あなたが創ったこの世界をわたしは壊したい。
第27話(第71話)
夢を見た。
まるで映画のような夢だった。
その夢にわたしは出ていなくて、それを観ている観客だった。
映画のような、じゃなくて、映画のような何かを、映画館の一番良い席で、まるで貸し切ったかのように、わたしがひとりだけで観ている夢だった。
映画のような何かには夏目メイ? 山汐凛? が、テナント募集中の雑居ビルの中にいて、
「久しぶりだね、凛」
彼女に声をかけた少女がいた。
顔はモザイクじゃなくて、ボールペンで乱雑に塗りつぶされたように隠されていたけれど、わたしにはその少女が加藤麻衣だと何故だかわかった。
加藤学の妹の方の、女優さんじゃなくて、夏雲の主人公のモデルになった加藤麻衣。
「……凛じゃないか。メイだね。
こんな風に向かい合って話すのは、最後に会ったとき以来だから……何ヵ月ぶりかな?」
とても優しい声だった。
加藤麻衣が、本当に山汐凛を、夏目メイや他の別人格ごと、友達として大切に思っているのがわかる、そんな優しい優しい声だった。
「さぁ? 今さらわたしに、何か用?
わたしはあんたにもう何の用もないんだけど。
鬼頭結衣の仇討ちとか、そういうのはやめてよ。疲れるから」
けれど、夏目メイはその優しさを拒絶した。
最後には加藤麻衣の優しさや好意をヒールで踏みにじるような、嘲笑が含まれていた。
「その体を凛に返してもらいにきただけ」
それでも、加藤麻衣の優しい声は変わらない。
「丁重にお断りするわ。
わたしまだ消えたくないもの。
早く帰ってもらえる?
凛が目を覚ますと面倒だから」
夏目メイの拒絶も変わらない。
けれど、加藤麻衣は言った。
「凛にその体を返してくれるなら、アタシの体をあげるって言ったら?」
その言葉に、夏目メイは困惑した。
「どういう意味?」
「言葉通りの意味よ。
メイなら、凛の頭の中からわたしの中に引っ越してくることくらいできそうじゃない?」
加藤麻衣の声色が変わっていた。
まるで夏目メイを挑発するかのように。
「できるわけないでしょ」
夏目メイの拒絶は変わらない。
けれど、徐々に心の奥底から、煮えたぎるように熱い、どすぐろい何かが噴き出してきそうになっているのが、わたしにはわかった。
「なんだ、できないんだ?
じゃあ、メイって思ってたより大したことないんだね。
所詮は凛の別人格。
その体と、まわりにいる人間の心を操ることができるだけ。
いつ凛の心が救われて自分が用済みになるかを恐れているだけの、女王様気取りの小さな小さな女の子」
加藤麻衣の挑発は、
「死にたいの? わたしはいつでもあんたくらい殺せるんだよ?」
夏目メイの中の、煮えたぎるようにどすぐろい何かを噴き出させはじめた。
「あんたこそ、アタシの慈悲の心で生かされているだけだということに、いつになったら気づくの?」
「どういう意味?」
「言葉通りの意味。アタシは凛の心をいつでも救える。だから、あんたをいつでも消せる。
あんたはもう袋の鼠だよ。
トムとジェリーみたいに仲良く喧嘩してあげてたけど、もういいわ。
残念ね。わたしが最後にあんたにかけてあげた慈悲だったのに。
あんたがその体から出て来られないって言うのなら、わたしの体に引っ越すこともできないなら、あんたはもう終わり」
「わたしにできないことなんてない」
「じゃあ、やってみせてよ。
狐憑きって呼ばれてた頃みたいに。
わたしに憑依してみせてよ」
煮えたぎるように熱くて、どすぐろい何かは、夏目メイそのものだった。
それが、山汐凛の身体から噴き出して、まっすぐに加藤麻衣に向かっていく。
わたしは、止めなくちゃ、と思った。
席を立ち、映画館のスクリーンに向かって走り出した。
そして、わたしは、映画のような物語の中の登場人物のひとりになった。
そこで、わたしの目は覚めた。
まるで映画のような夢だった。
その夢にわたしは出ていなくて、それを観ている観客だった。
映画のような、じゃなくて、映画のような何かを、映画館の一番良い席で、まるで貸し切ったかのように、わたしがひとりだけで観ている夢だった。
映画のような何かには夏目メイ? 山汐凛? が、テナント募集中の雑居ビルの中にいて、
「久しぶりだね、凛」
彼女に声をかけた少女がいた。
顔はモザイクじゃなくて、ボールペンで乱雑に塗りつぶされたように隠されていたけれど、わたしにはその少女が加藤麻衣だと何故だかわかった。
加藤学の妹の方の、女優さんじゃなくて、夏雲の主人公のモデルになった加藤麻衣。
「……凛じゃないか。メイだね。
こんな風に向かい合って話すのは、最後に会ったとき以来だから……何ヵ月ぶりかな?」
とても優しい声だった。
加藤麻衣が、本当に山汐凛を、夏目メイや他の別人格ごと、友達として大切に思っているのがわかる、そんな優しい優しい声だった。
「さぁ? 今さらわたしに、何か用?
わたしはあんたにもう何の用もないんだけど。
鬼頭結衣の仇討ちとか、そういうのはやめてよ。疲れるから」
けれど、夏目メイはその優しさを拒絶した。
最後には加藤麻衣の優しさや好意をヒールで踏みにじるような、嘲笑が含まれていた。
「その体を凛に返してもらいにきただけ」
それでも、加藤麻衣の優しい声は変わらない。
「丁重にお断りするわ。
わたしまだ消えたくないもの。
早く帰ってもらえる?
凛が目を覚ますと面倒だから」
夏目メイの拒絶も変わらない。
けれど、加藤麻衣は言った。
「凛にその体を返してくれるなら、アタシの体をあげるって言ったら?」
その言葉に、夏目メイは困惑した。
「どういう意味?」
「言葉通りの意味よ。
メイなら、凛の頭の中からわたしの中に引っ越してくることくらいできそうじゃない?」
加藤麻衣の声色が変わっていた。
まるで夏目メイを挑発するかのように。
「できるわけないでしょ」
夏目メイの拒絶は変わらない。
けれど、徐々に心の奥底から、煮えたぎるように熱い、どすぐろい何かが噴き出してきそうになっているのが、わたしにはわかった。
「なんだ、できないんだ?
じゃあ、メイって思ってたより大したことないんだね。
所詮は凛の別人格。
その体と、まわりにいる人間の心を操ることができるだけ。
いつ凛の心が救われて自分が用済みになるかを恐れているだけの、女王様気取りの小さな小さな女の子」
加藤麻衣の挑発は、
「死にたいの? わたしはいつでもあんたくらい殺せるんだよ?」
夏目メイの中の、煮えたぎるようにどすぐろい何かを噴き出させはじめた。
「あんたこそ、アタシの慈悲の心で生かされているだけだということに、いつになったら気づくの?」
「どういう意味?」
「言葉通りの意味。アタシは凛の心をいつでも救える。だから、あんたをいつでも消せる。
あんたはもう袋の鼠だよ。
トムとジェリーみたいに仲良く喧嘩してあげてたけど、もういいわ。
残念ね。わたしが最後にあんたにかけてあげた慈悲だったのに。
あんたがその体から出て来られないって言うのなら、わたしの体に引っ越すこともできないなら、あんたはもう終わり」
「わたしにできないことなんてない」
「じゃあ、やってみせてよ。
狐憑きって呼ばれてた頃みたいに。
わたしに憑依してみせてよ」
煮えたぎるように熱くて、どすぐろい何かは、夏目メイそのものだった。
それが、山汐凛の身体から噴き出して、まっすぐに加藤麻衣に向かっていく。
わたしは、止めなくちゃ、と思った。
席を立ち、映画館のスクリーンに向かって走り出した。
そして、わたしは、映画のような物語の中の登場人物のひとりになった。
そこで、わたしの目は覚めた。
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