あなたが創ったこの世界をわたしは壊したい。

雨野美哉(あめの みかな)

第15話(第59話)

夏目メイが、山汐凛の別人格だというのは本当の話だよ。

ぼくは、創作の世界ではとうの昔に使い古されてしまっていた多重人格なんていうガジェットを使うことに、ひどく抵抗があった。

それに、麻衣ちゃんの伝えたいメッセージを、羽衣ちゃんやアリスちゃん、結衣ちゃんに伝えるには、物語をできるだけ分かりやすい形にしなければいけないと思った。

だから、物語の中では、山汐凛と、彼女の別人格たちを、それぞれ別の人物にすることにした。

でも、それは、真実から目をそらす行為でもあった。


あれでは夏目メイの本当のおそろしさが伝わらない。


羽衣ちゃんが夏目メイに会いたいと思ってしまったように、出版社が開催したキャラクター人気投票で、夏目メイは読者から最も嫌われているキャラクターに選ばれたけれど、最も愛されているキャラクターにも選ばれてしまった。

ぼくは、真実を歪めるべきではなかった。


山汐凛は携帯電話を四台持っていたんだ。

山汐凛、山汐紡(つむぎ)、内藤美嘉、夏目メイ、それぞれの人格が携帯電話を一台ずつ持っていた。

人格が入れ替わるタイミングは、それぞれの携帯電話に、電話かメールの着信があったとき。


だから麻衣ちゃんが、内藤美嘉の携帯電話の番号を、ナナセという男に教えたことがきっかけで、山汐凛の中の別人格である夏目メイや内藤美嘉に、売春を強要されたというのは本当の話なんだ。

山汐凛は、自分が別人格の内藤美嘉を嫌っていたから、美嘉を消すためにナナセを利用したと、羽衣ちゃんに話したと思う。

でも、実際には違う。

麻衣ちゃんと山汐凛は本当に友達だった。
あの子は、山汐凛のすべてを、別人格である夏目メイや内藤美嘉、山汐紡をも受け入れようとした。

けれど、夏目メイがそれを拒んだ。

山汐凛の心が、麻衣ちゃんによって救われてしまったら、自分たちの、いや、自分の存在が危うくなる。

夏目メイはそう考えた。

だから、売春強要事件のきっかけとなった、加藤麻衣がナナセに内藤美嘉の携帯電話の番号を教えてしまう、というところから、すべて夏目メイが仕組んだことだったんだ。


今の山汐凛は、夏目メイが自ら天岩戸(あまのいわと)に閉じ籠ったと話しているけれど、山汐凛が夏目メイに対して天岩戸に閉じ籠ったなんて表現をするわけがないんだ。

天岩戸は、日本神話で神の国である高天原(たかまがはら)の最高神である天照(アマテラス)が閉じ籠った場所なんだ。

山汐凛とその別人格たちの脳内世界が高天原だとしたなら、最高神は主人格である山汐凛のはずなんだ。

夏目メイが主人格であるかのように、山汐凛が表現するわけがない。

つまり、実際に天岩戸に閉じ籠っているのは、山汐凛なんだ。
それだけじゃない。山汐凛は自ら閉じ籠ったわけじゃなく、夏目メイに閉じ込められたんだ。

夏目メイが自ら天岩戸に閉じ籠った、という表現は、山汐凛のふりをしている夏目メイが、自らを天照にたとえているだけ。
実際には天岩戸の中にいるのは山汐凛なのに、まるで自分こそが主人格であるとでも言うように、そう表現しているだけ。

加藤麻衣だけが、山汐凛を天岩戸から出すことができる。

山汐凛の心を救える。

夏目メイを消すことができるのは、加藤麻衣だけなんだ。





          

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