気づいたら異世界にいた。転移したのか、転生したのかはわからない。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者。
第78話 ステラがまずすべきこととは
ケツァルコアトルが飛空艇に降り立つと同時に、レンジはその背から飛び降り、背負っていた大剣を甲板に突き刺した。
「ソラシド、すぐにゲルマーニに向かってくれ!
ピノアかアンフィスの場所が特定できるなら、そこに頼む!!」
そして彼は、飛空艇「オルフェウス」の魔法人工頭脳である「ソラシド」にそう命じた。
「了解しました。
ピノアお姉さまとアンフィス様の現在位置を確認中……確認完了。
目的地をおふたりの上空へと変更致します」
彼の剣幕と必死な形相に、ニーズヘッグもアルマもとても驚いていた。
「レンジ? 一体何があったんだい? ゲルマーニになぜあの結界が?」
レンジには、ニーズヘッグたちのことが目に入っていないようだった。
その証拠にレンジは彼の問いには答えず、まっすぐにソラシドがいる艦橋(かんきょう)へと向かっていった。
だから、ニーズヘッグのその問いにはステラが代わりに答えた。
「ピノアとアンフィスが勝手に動いてしまったの。
それだけじゃなく、今ふたりは魔王と大賢者と交戦中」
「交戦中? なぜそんなことまでわかるんだい?」
ニーズヘッグの隣にいたアルマが、
「たぶんあれよ、ニーズヘッグ」
レンジが甲板に突き刺した大剣の刀身を指差した。
「あれは……エウロペの国王に突き刺さっていたものか……?
なぜそれに大賢者やピノアやアンフィスが映ってるんだ?」
大剣の刀身には、レオナルドを抱えて空に浮かぶピノアや、大賢者と対峙するアンフィスが映っていた。
「これはおそらく、魔王の目線に映っているものが投影されているの」
ステラは言った。
「魔王の?」
「レンジのお父さんが、きっと魔王や大賢者がどこにいても魔王の目線を追うことでわかるように、わたしたちにこれを遺してくれたんだと思うわ。
でもわたしたちは気づくのが遅すぎた。間に合わないかもしれない……」
ステラの苦悶の表情に、ニーズヘッグは胸が傷んだ。
「あなたのせいではないわ」
アルマは言った。
「ええ、それは間違いないわ。
昨日しか、あの子たちを安全な場所に送り届けることができる機会はなかったのだから。
それにあのふたりが勝手に動くなんて誰も予想していなかった」
艦橋でのレンジとソラシドの会話は、甲板にまで聞こえていた。
「ふたりの命が危ない。最高速度で頼めるか?」
「了解しました。
『シグマポリス形態』から『アルファポリス形態』へと移行します」
「シグマポリス? アルファポリス?」
飛空艇はリバーステラの大航海時代の船と現代の戦艦を足したような奇妙な外観をしていたが、アルファポリス形態へと移行しはじめると、その甲板や艦橋は丸みを帯びた翡翠色の半透明なシールドのようなものに覆われ、飛空艇の先端は鋭く尖っていた。
「何だ? 何が起こってる?」
「この飛空艇『オルフェウス』には通常の『シグマポリス形態』と、航行速度だけに特化した『アルファポリス形態』、そして戦闘に特化した『オメガポリス』形態が存在します。
アルファポリス形態は、凝縮されたエーテルのシールドをまとい、三角すいの形状になることによって、風の抵抗をほとんど受けません。
そのため、通常の三倍の速度での航行が可能となります」
「ピノアたちがいる場所に着くまでの時間は?」
「56分です」
「それじゃ、間に合わない。
……そうだ! これを使ったらどうにかならないか?」
それを聞いたステラは、レンジが何をしようとしているか、すぐにわかった。
「ふたりとも、ごめんなさい。それから、そちらの方も」
飛空艇に乗っていたのは、ニーズヘッグとアルマだけではなかった。
見知らぬ女性がいた。
三十代半ばくらいだろうか?
同じ女性であるステラから見ても、とてもきれいで上品な女性だった。
「まずは彼を冷静にさせてきます。
そのあとで、ゆっくりご挨拶をさせて頂きます」
艦橋でレンジはソラシドに、ダ・ヴィンチ・ソードを見せていた。
ステラはやはりと思った。
「レンジ様、これは?」
「魔装具だ。人が使えば、その俊敏性を2倍から3倍に高めてくれる。使えないか?」
「おそらく、その魔装具を取り込むことによって、航行速度を一時的にさらに三倍にまで高めることが可能です」
「18分くらいで着けるってことか?」
「はい。ですが、その魔装具は永遠に失われてしまいますが構いませんか?」
「構わない。やってくれ。他に手がない」
「了解しました。
では、レンジ様の左後方にある『匣(はこ)』に、その剣をお納めください」
艦橋の中には、魔装具を利用した航行を見越していたのか、剣をはじめとする様々な武器や防具などを納める場所があった。
「ここに納めればいいのか?」
「だめよ」
ステラがそれを制した。
「冷静になって、レンジ。
その剣はこの世界にひとふりしかないものなのよ。
それに、それを作ることができた魔装具鍛冶のレオナルドはもういないの。
同じものを作れる魔装具鍛冶がいるかどうかもわからない。
仮にいたとしても、世界のどこにいるかわからない。
だから、あなたはそれを絶対に手放してはいけない」
「でも、ピノアが!」
「わかってる。でも落ち着いて。
今その剣を失ったら、あなたは後で必ず後悔する。
わたしが国王との謁見を、あなたがこの世界に来た日にあなたにさせなかったことのように」
「剣よりも、ピノアやアンフィスの命の方が大事だろ!?」
ステラは自分でも驚くほどに冷静だった。
だがそれは、もしかしたらレンジが冷静さを欠いていたからかもしれない。
だから、冷静さを保つことができたかもしれない。
今は感情で動いてはならない。感情で動けば判断を誤る。
ステラは今、まず自分が何をしなければいけないのかがすでにわかっていた。
「ごめんなさい、レンジ。
あなたにだけは、こんなことは絶対に言いたくはなかったのだけれど……」
レンジにどうしても言わなければいけないことがあった。
だが、それを彼に言うことは、どうしてもはばかられた。
だからステラは、先にレンジを魔法で眠らせることにした。
「今回の戦い、あなたは戦力外よ。足手まといでしかないわ」
レンジは薄れ行く意識の中で、ステラが何かを自分に向かって話していることはわかったが、それを聞き取ることができなかった。
          
「ソラシド、すぐにゲルマーニに向かってくれ!
ピノアかアンフィスの場所が特定できるなら、そこに頼む!!」
そして彼は、飛空艇「オルフェウス」の魔法人工頭脳である「ソラシド」にそう命じた。
「了解しました。
ピノアお姉さまとアンフィス様の現在位置を確認中……確認完了。
目的地をおふたりの上空へと変更致します」
彼の剣幕と必死な形相に、ニーズヘッグもアルマもとても驚いていた。
「レンジ? 一体何があったんだい? ゲルマーニになぜあの結界が?」
レンジには、ニーズヘッグたちのことが目に入っていないようだった。
その証拠にレンジは彼の問いには答えず、まっすぐにソラシドがいる艦橋(かんきょう)へと向かっていった。
だから、ニーズヘッグのその問いにはステラが代わりに答えた。
「ピノアとアンフィスが勝手に動いてしまったの。
それだけじゃなく、今ふたりは魔王と大賢者と交戦中」
「交戦中? なぜそんなことまでわかるんだい?」
ニーズヘッグの隣にいたアルマが、
「たぶんあれよ、ニーズヘッグ」
レンジが甲板に突き刺した大剣の刀身を指差した。
「あれは……エウロペの国王に突き刺さっていたものか……?
なぜそれに大賢者やピノアやアンフィスが映ってるんだ?」
大剣の刀身には、レオナルドを抱えて空に浮かぶピノアや、大賢者と対峙するアンフィスが映っていた。
「これはおそらく、魔王の目線に映っているものが投影されているの」
ステラは言った。
「魔王の?」
「レンジのお父さんが、きっと魔王や大賢者がどこにいても魔王の目線を追うことでわかるように、わたしたちにこれを遺してくれたんだと思うわ。
でもわたしたちは気づくのが遅すぎた。間に合わないかもしれない……」
ステラの苦悶の表情に、ニーズヘッグは胸が傷んだ。
「あなたのせいではないわ」
アルマは言った。
「ええ、それは間違いないわ。
昨日しか、あの子たちを安全な場所に送り届けることができる機会はなかったのだから。
それにあのふたりが勝手に動くなんて誰も予想していなかった」
艦橋でのレンジとソラシドの会話は、甲板にまで聞こえていた。
「ふたりの命が危ない。最高速度で頼めるか?」
「了解しました。
『シグマポリス形態』から『アルファポリス形態』へと移行します」
「シグマポリス? アルファポリス?」
飛空艇はリバーステラの大航海時代の船と現代の戦艦を足したような奇妙な外観をしていたが、アルファポリス形態へと移行しはじめると、その甲板や艦橋は丸みを帯びた翡翠色の半透明なシールドのようなものに覆われ、飛空艇の先端は鋭く尖っていた。
「何だ? 何が起こってる?」
「この飛空艇『オルフェウス』には通常の『シグマポリス形態』と、航行速度だけに特化した『アルファポリス形態』、そして戦闘に特化した『オメガポリス』形態が存在します。
アルファポリス形態は、凝縮されたエーテルのシールドをまとい、三角すいの形状になることによって、風の抵抗をほとんど受けません。
そのため、通常の三倍の速度での航行が可能となります」
「ピノアたちがいる場所に着くまでの時間は?」
「56分です」
「それじゃ、間に合わない。
……そうだ! これを使ったらどうにかならないか?」
それを聞いたステラは、レンジが何をしようとしているか、すぐにわかった。
「ふたりとも、ごめんなさい。それから、そちらの方も」
飛空艇に乗っていたのは、ニーズヘッグとアルマだけではなかった。
見知らぬ女性がいた。
三十代半ばくらいだろうか?
同じ女性であるステラから見ても、とてもきれいで上品な女性だった。
「まずは彼を冷静にさせてきます。
そのあとで、ゆっくりご挨拶をさせて頂きます」
艦橋でレンジはソラシドに、ダ・ヴィンチ・ソードを見せていた。
ステラはやはりと思った。
「レンジ様、これは?」
「魔装具だ。人が使えば、その俊敏性を2倍から3倍に高めてくれる。使えないか?」
「おそらく、その魔装具を取り込むことによって、航行速度を一時的にさらに三倍にまで高めることが可能です」
「18分くらいで着けるってことか?」
「はい。ですが、その魔装具は永遠に失われてしまいますが構いませんか?」
「構わない。やってくれ。他に手がない」
「了解しました。
では、レンジ様の左後方にある『匣(はこ)』に、その剣をお納めください」
艦橋の中には、魔装具を利用した航行を見越していたのか、剣をはじめとする様々な武器や防具などを納める場所があった。
「ここに納めればいいのか?」
「だめよ」
ステラがそれを制した。
「冷静になって、レンジ。
その剣はこの世界にひとふりしかないものなのよ。
それに、それを作ることができた魔装具鍛冶のレオナルドはもういないの。
同じものを作れる魔装具鍛冶がいるかどうかもわからない。
仮にいたとしても、世界のどこにいるかわからない。
だから、あなたはそれを絶対に手放してはいけない」
「でも、ピノアが!」
「わかってる。でも落ち着いて。
今その剣を失ったら、あなたは後で必ず後悔する。
わたしが国王との謁見を、あなたがこの世界に来た日にあなたにさせなかったことのように」
「剣よりも、ピノアやアンフィスの命の方が大事だろ!?」
ステラは自分でも驚くほどに冷静だった。
だがそれは、もしかしたらレンジが冷静さを欠いていたからかもしれない。
だから、冷静さを保つことができたかもしれない。
今は感情で動いてはならない。感情で動けば判断を誤る。
ステラは今、まず自分が何をしなければいけないのかがすでにわかっていた。
「ごめんなさい、レンジ。
あなたにだけは、こんなことは絶対に言いたくはなかったのだけれど……」
レンジにどうしても言わなければいけないことがあった。
だが、それを彼に言うことは、どうしてもはばかられた。
だからステラは、先にレンジを魔法で眠らせることにした。
「今回の戦い、あなたは戦力外よ。足手まといでしかないわ」
レンジは薄れ行く意識の中で、ステラが何かを自分に向かって話していることはわかったが、それを聞き取ることができなかった。
          
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