あなたが創ったこの世界をわたしは壊したい。
第4話(第48話)
「あなたのお兄さんの彼女だった女って言えばわかる?」
わたしはドアを開けた。
そこには草詰アリスがいた。
彼女はわたしの兄の恋人であったと同時に、小説の中では城戸女学園となっていたお嬢様学校に転校した後の夏目メイの新しいおもちゃのひとりだった。
鬼頭結衣が夏目メイを潰すために彼女を利用し、夏目メイこそが緑南高校、いや、青西高校の売春強要事件の真犯人であると、城戸女学園の屋上から彼女にビラをまかせた。
そして、その後彼女は屋上から身を投げた。
彼女は、自分がシュウを、わたしの兄を殺してしまったと、後悔と懺悔の日々を送っていた。死にたがっていた。
鬼頭結衣は、そんな彼女に死に場所を与えてあげた。
しかし、彼女は死ねなかった。
代わりに死んだのは鬼頭結衣の方だった。
夏目メイに、殺された。
「どうして、あなたが、ここに……?」
草詰アリスは車椅子に乗っていた。
「場所を移そ。こういうお店は静かにしていなきゃいけないんでしょ」
わたしは彼女に促され、店を出た。
「泊まるところがないなら、あんなところじゃなくて、うちにしばらくいていいよ」
彼女はそう言った。
アリスは、わたしの目撃情報が書き込まれたときから、ずっとわたしのあとをつけていたのだという。
車椅子の女の子に尾行されていても気付かないほどに、わたしはおのぼりさんになっていたのだ。
普段のわたしなら考えられないことだった。
草詰アリスは携帯電話を取り出すと、どこかに電話をかけた。
「保土ヶ谷駅の近くのネットカフェの前。車椅子の子がひとりいるから、そういう客を乗せられる車で来て。あ、クレジットカードは使えるよね? じゃあ、お願い」
どうやら、タクシーを呼んでくれたようだった。
彼女は携帯電話を鞄にしまうと、
「身長、わたしと同じくらいでしょ?
服もそんな安物じゃなくて、アリスのを貸してあげる」
彼女は、小説に書かれていた通りのお洋服を着ていて、小説に書かれていた通りの話し方をした。
まるで、小説の登場人物と話しているかのようだった。
「アリスちゃんの家、やっぱりお金持ちなんだね」
「父親がいないけどね」
「……ごめんなさい」
「全部、不倫ばかり繰り返す女好きの父親のせいにできたら楽なのにね。誰も幸せにできない。不幸にしかできない。あの男のせいにできたら……」
彼女は悲しそうにそう言うと、
「でも、わたしが犯してしまった罪は、わたしの罪でしかない。
わたしはシュウに、あなたのお兄さんにはとても申し訳ないことをしてしまった……
あんなに好きだったのに……
あんなに好きでいてくれたのに……
ごめんなさい……本当にごめんなさい……」
涙をこぼしながら、わたしに謝罪の言葉を繰り返した。
もしわたしが兄と仲が良かったなら、彼女にどんな事情があったにせよ、間接的であるにせよ、兄の命を奪った彼女を許すことは出来なかったかもしれない。
でも、わたしには、兄を物心ついたときから毛嫌いしていた。
だから、あの兄をこんなにも愛してくれた人が、この世界にいることが奇跡のように思えた。
だから、
「ありがとう。アリスちゃん」
わたしは、謝罪の言葉に感謝で答えた。
「……許してくれるの?」
彼女は不思議そうな顔をしていた。
「許すとか、許さないとかじゃないんだよね」
と、わたしは言った。
そして、兄を毛嫌いして、満足に会話をしたことすらなかったことを話した。
「あなたのお兄さんは」
「シュウでいいよ。アリスちゃんが呼んでいたように、呼びたいように呼んでいいよ」
「シュウは、あなたのことをとても大切に思っていたわ」
アリスの言葉を聞いて、わたしははじめてその事実を知った。
タクシーがわたしたちの目の前に停まり、後部座席のドアが開いた。
          
わたしはドアを開けた。
そこには草詰アリスがいた。
彼女はわたしの兄の恋人であったと同時に、小説の中では城戸女学園となっていたお嬢様学校に転校した後の夏目メイの新しいおもちゃのひとりだった。
鬼頭結衣が夏目メイを潰すために彼女を利用し、夏目メイこそが緑南高校、いや、青西高校の売春強要事件の真犯人であると、城戸女学園の屋上から彼女にビラをまかせた。
そして、その後彼女は屋上から身を投げた。
彼女は、自分がシュウを、わたしの兄を殺してしまったと、後悔と懺悔の日々を送っていた。死にたがっていた。
鬼頭結衣は、そんな彼女に死に場所を与えてあげた。
しかし、彼女は死ねなかった。
代わりに死んだのは鬼頭結衣の方だった。
夏目メイに、殺された。
「どうして、あなたが、ここに……?」
草詰アリスは車椅子に乗っていた。
「場所を移そ。こういうお店は静かにしていなきゃいけないんでしょ」
わたしは彼女に促され、店を出た。
「泊まるところがないなら、あんなところじゃなくて、うちにしばらくいていいよ」
彼女はそう言った。
アリスは、わたしの目撃情報が書き込まれたときから、ずっとわたしのあとをつけていたのだという。
車椅子の女の子に尾行されていても気付かないほどに、わたしはおのぼりさんになっていたのだ。
普段のわたしなら考えられないことだった。
草詰アリスは携帯電話を取り出すと、どこかに電話をかけた。
「保土ヶ谷駅の近くのネットカフェの前。車椅子の子がひとりいるから、そういう客を乗せられる車で来て。あ、クレジットカードは使えるよね? じゃあ、お願い」
どうやら、タクシーを呼んでくれたようだった。
彼女は携帯電話を鞄にしまうと、
「身長、わたしと同じくらいでしょ?
服もそんな安物じゃなくて、アリスのを貸してあげる」
彼女は、小説に書かれていた通りのお洋服を着ていて、小説に書かれていた通りの話し方をした。
まるで、小説の登場人物と話しているかのようだった。
「アリスちゃんの家、やっぱりお金持ちなんだね」
「父親がいないけどね」
「……ごめんなさい」
「全部、不倫ばかり繰り返す女好きの父親のせいにできたら楽なのにね。誰も幸せにできない。不幸にしかできない。あの男のせいにできたら……」
彼女は悲しそうにそう言うと、
「でも、わたしが犯してしまった罪は、わたしの罪でしかない。
わたしはシュウに、あなたのお兄さんにはとても申し訳ないことをしてしまった……
あんなに好きだったのに……
あんなに好きでいてくれたのに……
ごめんなさい……本当にごめんなさい……」
涙をこぼしながら、わたしに謝罪の言葉を繰り返した。
もしわたしが兄と仲が良かったなら、彼女にどんな事情があったにせよ、間接的であるにせよ、兄の命を奪った彼女を許すことは出来なかったかもしれない。
でも、わたしには、兄を物心ついたときから毛嫌いしていた。
だから、あの兄をこんなにも愛してくれた人が、この世界にいることが奇跡のように思えた。
だから、
「ありがとう。アリスちゃん」
わたしは、謝罪の言葉に感謝で答えた。
「……許してくれるの?」
彼女は不思議そうな顔をしていた。
「許すとか、許さないとかじゃないんだよね」
と、わたしは言った。
そして、兄を毛嫌いして、満足に会話をしたことすらなかったことを話した。
「あなたのお兄さんは」
「シュウでいいよ。アリスちゃんが呼んでいたように、呼びたいように呼んでいいよ」
「シュウは、あなたのことをとても大切に思っていたわ」
アリスの言葉を聞いて、わたしははじめてその事実を知った。
タクシーがわたしたちの目の前に停まり、後部座席のドアが開いた。
          
「恋愛」の人気作品
書籍化作品
-
-
55
-
-
29
-
-
157
-
-
1978
-
-
124
-
-
1
-
-
3087
-
-
63
-
-
59
コメント