あなたが創ったこの世界をわたしは壊したい。
第27話(第109話)第四部「春霞」鬼の章之壱
まさか、一度死んだはずのあたしが、もう一度この世界に降り立つなんて、夢にも思わなかった。
しかも、山汐凛の身体ではなく、他人の身体に憑依してだなんて。
あたしは去年の秋に、夏目メイに殺された。
けれど、それは鬼頭結衣という肉体の死でしかなかった。
夏目メイは死にかけていたあたしの人格と、あたしの人格を構成する過去の記憶を、あたしの携帯電話に移した。
そして、あたしは、夏目メイの、正確には山汐凛の、別人格となった。
あたしには、その年の夏休みに一度だけ会っただけで、連絡先を交換しながらもそれから一度も連絡を取ることがなかった友達がいた。
だから、実際にその友達と過ごしたのは、わずか十数分のことでしかなかった。
でも、あたしと彼女は確かに友達だった。
夏目メイは、その友達から、すべてを奪った。
だからあたしは、夏目メイのすべてを奪おうとした。
結局、あたしは夏目メイの手のひらの上で泳がされていただけだったけれど、夏目メイは、自分をあそこまで追い詰めたのは、これまでもこれからもきっとあたしだけだと言った。
だから、あたしに生きてほしいと言った。
褒められている気は全然しなかったし、あたしは夏目メイに人格だけとはいえ命を救われたことが本当に腹立たしかった。
だから、あたしはこれまで一度も表に出ることはなかった。
あたしが、表に出るとしたら、あの子に、加藤麻衣に、もう一度出会えるかもしれない、そのときだけだと決めていた。
そのためなら、あたしは夏目メイからかけられた慈悲のようなものを甘んじて受け入れようと思った。
けれど、夏目メイは徐々にあたしが知る夏目メイではなくなっていった。
今ではもう、あたしが殺してやりたいほど憎いと思っていた彼女ではなかった。
山汐凛の別人格のひとつになることで、あたしは夏目メイが歩んできた人生を知ってしまった。
本当は姉思いの優しい女の子であったのだと知ってしまった。
けれど、だからといって、彼女が麻衣にしたことがなかったことになるわけじゃない。
もしかしたら、麻衣はそれすらも受け入れて許してしまうかもしれないけれど。
麻衣だけじゃない。
ハルにしたことも、ナオにしたことも。
あたしは絶対に許さない。
だから、手を貸すのは、これっきりだ。
あたしにしかできないことがあるから。
だから、あたしはケータイで知り合いに電話をかけた。
死者からの電話に、あの男はきっと驚くだろうな、と思った。
あたしは、そんな風にして、赤の他人のブスの身体とはいえ、再び生きることができることを楽しんでいる自分に気づきながらも、その気持ちはあたしの心の奥底にしまいこむことにした。
          
しかも、山汐凛の身体ではなく、他人の身体に憑依してだなんて。
あたしは去年の秋に、夏目メイに殺された。
けれど、それは鬼頭結衣という肉体の死でしかなかった。
夏目メイは死にかけていたあたしの人格と、あたしの人格を構成する過去の記憶を、あたしの携帯電話に移した。
そして、あたしは、夏目メイの、正確には山汐凛の、別人格となった。
あたしには、その年の夏休みに一度だけ会っただけで、連絡先を交換しながらもそれから一度も連絡を取ることがなかった友達がいた。
だから、実際にその友達と過ごしたのは、わずか十数分のことでしかなかった。
でも、あたしと彼女は確かに友達だった。
夏目メイは、その友達から、すべてを奪った。
だからあたしは、夏目メイのすべてを奪おうとした。
結局、あたしは夏目メイの手のひらの上で泳がされていただけだったけれど、夏目メイは、自分をあそこまで追い詰めたのは、これまでもこれからもきっとあたしだけだと言った。
だから、あたしに生きてほしいと言った。
褒められている気は全然しなかったし、あたしは夏目メイに人格だけとはいえ命を救われたことが本当に腹立たしかった。
だから、あたしはこれまで一度も表に出ることはなかった。
あたしが、表に出るとしたら、あの子に、加藤麻衣に、もう一度出会えるかもしれない、そのときだけだと決めていた。
そのためなら、あたしは夏目メイからかけられた慈悲のようなものを甘んじて受け入れようと思った。
けれど、夏目メイは徐々にあたしが知る夏目メイではなくなっていった。
今ではもう、あたしが殺してやりたいほど憎いと思っていた彼女ではなかった。
山汐凛の別人格のひとつになることで、あたしは夏目メイが歩んできた人生を知ってしまった。
本当は姉思いの優しい女の子であったのだと知ってしまった。
けれど、だからといって、彼女が麻衣にしたことがなかったことになるわけじゃない。
もしかしたら、麻衣はそれすらも受け入れて許してしまうかもしれないけれど。
麻衣だけじゃない。
ハルにしたことも、ナオにしたことも。
あたしは絶対に許さない。
だから、手を貸すのは、これっきりだ。
あたしにしかできないことがあるから。
だから、あたしはケータイで知り合いに電話をかけた。
死者からの電話に、あの男はきっと驚くだろうな、と思った。
あたしは、そんな風にして、赤の他人のブスの身体とはいえ、再び生きることができることを楽しんでいる自分に気づきながらも、その気持ちはあたしの心の奥底にしまいこむことにした。
          
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