行っているにすぎない。
君たちの力にはまだ遠く及ばないけれど、ぼくにでもこんな風に一度透明にされた身体を、元に戻すこともできる」
白璧梨沙、と孝道は梨沙の名を呼んだ。
「ぼくのことを忘れてしまった君にもう一度、ぼくが誰なのか教えてあげるよ。
ぼくは、シノバズ。
警視庁から璧隣家一家殺人の真相を暴くよう、捜査依頼を受けたハッカーだ。
ぼくは国防の要と呼ばれている。
ぼくが守りたいのは国ではなく、国民ひとりひとりの命だけれど。
君がこれからしようとしていることは、ぼくが守りたい人々を傷つける。命を奪う。
たとえ真依ちゃんが君を見逃そうとしていても、ぼくは君を見逃すわけにはいかない」
「わたしを殺すつもり?」
梨沙はようやく孝道の言葉に返事をした。
「あんたがわたしに近づいてくる前に、わたしはあんたを殺す。
真依も殺す。
誰にもわたしの邪魔はさせない。
女王はわたしひとりでいい」
孝道は、ゆっくりと梨沙に向かって歩いていった。
「ぼくは君を殺したりはしない。
君もまた、ぼくが守りたいこの国の人々のひとりだから。
ぼくは、真依ちゃんと約束をした。
真依ちゃんを返璧の家の次期当主であることや双璧の家から、この村から解放すると。
今もう一度約束するよ。
真依ちゃんだけじゃない。君のことも、ふたりとも、家や村や女王の血筋、その力から必ず解放する」
梨沙は、抵抗しなかった。
携帯電話を二台、左右の耳に当てられても。
梨沙は言った。
「ありがとう」
そして、孝道は、梨沙の記憶と力を消した。
その身体に流れる血に刻まれていたものさえも。
そして、彼は、
「真依ちゃんの記憶は消さなくても大丈夫だよね?」
と笑い、
「そうだね。このままがいいかな。
両親や兄や姉たちと、ちゃんと話をしなきゃいけないし。
それにたぶん、あなたもわたしも、みかなと大喧嘩することになるだろうし」
わたしも笑った。
今のわたしはもう、自分で生きたい人生を選んで生きていくことができるから。
そして、わたしは、わたしに降りてきてくれていた、神にも等しき力をあるべき場所へと返した。
太陽に。
もうわたしにその力は必要ないから、と。
もう二度と太陽の巫女があなたの力を借りることはないから、と。
          
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