あなたが創ったこの世界をわたしは壊したい。
第9話(第91話)
わたしは、山汐芽衣を自分の部屋に案内すると、
「ちょっとだけ、このお部屋で待っててね。テレビを観ててくれてもいいし、本棚にある本、どれでも読んでくれていいからね」
そう言って、おにーちゃんの部屋のドアをノックした。
おにーちゃんの部屋に入るには、いくら家族の中で唯一心を開いてもらえているわたしが相手があっても、セキュリティを突破する必要があった。
わたしは、それを芽衣に見られたくなかった。
ドアにはカギがかかっていて、第一関門はそのノックの仕方だ。
モールス信号の符号で、わたしが「み」「か」「な」であることを伝えなければいけない。
おとーさんもおかーさんもモールス信号なんて知らないから、この時点でドアを開けてくれてもわたしは一向に構わないのだけれど。
第二関門は、合言葉だ。
部屋の中から、おにーちゃんがまず、
「古の呪(いにしえのじゅ)」
と言う。
わたしはそれに対し、
「憎しみの幻影(にくしみのヴィジョン)」
と答える。
「未知の名の弔花(きょうか)」には、「大いなる力」と答え、「天地を繋ぐ憎悪の鎖」には、「我はその魂に手を伸ばさん」と答える。
そうして、ようやく、ムスヒの扉が開く。
わたしは、毎日、そんな風にしておにーちゃんの部屋のドア「ムスヒの扉」を開ける。
芽衣くらいの年の頃は、それが当たり前だと思っていたし、わたしもそれを楽しんでいた。
中学二年になる頃に、幼馴染みの佳代から、
「みかなのお兄ちゃんって、中二病だよね」
そう言われるまで、わたしはそれが異常なことであることに気づかなかった。
しかし、その後もわたしは、異常なことであると知りながらも、
「どうした? 今日はいつものようにノリノリでやってくれないんだな。具合でも悪いのか?」
ムスヒの扉の向こうにいるおにーちゃんにそう言われてしまうくらいには、この年になっても、ノリノリでそれをやっていた。
具体的にはハリー・ポッターの映画の戦闘シーンで呪文を唱えるハリーくらいの勢いでやっていた。
……えっと、実はハリー・ポッター、1作目しか観たことないんだけど、バトルシーンもあるよね?
「ちょっと、ワケアリでね」
と、わたしは答え、
「ほう、ならば、その訳をじっくり聞かせてもらおうか」
おにーちゃんがムスヒの扉を開き、わたしを部屋に招き入れようとしたとき、
「芽衣も今のやりたい!」
わたしはそのとき、はじめて芽衣に一部始終を見られていたことに気づき、絶句した。
「なるほど。今宵は招かれざる客がいたか……」
おにーちゃんも芝居がかった口調は変えずに、冷や汗をだらだらとかいていた。
「まだ夕方の5時半くらいだけどね」
他人に見られたら恥ずかしいことをしているという自覚が、おにーちゃんにちゃんとあって良かった、とわたしは思った。
「ちょっとだけ、このお部屋で待っててね。テレビを観ててくれてもいいし、本棚にある本、どれでも読んでくれていいからね」
そう言って、おにーちゃんの部屋のドアをノックした。
おにーちゃんの部屋に入るには、いくら家族の中で唯一心を開いてもらえているわたしが相手があっても、セキュリティを突破する必要があった。
わたしは、それを芽衣に見られたくなかった。
ドアにはカギがかかっていて、第一関門はそのノックの仕方だ。
モールス信号の符号で、わたしが「み」「か」「な」であることを伝えなければいけない。
おとーさんもおかーさんもモールス信号なんて知らないから、この時点でドアを開けてくれてもわたしは一向に構わないのだけれど。
第二関門は、合言葉だ。
部屋の中から、おにーちゃんがまず、
「古の呪(いにしえのじゅ)」
と言う。
わたしはそれに対し、
「憎しみの幻影(にくしみのヴィジョン)」
と答える。
「未知の名の弔花(きょうか)」には、「大いなる力」と答え、「天地を繋ぐ憎悪の鎖」には、「我はその魂に手を伸ばさん」と答える。
そうして、ようやく、ムスヒの扉が開く。
わたしは、毎日、そんな風にしておにーちゃんの部屋のドア「ムスヒの扉」を開ける。
芽衣くらいの年の頃は、それが当たり前だと思っていたし、わたしもそれを楽しんでいた。
中学二年になる頃に、幼馴染みの佳代から、
「みかなのお兄ちゃんって、中二病だよね」
そう言われるまで、わたしはそれが異常なことであることに気づかなかった。
しかし、その後もわたしは、異常なことであると知りながらも、
「どうした? 今日はいつものようにノリノリでやってくれないんだな。具合でも悪いのか?」
ムスヒの扉の向こうにいるおにーちゃんにそう言われてしまうくらいには、この年になっても、ノリノリでそれをやっていた。
具体的にはハリー・ポッターの映画の戦闘シーンで呪文を唱えるハリーくらいの勢いでやっていた。
……えっと、実はハリー・ポッター、1作目しか観たことないんだけど、バトルシーンもあるよね?
「ちょっと、ワケアリでね」
と、わたしは答え、
「ほう、ならば、その訳をじっくり聞かせてもらおうか」
おにーちゃんがムスヒの扉を開き、わたしを部屋に招き入れようとしたとき、
「芽衣も今のやりたい!」
わたしはそのとき、はじめて芽衣に一部始終を見られていたことに気づき、絶句した。
「なるほど。今宵は招かれざる客がいたか……」
おにーちゃんも芝居がかった口調は変えずに、冷や汗をだらだらとかいていた。
「まだ夕方の5時半くらいだけどね」
他人に見られたら恥ずかしいことをしているという自覚が、おにーちゃんにちゃんとあって良かった、とわたしは思った。
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