あなたが創ったこの世界をわたしは壊したい。
第10話(第92話)
ムスヒの扉を開くことができるのはわたしだけで、その先の聖域(サンクチュアリ。※ ただのおにーちゃんの部屋)に招かれることが許されているのも、わたしだけだった。
けれど、子どもは無邪気だ。
「あー! えっちなかっこうをしたおんなのひとのだきまくらだー!!」
と、簡単に聖域(サンクチュアリ)に足を踏み入れて、ベッドに座ってしまった。
「みかなお姉ちゃんのおにーちゃんは、えっちなんだね!」
おにーちゃんはわたしに、誰? と聞いた。
本来ならわたし以外の誰かがこの部屋に入ってくることに、ひどく拒絶反応を見せるはずなのに、どうやらさすがのひきこもり歴・祝10年のおにーちゃんも、無邪気な子どもの予想の斜め上の行動に、それどころではないようだった。
だから、わたしは、
「芽衣ちゃんていうんだって」
と、答えた。
そして、わたしは制服の胸のポケットに入っていたボールペンと生徒手帳を取り出した。
「学校帰りに知りあったの。
去年わたしのクラスメイトだった山汐凛さんの妹みたい。
11歳で、小学5年生」
おにーちゃんの顔色が変わった。
「迷子って言ったらいいのかな?
お姉さんやお兄さんがどこかに行っちゃって、携帯電話は家に忘れてきちゃったし、ふたりの携帯番号もわからないって言うし、家の電話も場所もわかるものを持ってなかったから、おにーちゃんならどうにかしてくれるかなって連れてきたんだ」
そう説明をしながら、わたしは生徒手帳の白紙のページに、芽衣に聞かせたくないことを書いて、おにーちゃんに見せた。
『本人はそう言ってるけど、顔や声や背丈もわたしが知ってる山汐凛と同じ』
「おにーちゃん、そういうの調べるの得意だったよね?
ちょっと調べてあげてほしいんだ。
お姉さんかお兄さんに迎えにきてもらうか、わたしがタクシーで送り届けるか、どっちかになっちゃうけど」
『もしかして、山汐凛は、解離性同一性障害?』
おにーちゃんは、そうだよ、と言って、パソコンで調べものをするふりをして、メモ帳を起動した。
ブラインドタッチで素早く文章を打ち込んでいく。
『山汐凛は、山汐凛を主人格とし、別人格に山汐紡や夏目メイ、内藤美嘉がいた』
わたしは、美少女フィギュアのスカートの中を覗き込んでいた芽衣に、
「少し時間がかかるかもしれないけど、待っててね、今おにーちゃんが調べてくれるから」
と言った。
おにーちゃんはフィギュアは一度並べたらそれで満足してしまって、どれだけ埃がかぶったり、いつのまにか腕がとれたりしていても気にしない人だから、別に触ったりするのはいいんだけど、でも11歳で美少女フィギュアのスカートの中を覗き込んじゃうのは、さすがにどうかなって思った。
「は~~~い。この子たちのぱんつを全部見たりしてる~」
『前に、おにーちゃんの友達が持ってきた四台の携帯電話にあった名前と同じだよね。
でも、あの子は、夏目メイじゃなくて、山汐芽衣って名乗った』
『山汐は、母親の旧姓。
両親は別居してるだけで、離婚はしていない。していなかった、かな。
山汐凛の本名は、夏目凛。
去年の秋に、横浜で暴力団同士の抗争があった。
鬼頭組に潰された夏目組が、父親の実家。
組長だって祖父も、次期組長だった父親もその抗争で死んだ。
その頃、山汐凛の体は、完全に夏目メイが支配していた。
母親も同じ時期に何者かによって殺害されている。
たぶん、母親を殺したのは夏目メイ。
夏目メイは、冬頃、■■県■■■村にある、一家心中した家族の死体が転がっている家に潜伏していた。
でも、そこへ、ぼくの友達・加藤学と、その恋人・久東羽衣、それから夏目メイが青西高校を去ったあとに通っていた城戸女学園時代の友達だった草詰アリスの3人が』
……城戸女学園?
山汐凛は、夏目メイは、わたしが通う高校から、佳代が通うお嬢様学校に転校していた……?
『3人が、その村にいる夏目メイを訪ねていった。
メイは、アリスを拳銃で撃った。
羽衣はメイの意識がなくなるまで彼女を殴り続けた。
学は救急車と警察を呼び、羽衣だけを連れて、その場から逃走した。
その際に夏目メイの潜伏場所から学が持ち出したものが、あの四台の携帯電話だ』
わたしは、おにーちゃんがパソコンのメモ帳に打ち込んだ文章を読んで、驚きを隠せなかった。
『加藤麻衣に売春を強要していたのは、山汐凛ではなく、夏目メイ。
バスケ部員にレイプされたのは、山汐凛ではなく、内藤美嘉。
内藤美嘉の人格はすでに消滅している。
彼女たちの人格が入れ替わるタイミングは、それぞれの持つ携帯電話に電話やメールの着信があったとき。
山汐紡の人格は、凛の兄の人格。
紡は、実際に凛の兄だったが、凛が5歳のときに祖父に殺されてる。
だから、凛は死んだ兄の代わりに、自分の中に兄を産んだ。
紡は、凛や母親の目の前で祖父に殺された。
母親は凛の妹を妊娠していた。でも流産した。
夏目メイ、あるいは、いまそこにいる山汐芽衣は、産まれてくることができなかったその妹の代わりに凛が作り出した人格だ。
凛は次々に別人格を産み出していくようになり、日に日に精神状態が悪化していった。
紡の人格は、それをどうにかしようとして、通話中の携帯電話が発する、加熱中の電子レンジと同じレベルの強力な電磁波を利用して、それぞれの人格をデジタル化したプログラムに変換し、携帯電話で人格を管理できるシステムを作った。
ぼくが、友達に依頼されたのは、そんなにわかには信じられないようなプログラムが実在し、携帯電話で人格を管理することが可能かどうかの解析だった。
その後、あの四台の携帯電話は、学が破壊した。
けれど、学は今、脳死の状態で横浜市内の病院に入院している』
          
けれど、子どもは無邪気だ。
「あー! えっちなかっこうをしたおんなのひとのだきまくらだー!!」
と、簡単に聖域(サンクチュアリ)に足を踏み入れて、ベッドに座ってしまった。
「みかなお姉ちゃんのおにーちゃんは、えっちなんだね!」
おにーちゃんはわたしに、誰? と聞いた。
本来ならわたし以外の誰かがこの部屋に入ってくることに、ひどく拒絶反応を見せるはずなのに、どうやらさすがのひきこもり歴・祝10年のおにーちゃんも、無邪気な子どもの予想の斜め上の行動に、それどころではないようだった。
だから、わたしは、
「芽衣ちゃんていうんだって」
と、答えた。
そして、わたしは制服の胸のポケットに入っていたボールペンと生徒手帳を取り出した。
「学校帰りに知りあったの。
去年わたしのクラスメイトだった山汐凛さんの妹みたい。
11歳で、小学5年生」
おにーちゃんの顔色が変わった。
「迷子って言ったらいいのかな?
お姉さんやお兄さんがどこかに行っちゃって、携帯電話は家に忘れてきちゃったし、ふたりの携帯番号もわからないって言うし、家の電話も場所もわかるものを持ってなかったから、おにーちゃんならどうにかしてくれるかなって連れてきたんだ」
そう説明をしながら、わたしは生徒手帳の白紙のページに、芽衣に聞かせたくないことを書いて、おにーちゃんに見せた。
『本人はそう言ってるけど、顔や声や背丈もわたしが知ってる山汐凛と同じ』
「おにーちゃん、そういうの調べるの得意だったよね?
ちょっと調べてあげてほしいんだ。
お姉さんかお兄さんに迎えにきてもらうか、わたしがタクシーで送り届けるか、どっちかになっちゃうけど」
『もしかして、山汐凛は、解離性同一性障害?』
おにーちゃんは、そうだよ、と言って、パソコンで調べものをするふりをして、メモ帳を起動した。
ブラインドタッチで素早く文章を打ち込んでいく。
『山汐凛は、山汐凛を主人格とし、別人格に山汐紡や夏目メイ、内藤美嘉がいた』
わたしは、美少女フィギュアのスカートの中を覗き込んでいた芽衣に、
「少し時間がかかるかもしれないけど、待っててね、今おにーちゃんが調べてくれるから」
と言った。
おにーちゃんはフィギュアは一度並べたらそれで満足してしまって、どれだけ埃がかぶったり、いつのまにか腕がとれたりしていても気にしない人だから、別に触ったりするのはいいんだけど、でも11歳で美少女フィギュアのスカートの中を覗き込んじゃうのは、さすがにどうかなって思った。
「は~~~い。この子たちのぱんつを全部見たりしてる~」
『前に、おにーちゃんの友達が持ってきた四台の携帯電話にあった名前と同じだよね。
でも、あの子は、夏目メイじゃなくて、山汐芽衣って名乗った』
『山汐は、母親の旧姓。
両親は別居してるだけで、離婚はしていない。していなかった、かな。
山汐凛の本名は、夏目凛。
去年の秋に、横浜で暴力団同士の抗争があった。
鬼頭組に潰された夏目組が、父親の実家。
組長だって祖父も、次期組長だった父親もその抗争で死んだ。
その頃、山汐凛の体は、完全に夏目メイが支配していた。
母親も同じ時期に何者かによって殺害されている。
たぶん、母親を殺したのは夏目メイ。
夏目メイは、冬頃、■■県■■■村にある、一家心中した家族の死体が転がっている家に潜伏していた。
でも、そこへ、ぼくの友達・加藤学と、その恋人・久東羽衣、それから夏目メイが青西高校を去ったあとに通っていた城戸女学園時代の友達だった草詰アリスの3人が』
……城戸女学園?
山汐凛は、夏目メイは、わたしが通う高校から、佳代が通うお嬢様学校に転校していた……?
『3人が、その村にいる夏目メイを訪ねていった。
メイは、アリスを拳銃で撃った。
羽衣はメイの意識がなくなるまで彼女を殴り続けた。
学は救急車と警察を呼び、羽衣だけを連れて、その場から逃走した。
その際に夏目メイの潜伏場所から学が持ち出したものが、あの四台の携帯電話だ』
わたしは、おにーちゃんがパソコンのメモ帳に打ち込んだ文章を読んで、驚きを隠せなかった。
『加藤麻衣に売春を強要していたのは、山汐凛ではなく、夏目メイ。
バスケ部員にレイプされたのは、山汐凛ではなく、内藤美嘉。
内藤美嘉の人格はすでに消滅している。
彼女たちの人格が入れ替わるタイミングは、それぞれの持つ携帯電話に電話やメールの着信があったとき。
山汐紡の人格は、凛の兄の人格。
紡は、実際に凛の兄だったが、凛が5歳のときに祖父に殺されてる。
だから、凛は死んだ兄の代わりに、自分の中に兄を産んだ。
紡は、凛や母親の目の前で祖父に殺された。
母親は凛の妹を妊娠していた。でも流産した。
夏目メイ、あるいは、いまそこにいる山汐芽衣は、産まれてくることができなかったその妹の代わりに凛が作り出した人格だ。
凛は次々に別人格を産み出していくようになり、日に日に精神状態が悪化していった。
紡の人格は、それをどうにかしようとして、通話中の携帯電話が発する、加熱中の電子レンジと同じレベルの強力な電磁波を利用して、それぞれの人格をデジタル化したプログラムに変換し、携帯電話で人格を管理できるシステムを作った。
ぼくが、友達に依頼されたのは、そんなにわかには信じられないようなプログラムが実在し、携帯電話で人格を管理することが可能かどうかの解析だった。
その後、あの四台の携帯電話は、学が破壊した。
けれど、学は今、脳死の状態で横浜市内の病院に入院している』
          
コメント