あなたが創ったこの世界をわたしは壊したい。
第34話(第78話)
「だから、あなたは、大切な人のそばにいてあげて」
夏目メイはそう言って目を閉じた。
そして、その目が開いたとき、加藤学が帰ってきた。
「羽衣ちゃん、君はやっぱりすごい女の子だね」
そう言って、彼は眠ってしまった。
それから12年、彼は眠り続けた。
夏目メイが、山汐凛の身体から抜け出して、赤の他人の頭の中に作った人格の受け皿に憑依したのは、そのときがはじめてのことだったらしい。
ツムギは理論上は可能だと言っていたそうだ。
けれど、臓器移植手術で患者の身体がドナーが提供してくれた臓器に拒絶反応を起こして失敗に終わることがあるように、学の脳が夏目メイの人格の憑依に対し強い拒絶反応を引き起こしたのだろうとツムギは言った。
学は、それほどまでに強い気持ちで、わたしを守ろうとしてくれた。
その結果、彼は夏目メイの最期の犠牲者になってしまった。
わたしは救急車を呼び、学は病院に運ばれた。
わたしは警察に保護され、実家へと引き戻された。
これまで通り、地元愛知の高校に片道一時間半かけて通い、土日になると学が入院している病院に見舞いに行った。
アリスの許可をもらって、家に泊まらせてもらった。
アリスはまだ入院していて、
「メイがアリスのお見舞いに来てくれたよ」
と言った。
「でも、メイはアリスの知ってるメイじゃなくなってた」
悲しそうにそう言ったアリスに、わたしは夏目メイが産まれた経緯を話した。
夏目メイは悪者を演じていただけで、それはもうやめたのだと。
わたしの兄を、アリスの恋人だったシュウを殺してなんかいなかったことも話した。
「そっか、じゃあ、あのメイは、山汐芽衣っていう、お姉さん思いの優しい子なんだね」
今度こそアリスと友達になってくれるかな、羽衣みたいに、と言った彼女に、わたしは、きっとなれるよ、と言って彼女の手を握った。
学の何度目かの見舞いで、行方不明になっていた彼の妹の方の加藤麻衣と出会った。
彼女は、彼の映画で見た通り、女優である母親の内倉綾音にそっくりで、一目で彼女だとわかった。
かわいらしくて美しくて、でもどこかはかなげな女の子だった。
「お兄ちゃんのお友達?」
わたしは、はい、と言った。
わたしが彼と過ごした時間は、わずか数日のことで、自分が彼の彼女だとはおこがましくて言えなかった。
わたしが彼を巻き込んだ。
その結果、彼はいわゆる脳死と呼ばれる状態になってしまった。
だから、彼女だなんて言えないと思った。
だけど、彼の代わりに彼女に彼の気持ちを伝えられるのはわたしだけだと思った。
「あちら側から帰ってこれたんだね」
と、わたしは言った。
彼女は、とても驚いた顔をしていた。
「あなたはお兄さんのことが嫌いだったかもしれないけど、お兄さんはあなたのことが大好きだったんだよ」
と、わたしは言った。
「今は、いろんなことがあって眠ってしまっているけど、あなたがある日突然いなくなってしまって、お兄さんは小説が書けなくなるくらい取り乱して、それどころか普通の男の子ですらいられなくなるくらいに、自信を失って……
大好きなあなたの前でだけは、かっこいいお兄さんでいたかったんだって。
だから、小さい頃からずっと虚勢を張り続けていたんだって」
わたしはそう言った。
すると彼女は、
「もしかして、久東羽衣さんですか?」
と、わたしの名前を呼んだ。
          
夏目メイはそう言って目を閉じた。
そして、その目が開いたとき、加藤学が帰ってきた。
「羽衣ちゃん、君はやっぱりすごい女の子だね」
そう言って、彼は眠ってしまった。
それから12年、彼は眠り続けた。
夏目メイが、山汐凛の身体から抜け出して、赤の他人の頭の中に作った人格の受け皿に憑依したのは、そのときがはじめてのことだったらしい。
ツムギは理論上は可能だと言っていたそうだ。
けれど、臓器移植手術で患者の身体がドナーが提供してくれた臓器に拒絶反応を起こして失敗に終わることがあるように、学の脳が夏目メイの人格の憑依に対し強い拒絶反応を引き起こしたのだろうとツムギは言った。
学は、それほどまでに強い気持ちで、わたしを守ろうとしてくれた。
その結果、彼は夏目メイの最期の犠牲者になってしまった。
わたしは救急車を呼び、学は病院に運ばれた。
わたしは警察に保護され、実家へと引き戻された。
これまで通り、地元愛知の高校に片道一時間半かけて通い、土日になると学が入院している病院に見舞いに行った。
アリスの許可をもらって、家に泊まらせてもらった。
アリスはまだ入院していて、
「メイがアリスのお見舞いに来てくれたよ」
と言った。
「でも、メイはアリスの知ってるメイじゃなくなってた」
悲しそうにそう言ったアリスに、わたしは夏目メイが産まれた経緯を話した。
夏目メイは悪者を演じていただけで、それはもうやめたのだと。
わたしの兄を、アリスの恋人だったシュウを殺してなんかいなかったことも話した。
「そっか、じゃあ、あのメイは、山汐芽衣っていう、お姉さん思いの優しい子なんだね」
今度こそアリスと友達になってくれるかな、羽衣みたいに、と言った彼女に、わたしは、きっとなれるよ、と言って彼女の手を握った。
学の何度目かの見舞いで、行方不明になっていた彼の妹の方の加藤麻衣と出会った。
彼女は、彼の映画で見た通り、女優である母親の内倉綾音にそっくりで、一目で彼女だとわかった。
かわいらしくて美しくて、でもどこかはかなげな女の子だった。
「お兄ちゃんのお友達?」
わたしは、はい、と言った。
わたしが彼と過ごした時間は、わずか数日のことで、自分が彼の彼女だとはおこがましくて言えなかった。
わたしが彼を巻き込んだ。
その結果、彼はいわゆる脳死と呼ばれる状態になってしまった。
だから、彼女だなんて言えないと思った。
だけど、彼の代わりに彼女に彼の気持ちを伝えられるのはわたしだけだと思った。
「あちら側から帰ってこれたんだね」
と、わたしは言った。
彼女は、とても驚いた顔をしていた。
「あなたはお兄さんのことが嫌いだったかもしれないけど、お兄さんはあなたのことが大好きだったんだよ」
と、わたしは言った。
「今は、いろんなことがあって眠ってしまっているけど、あなたがある日突然いなくなってしまって、お兄さんは小説が書けなくなるくらい取り乱して、それどころか普通の男の子ですらいられなくなるくらいに、自信を失って……
大好きなあなたの前でだけは、かっこいいお兄さんでいたかったんだって。
だから、小さい頃からずっと虚勢を張り続けていたんだって」
わたしはそう言った。
すると彼女は、
「もしかして、久東羽衣さんですか?」
と、わたしの名前を呼んだ。
          
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