あなたが創ったこの世界をわたしは壊したい。
第16話(第98話)
「わたしのこと、覚えてる?
青西高校で同じクラスだった雨野みかな」
わたしは芽衣に声をかけたときと同じように、凛に声をかけた。
「覚えてるよ。雨野さん、いつもわたしと麻衣を見てたね」
と、凛は言った。
嬉しかった。
凛がわたしを覚えてくれていただけじゃなくて、わたしがふたりを見ていたことに気づいてくれていたことに。
「山汐さんや加藤さんと友達になりたいなって、ずっと思ってたから」
わたしは言った。
「わたしの中で夏目メイが暴れはじめる前に、麻衣と雨野さんのことを話してたの。
夏休みが終わって、二学期になったら、ふたりで雨野さんに声をかけてみようって。
でも、できなくて、ごめんね」
わたしは、ふたりがそんな風に思ってくれていたことが、たまらなく嬉しかった。
「じゃあ、今から、友達になってくれる?」
そう尋ねたわたしに、
「わたしのことが怖くないの?」
と、凛は言った。
「怖くないよ」
わたしは、凛の手を握った。
彼女は、ありがとう、と小さな声で言った。
「でも、わたし、どうしてここにいるのかな?
わたし、携帯電話を全部捨てて、何もかも全部芽衣に押し付けて逃げようとしたはずなのに」
「学校帰りに芽衣ちゃんを見つけて、わたしから声をかけたの」
それからわたしは、これまでのことを凛に話して訊かせた。
おにーちゃんは、パソコンの画面を凛に見せた。
そこには、山汐紡に山汐芽衣、内藤美嘉、そして夏目メイがいた。
アバターとでも呼んだらいいのかな、山汐凛の顔や声をベースに、おにーちゃんと紡がふたりで作った姿だった。
「凛、聞こえるかい?」
パソコンの中で紡が喋る。
「これは何?」
そう尋ねた凛に、おにーちゃんじゃなくて、紡が答えた。
「そこにいる彼が、人格管理システムによってデジタル化されたぼくたちを、パソコンで起動できるようにしてくれた。
この姿や声は、凛の顔や声を元に作ったかりそめのものだけれど、人格はすべて本物だ。
彼は美嘉やメイの復元もしてくれた」
「久しぶりだね、凛」
内藤美嘉が言った。
「わたしたちだけじゃない。みんないるよ。108人全員いる。
ここは、仮想空間ってやつらしくてさ、そっちの世界とほとんどおんなじに作られてるんだ。まだ横浜市内だけだし、見ての通り雑なポリゴンだけど」
「最初のバーチャファイターくらいひどいだろ? 彼、センスないんだ。技術はすごいけどね」
紡が笑いながらそう言った。
「お姉ちゃん、芽衣たちはね、この世界で生きていこうと思うの」
芽衣が言い、
「ここなら、わたしでも欲望や負の感情をうまくおさえつけられそうなんだよね。
日差しもよくて、空気もきれいで。自分でもおかしなこと言ってるなって思うんだけど。
でも、そう感じるんだよ」
夏目メイは言った。
「凛、本当はもうわかってるんだろう?
ぼくが、死んでしまっていることを。
ぼくは死んだ紡の代わりに、凛が産み出した人格でしかないことを」
「芽衣が産まれてくることができなかったことも、わかってるよね?」
「あんたにはもう、空想のお友達も、兄や妹のかわりも必要ないでしょ?」
「いま、あんたの心は、わたしと同じくらい穏やかなはずだよ。
あんたは、わたしたちがいなくても、もう生きていけるはずだよ」
凛は、そうだね、と言った。
とてもさびしそうで、かなしそうに。
          
青西高校で同じクラスだった雨野みかな」
わたしは芽衣に声をかけたときと同じように、凛に声をかけた。
「覚えてるよ。雨野さん、いつもわたしと麻衣を見てたね」
と、凛は言った。
嬉しかった。
凛がわたしを覚えてくれていただけじゃなくて、わたしがふたりを見ていたことに気づいてくれていたことに。
「山汐さんや加藤さんと友達になりたいなって、ずっと思ってたから」
わたしは言った。
「わたしの中で夏目メイが暴れはじめる前に、麻衣と雨野さんのことを話してたの。
夏休みが終わって、二学期になったら、ふたりで雨野さんに声をかけてみようって。
でも、できなくて、ごめんね」
わたしは、ふたりがそんな風に思ってくれていたことが、たまらなく嬉しかった。
「じゃあ、今から、友達になってくれる?」
そう尋ねたわたしに、
「わたしのことが怖くないの?」
と、凛は言った。
「怖くないよ」
わたしは、凛の手を握った。
彼女は、ありがとう、と小さな声で言った。
「でも、わたし、どうしてここにいるのかな?
わたし、携帯電話を全部捨てて、何もかも全部芽衣に押し付けて逃げようとしたはずなのに」
「学校帰りに芽衣ちゃんを見つけて、わたしから声をかけたの」
それからわたしは、これまでのことを凛に話して訊かせた。
おにーちゃんは、パソコンの画面を凛に見せた。
そこには、山汐紡に山汐芽衣、内藤美嘉、そして夏目メイがいた。
アバターとでも呼んだらいいのかな、山汐凛の顔や声をベースに、おにーちゃんと紡がふたりで作った姿だった。
「凛、聞こえるかい?」
パソコンの中で紡が喋る。
「これは何?」
そう尋ねた凛に、おにーちゃんじゃなくて、紡が答えた。
「そこにいる彼が、人格管理システムによってデジタル化されたぼくたちを、パソコンで起動できるようにしてくれた。
この姿や声は、凛の顔や声を元に作ったかりそめのものだけれど、人格はすべて本物だ。
彼は美嘉やメイの復元もしてくれた」
「久しぶりだね、凛」
内藤美嘉が言った。
「わたしたちだけじゃない。みんないるよ。108人全員いる。
ここは、仮想空間ってやつらしくてさ、そっちの世界とほとんどおんなじに作られてるんだ。まだ横浜市内だけだし、見ての通り雑なポリゴンだけど」
「最初のバーチャファイターくらいひどいだろ? 彼、センスないんだ。技術はすごいけどね」
紡が笑いながらそう言った。
「お姉ちゃん、芽衣たちはね、この世界で生きていこうと思うの」
芽衣が言い、
「ここなら、わたしでも欲望や負の感情をうまくおさえつけられそうなんだよね。
日差しもよくて、空気もきれいで。自分でもおかしなこと言ってるなって思うんだけど。
でも、そう感じるんだよ」
夏目メイは言った。
「凛、本当はもうわかってるんだろう?
ぼくが、死んでしまっていることを。
ぼくは死んだ紡の代わりに、凛が産み出した人格でしかないことを」
「芽衣が産まれてくることができなかったことも、わかってるよね?」
「あんたにはもう、空想のお友達も、兄や妹のかわりも必要ないでしょ?」
「いま、あんたの心は、わたしと同じくらい穏やかなはずだよ。
あんたは、わたしたちがいなくても、もう生きていけるはずだよ」
凛は、そうだね、と言った。
とてもさびしそうで、かなしそうに。
          
コメント