あなたが創ったこの世界をわたしは壊したい。
第7話(第51話)
その夜、わたしはアリスを抱いた。
セックスなんてしたことはなかったし、女同士でどうしたらいいのかもわからなかったけれど。
だから、わたしたちがその夜したことが正しい仕方だったのかどうかすらわからないけれど。
わたしはアリスを抱いた。
夏目メイに会うためではなく、わたしがそうしたいと思ったから。
彼女を好きになった兄の気持ちが痛いほどよくわかったから。
アリスはきっと兄に抱かれたかったのだろう。
だけど彼女は、ひどい男性恐怖症だった。
兄のことをどれだけ好きでも、兄と手を繋ぐことも、兄と並んで歩くことさえできなかった。
わたしは、兄のかわりに、シュウとして、彼女を抱いた。
彼女がそれを望んでいると思ったから。
「シュウ……好き……」
わたしの隣で裸で眠るアリスは寝言で兄の名前を呼んだ。
わたしはその頭を撫でながら、眠った。
翌朝、目を覚ますとベッドにアリスの姿はなかった。
そばにあった車椅子もなかった。
わたしはなんだか嫌な予感がして、寝室を出た。
けれど、アリスはリビングにいて、誰かと携帯電話で話していた。
ほっとした。
彼女が、生きていてくれたことに。
寝室を出て電話をしていたのは、わたしを起こしてしまわないためで、その内容もわたしに聞かれて困る話ではないらしかった。
わたしの顔を見て彼女はにっこりと微笑み「おはよう」とだけ言って、電話を続けた。
「あなたも見たでしょ? シュウの妹の、羽衣の書き込み。
彼女、横浜に来てる。今、わたしの家にいる。
メイのところへ案内してほしいの」
電話の相手は小島ゆきだろうか?
祖父が不正な政治献金の授与を理由に政治生命を絶たれた今も、小島ゆきならば夏目メイの居場所を知っていてもおかしくはなかった。
小島ゆきの祖父が政治生命を絶たれると同時に、不正な政治献金の出所であり広域指定暴力団であった夏目メイの家もまた、同じいわゆるヤクザの鬼頭結衣の家に潰されていた。
そこまでが夏目メイの描いたシナリオだった。
しかし、アリスは、教えてほしい、ではなく、案内してほしい、と電話の相手に言った。
ゆうべ、夏目メイの居場所を知っている、とも言った。
居場所を知ってはいるが、案内が必要な場所に夏目メイはいるのだ。
相手は小島ゆきではないのかもしれない。
わたしがそんなことを考えていると、
「あのまとめサイトの管理人」
と、アリスはわたしに教えてくれた。
青西高校の売春強要事件をはじめとする夏目メイが引き起こした事件についてまとめたサイトは数多くあった。
その中にひとつだけ最も情報密度の高いサイトがあった。
事件関係者の目撃情報までが逐一更新されていく、わたしが自ら書き込んで、その直後にアリスがわたしを迎えにきたサイトだ。
わたしは何故気付かなかったのだろう。
あのまとめサイトには、事件関係者でなければ知りえないことまで書かれていた。
加藤麻衣が手渡されたインスタントカメラを違法改造したスタンガンの作り方や、内藤美嘉をこどもの産めない体にしたモデルガンの違法改造の仕方。
ナナセが内藤美嘉をレイプした際、その様子を全世界に向けてインターネットで中継した方法。
ぬいぐるみの目に仕込まれていた監視カメラのレンズや、体に仕込まれていた監視カメラのその他の部品の詳細な設計図。
わたしが知る限り、それらすべてを把握し、わざわざ公開する人物は、事件関係者の中にはひとりしかいなかった。
しかし、アリスとその人物の間には接点がなかったはずだった。
いや、あのまとめサイト自体がふたりの接点になったのだろう。
そして、アリスはわたしに携帯電話を差し出した。
「羽衣に替わってって」
わたしは携帯電話を受け取ると、
「久東 羽衣です」
と、電話の相手に言った。
「はじめまして。山汐凛です」
しかし、電話の相手は、わたしの思っていた人物ではなかった。
その人物の妹だった。
          
セックスなんてしたことはなかったし、女同士でどうしたらいいのかもわからなかったけれど。
だから、わたしたちがその夜したことが正しい仕方だったのかどうかすらわからないけれど。
わたしはアリスを抱いた。
夏目メイに会うためではなく、わたしがそうしたいと思ったから。
彼女を好きになった兄の気持ちが痛いほどよくわかったから。
アリスはきっと兄に抱かれたかったのだろう。
だけど彼女は、ひどい男性恐怖症だった。
兄のことをどれだけ好きでも、兄と手を繋ぐことも、兄と並んで歩くことさえできなかった。
わたしは、兄のかわりに、シュウとして、彼女を抱いた。
彼女がそれを望んでいると思ったから。
「シュウ……好き……」
わたしの隣で裸で眠るアリスは寝言で兄の名前を呼んだ。
わたしはその頭を撫でながら、眠った。
翌朝、目を覚ますとベッドにアリスの姿はなかった。
そばにあった車椅子もなかった。
わたしはなんだか嫌な予感がして、寝室を出た。
けれど、アリスはリビングにいて、誰かと携帯電話で話していた。
ほっとした。
彼女が、生きていてくれたことに。
寝室を出て電話をしていたのは、わたしを起こしてしまわないためで、その内容もわたしに聞かれて困る話ではないらしかった。
わたしの顔を見て彼女はにっこりと微笑み「おはよう」とだけ言って、電話を続けた。
「あなたも見たでしょ? シュウの妹の、羽衣の書き込み。
彼女、横浜に来てる。今、わたしの家にいる。
メイのところへ案内してほしいの」
電話の相手は小島ゆきだろうか?
祖父が不正な政治献金の授与を理由に政治生命を絶たれた今も、小島ゆきならば夏目メイの居場所を知っていてもおかしくはなかった。
小島ゆきの祖父が政治生命を絶たれると同時に、不正な政治献金の出所であり広域指定暴力団であった夏目メイの家もまた、同じいわゆるヤクザの鬼頭結衣の家に潰されていた。
そこまでが夏目メイの描いたシナリオだった。
しかし、アリスは、教えてほしい、ではなく、案内してほしい、と電話の相手に言った。
ゆうべ、夏目メイの居場所を知っている、とも言った。
居場所を知ってはいるが、案内が必要な場所に夏目メイはいるのだ。
相手は小島ゆきではないのかもしれない。
わたしがそんなことを考えていると、
「あのまとめサイトの管理人」
と、アリスはわたしに教えてくれた。
青西高校の売春強要事件をはじめとする夏目メイが引き起こした事件についてまとめたサイトは数多くあった。
その中にひとつだけ最も情報密度の高いサイトがあった。
事件関係者の目撃情報までが逐一更新されていく、わたしが自ら書き込んで、その直後にアリスがわたしを迎えにきたサイトだ。
わたしは何故気付かなかったのだろう。
あのまとめサイトには、事件関係者でなければ知りえないことまで書かれていた。
加藤麻衣が手渡されたインスタントカメラを違法改造したスタンガンの作り方や、内藤美嘉をこどもの産めない体にしたモデルガンの違法改造の仕方。
ナナセが内藤美嘉をレイプした際、その様子を全世界に向けてインターネットで中継した方法。
ぬいぐるみの目に仕込まれていた監視カメラのレンズや、体に仕込まれていた監視カメラのその他の部品の詳細な設計図。
わたしが知る限り、それらすべてを把握し、わざわざ公開する人物は、事件関係者の中にはひとりしかいなかった。
しかし、アリスとその人物の間には接点がなかったはずだった。
いや、あのまとめサイト自体がふたりの接点になったのだろう。
そして、アリスはわたしに携帯電話を差し出した。
「羽衣に替わってって」
わたしは携帯電話を受け取ると、
「久東 羽衣です」
と、電話の相手に言った。
「はじめまして。山汐凛です」
しかし、電話の相手は、わたしの思っていた人物ではなかった。
その人物の妹だった。
          
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