あなたが創ったこの世界をわたしは壊したい。

雨野美哉(あめの みかな)

第5話(第120話)

わたしの通う学校は、わたしが住む■■県■■■村のすぐ隣にある□□市にあった。

■■■村は、この国だけではなく世界でも珍しい、真上から見ると一枚の絵になるように、道路や建築物が配置されている村だった。

天地開闢(てんちかいびゃく)だとかなんとかっていう日本古来の宗教的な意味がある絵だと聞いたことがあった。

■■■村がいつ出来、いつからこのような奇妙な形なのか、どのような歴史を歩んできたのか、それを記した書物もなければ、伝承のようなものも何も伝わってはおらず、村に詳細を知る者はいなかった。

村にあるのは、太平洋戦争後からの資料ばかりだった。

戦時中か戦前に村の伝承や資料はすべて失われた。
あるいは隠された。

村の者は、遺伝子に欠陥があるのか、それとも村の風土によるものなのか、皆短命で日本人の平均寿命まで生きられるものはほとんどいない。孫の顔を見ることなく死んでいく。

だから、現在では誰も村の歴史を知らない。


わたしはそんな村で産まれ育った。


村には、「双璧の家(そうへきのいえ)」と呼ばれるふたつの名家があり、返璧家(たまがえしけ)と璧隣家(かべどなりけ)があった。

資料はないものの、古来から双璧の家のそれぞれの当主が互いに協力しあって代々村を治めており、わたしは返璧家(たまがえしけ)の子どもだった。

わたしには兄がひとり、姉がふたりいたが、双璧の家は代々末子相続であるために、弟か妹が産まれない限りは、わたしが次期当主ということになっていた。


村の者は苗字に必ず、「璧」の字が入っていた。壁(かべ)ではなく、「璧(たま)」だ。

玉璧(ぎょくへき)、君璧(くんへき)、洪璧(こうへき) 、尺璧(せきへき)全璧(ぜんぺき)、白璧(しらたま)、連璧(れんぺき)、村の者たちはそんな苗字ばかりだった。


昨年の冬、璧隣家(かべどなりけ)が一家心中をはかり、村は実質返璧家のものになっていた。

その一家心中で死亡したのは、4人。

璧隣家の当主、璧隣朝月(かべどなり あさつき)と、その妻・昼子(ひるこ)、長女・夜子(やこ)、次女・寝入(ねいる)。

4人は、死後1ヶ月以上が経過してから発見された。


発見が遅れたのは、次女である寝入に良く似た背格好の少女がたびたび璧隣家に出入りするのが目撃されていたからだった。

寝入はわたしの幼馴染みであり、共に双璧の家の末子であったため、将来共に村を治める次期当主として育てられていた。

寝入だけが、わたしのすべてをわかってくれた。
わたしだけが、寝入のすべてをわかってあげられた。

けれど彼女は両親や姉と共に殺され、殺されてしまったことすら村ぐるみで隠蔽されてしまった。


犯人と思われるその少女は、1ヶ月もの間、4人の死体と共に暮らしていたのだ。


しかし、村の者たちは、少女が姿を消し4人の死体が見つかると、この1ヶ月間璧隣家に出入りしていた者などいない、見たことがないと証言した。

わたしだけが、その少女を確かに何度も見かけたと証言し続けたが、警察も両親も兄も姉も村人たちも誰も相手にはしてくれなかった。



雨野みかなのセーラー服についた、山汐芽衣の口紅やファンデーションなどを落としながら、わたしはあの冬に何度か見かけた少女のことを考えていた。


そして、寝入やその家族の遺体が発見された日に、少女を訪ねてきたと思われる3人組の男女がいたことを思い出した。

その日、何があったのかわたしはよく知らない。

その少女と、3人組のうちのひとりの少女が救急車で運ばれていき、遅れてやってきた警察が四人の変死体を見つけた。


少女は確かに、この村にいた。


そして、その少女はやはり、山汐芽衣と同じ顔をしていた。



          

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