気づいたら異世界にいた。転移したのか、転生したのかはわからない。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者。
第75話 転移5日目のログインボーナス
異世界転移4日目の夜、レンジとステラは、コムーネの町の宿屋のレンジの部屋で、一晩を共に過ごした。
ピノアやアンフィス、レオナルドがどこへ行ってしまったのかわからず、ふたりとも夕食はほとんど喉を通らなかった。
ニーズヘッグとアルマは、こどもたちを連れて飛空艇でランスに向かってしまっていた。
ふたりもまた、ファフニール家にこどもたちを送り届け、父に結婚の許しをもらったらすぐ戻ると言っていたが、戻らなかった。
ケツァルコアトルが何故この町に残ったのかはわからなかったが、父にアルマとの結婚の許しをもらい、こどもたちを養子として迎えたいというニーズヘッグの気持ちを汲み取ったのだろうと思っていた。
だがもしかしたらそれだけでないのかもしれない、とレンジは思った。
彼には、ドラゴンズセンスやドラゴンむずむずとでも言うべき、ステラやピノア、アンフィスたち魔人が持つものとはまた別の、第六感のようなものがある。
だから何かを察して残ってくれたのかもしれない、と。
しかし、彼は確かに何か不穏なことが起きるのを感じてはいたが、それはピノアたちのことではなかったという。
竜騎士とドラゴンの契約によって、ニーズヘッグの居場所ならすぐにわかるが、ピノアたちの居場所まではわからないということだった。
「汝らがピノアたちを心配する気持ちはわかる。
だが探す手立てがない以上、どうしようもあるまい。
ふたりとも今は身体を休めることだ。
そのためにこの町に滞在することにしたのだろう?
明日にはニーズヘッグたちも戻る。だから今は休め」
ケツァルコアトルに諭され、ふたりは休むことにした。
レンジは、ステラを部屋まで送ったが、彼女はピノアのいない部屋にひとりでいるのが怖いと言った。
「あの子に何かあったら、わたしはもう生きてはいけない……
あの子はわたしのすべてなの……」
だから、レンジは彼女の震える手を握った。
「大丈夫だよ。それはピノアもわかってるはずだから」
「でも、あの子はわたしのためならどんな無理でもするの。
それに今はそれだけじゃない。
きっとわたしとレンジのために無理をしてしまう。させてしまう」
ステラは瞳に大粒の涙をためていた。
だからレンジは彼女を抱きしめた。彼女は、手だけでなく体まで震えていた。
「大丈夫。アンフィスがきっとそばにいる。レオナルドもいる。だから大丈夫」
しばらく抱きしめていると、ステラの震えは少しずつおさまってきた。
しかし一度あふれ出した涙は止まらず、彼女の頬を流れ落ちていった。
ハンカチは持っていなかったし、持っていても汚かっただろうから、レンジは手の甲でその涙をぬぐってやり、そして彼女にキスをした。
「こわい……どうしようもなくこわいの……
お願い。そばにいて。わたしが何も考えずにすむようにして……」
レンジは、わかった、とだけ言って、彼女を抱きかかえた。
正直なところ、お姫様抱っこというものを自分の細腕でできるものだろうかと不安であったが、ステラの体は妹と同じくらいに軽かった。だからちゃんとできてよかったと思った。
そして、自分の部屋に連れていき、彼女をベッドに寝かせた。
こんな形で彼女を抱くことになるとは思わなかった。
けれど、そうすることで彼女の心が少しでも楽になるのであれば、抱くべきだと思った。
ステラの身体はとても美しかった。
うまくできたかどうかはわからなかった。
彼女に満足してもらえたのかどうかもわからなかった。
痛い思いをさせてしまっただけかもしれなかった。
けれど、レンジは決して独りよがりにならないように、ステラのことを思いやりながら、彼女を愛した。
避妊具の持ち合わせがなく、はじめてのことであったから外に出すという余裕もなく、レンジは彼女の中で果ててしまった。
申し訳ない気持ちでいっぱいになったが、
「心配しなくても大丈夫よ。
魔人の男は簡単に人の女との間に子を遺すことが出来るけれど、魔人の女と人の男は、簡単には子を遺せないから」
彼女はそう言って、その胸にレンジの頭を抱きしめた。
おそらくは、魔人の男の精子は、人の男の精子に比べ非常に強いのだろう。
人同士の間でも精子が卵子までにたどり着くまでの道のりは、人が日本からハワイまで泳いで渡るようなものであり、しかも常に逆流の中を泳ぐようなものだと聞いたことがあった。
人の男の精子が、魔人の女の卵子にたどりつくまでの道のりは、その何倍も険しい道のりなのだろう。
だからといって、避妊しなくていいというわけではない。
たとえ、レンジとステラが互いに愛していたとしても、まだふたりはあくまで恋人同士に過ぎない。
ふたりでテラとリバーステラを繋ぐ架け橋になる約束をした。いつかリバーステラにステラを連れていき案内する約束もした。婚約関係にあると言ってもよかったが、結婚はまだしていないのだ。
ふたりが結婚をし子を作るとするなら、魔王や大賢者を倒した後だ。
ふたつの世界を繋ぐ架け橋になった後だ。
「すべてが終わったら、いつかあなたのこどもが産みたいわ。
だから、そのときはわたしをいっぱい抱いて」
ステラも同じ考えだったようだった。
そして、彼女は少し落ち着いたのか眠った。
レンジはそんな彼女を抱きしめ、ふたりは裸のまま、抱きあったまま眠った。
5日目の朝、レンジが目を覚ますと、ステラはすでに起きていた。
裸のまま、彼の寝顔を見ていた。
「おはよう、レンジ。ゆうべは……ごめんなさい。でも、ありがとう」
と、彼女は言った。
「おはよう。身体は、その、だいじょうぶ?」
「まだ少しヒリヒリするけど、でもこれはあなたと結ばれたという証だから。
だから大丈夫よ」
彼女のことが愛おしくて仕方がなかった。
ふたりは服を着ようとベッドを降り、そして部屋の窓から、ゲルマーニの城や城下町がある方角に、レオナルド・カタルシスによる結界が張られるのを見た。
ふたりにはそれが、昨日から行方がわからなくなっていた、ピノアとアンフィス、そしてレオナルドによるものだとわかった。
ふたりはすぐに慌てて服を着た。
ニーズヘッグとアルマの部屋に人の姿のままでいるケツァルコアトルの元へ向かおうとし、そしてレンジは気づいた。
「ステラ、ちょっと待って。これを見て」
レンジは愛用するふたふりの剣と、父の大剣を壁に立て掛けていた。
鞘がなく刀身がむき出しになっていた父の大剣が、どこかの風景を映し出していたのだ。
そして、その風景の中には大賢者の姿があった。
大賢者がこちらを見て何かを話しているようにも見えた。
だから、それは魔王の、父の瞳に写る風景なのだと気づいた。
「大賢者……まさかこれは魔王が今見ている景色なの……?」
5日目のログインボーナスということか、とレンジは思った。
この大剣があれば、魔王がどこにいても、目印のようなものさえ確認できれば追跡できるということだった。
だが、4日目のログインボーナスは何だ?
それに該当するであろう人や物は、レンジは思いつかなかった。
          
ピノアやアンフィス、レオナルドがどこへ行ってしまったのかわからず、ふたりとも夕食はほとんど喉を通らなかった。
ニーズヘッグとアルマは、こどもたちを連れて飛空艇でランスに向かってしまっていた。
ふたりもまた、ファフニール家にこどもたちを送り届け、父に結婚の許しをもらったらすぐ戻ると言っていたが、戻らなかった。
ケツァルコアトルが何故この町に残ったのかはわからなかったが、父にアルマとの結婚の許しをもらい、こどもたちを養子として迎えたいというニーズヘッグの気持ちを汲み取ったのだろうと思っていた。
だがもしかしたらそれだけでないのかもしれない、とレンジは思った。
彼には、ドラゴンズセンスやドラゴンむずむずとでも言うべき、ステラやピノア、アンフィスたち魔人が持つものとはまた別の、第六感のようなものがある。
だから何かを察して残ってくれたのかもしれない、と。
しかし、彼は確かに何か不穏なことが起きるのを感じてはいたが、それはピノアたちのことではなかったという。
竜騎士とドラゴンの契約によって、ニーズヘッグの居場所ならすぐにわかるが、ピノアたちの居場所まではわからないということだった。
「汝らがピノアたちを心配する気持ちはわかる。
だが探す手立てがない以上、どうしようもあるまい。
ふたりとも今は身体を休めることだ。
そのためにこの町に滞在することにしたのだろう?
明日にはニーズヘッグたちも戻る。だから今は休め」
ケツァルコアトルに諭され、ふたりは休むことにした。
レンジは、ステラを部屋まで送ったが、彼女はピノアのいない部屋にひとりでいるのが怖いと言った。
「あの子に何かあったら、わたしはもう生きてはいけない……
あの子はわたしのすべてなの……」
だから、レンジは彼女の震える手を握った。
「大丈夫だよ。それはピノアもわかってるはずだから」
「でも、あの子はわたしのためならどんな無理でもするの。
それに今はそれだけじゃない。
きっとわたしとレンジのために無理をしてしまう。させてしまう」
ステラは瞳に大粒の涙をためていた。
だからレンジは彼女を抱きしめた。彼女は、手だけでなく体まで震えていた。
「大丈夫。アンフィスがきっとそばにいる。レオナルドもいる。だから大丈夫」
しばらく抱きしめていると、ステラの震えは少しずつおさまってきた。
しかし一度あふれ出した涙は止まらず、彼女の頬を流れ落ちていった。
ハンカチは持っていなかったし、持っていても汚かっただろうから、レンジは手の甲でその涙をぬぐってやり、そして彼女にキスをした。
「こわい……どうしようもなくこわいの……
お願い。そばにいて。わたしが何も考えずにすむようにして……」
レンジは、わかった、とだけ言って、彼女を抱きかかえた。
正直なところ、お姫様抱っこというものを自分の細腕でできるものだろうかと不安であったが、ステラの体は妹と同じくらいに軽かった。だからちゃんとできてよかったと思った。
そして、自分の部屋に連れていき、彼女をベッドに寝かせた。
こんな形で彼女を抱くことになるとは思わなかった。
けれど、そうすることで彼女の心が少しでも楽になるのであれば、抱くべきだと思った。
ステラの身体はとても美しかった。
うまくできたかどうかはわからなかった。
彼女に満足してもらえたのかどうかもわからなかった。
痛い思いをさせてしまっただけかもしれなかった。
けれど、レンジは決して独りよがりにならないように、ステラのことを思いやりながら、彼女を愛した。
避妊具の持ち合わせがなく、はじめてのことであったから外に出すという余裕もなく、レンジは彼女の中で果ててしまった。
申し訳ない気持ちでいっぱいになったが、
「心配しなくても大丈夫よ。
魔人の男は簡単に人の女との間に子を遺すことが出来るけれど、魔人の女と人の男は、簡単には子を遺せないから」
彼女はそう言って、その胸にレンジの頭を抱きしめた。
おそらくは、魔人の男の精子は、人の男の精子に比べ非常に強いのだろう。
人同士の間でも精子が卵子までにたどり着くまでの道のりは、人が日本からハワイまで泳いで渡るようなものであり、しかも常に逆流の中を泳ぐようなものだと聞いたことがあった。
人の男の精子が、魔人の女の卵子にたどりつくまでの道のりは、その何倍も険しい道のりなのだろう。
だからといって、避妊しなくていいというわけではない。
たとえ、レンジとステラが互いに愛していたとしても、まだふたりはあくまで恋人同士に過ぎない。
ふたりでテラとリバーステラを繋ぐ架け橋になる約束をした。いつかリバーステラにステラを連れていき案内する約束もした。婚約関係にあると言ってもよかったが、結婚はまだしていないのだ。
ふたりが結婚をし子を作るとするなら、魔王や大賢者を倒した後だ。
ふたつの世界を繋ぐ架け橋になった後だ。
「すべてが終わったら、いつかあなたのこどもが産みたいわ。
だから、そのときはわたしをいっぱい抱いて」
ステラも同じ考えだったようだった。
そして、彼女は少し落ち着いたのか眠った。
レンジはそんな彼女を抱きしめ、ふたりは裸のまま、抱きあったまま眠った。
5日目の朝、レンジが目を覚ますと、ステラはすでに起きていた。
裸のまま、彼の寝顔を見ていた。
「おはよう、レンジ。ゆうべは……ごめんなさい。でも、ありがとう」
と、彼女は言った。
「おはよう。身体は、その、だいじょうぶ?」
「まだ少しヒリヒリするけど、でもこれはあなたと結ばれたという証だから。
だから大丈夫よ」
彼女のことが愛おしくて仕方がなかった。
ふたりは服を着ようとベッドを降り、そして部屋の窓から、ゲルマーニの城や城下町がある方角に、レオナルド・カタルシスによる結界が張られるのを見た。
ふたりにはそれが、昨日から行方がわからなくなっていた、ピノアとアンフィス、そしてレオナルドによるものだとわかった。
ふたりはすぐに慌てて服を着た。
ニーズヘッグとアルマの部屋に人の姿のままでいるケツァルコアトルの元へ向かおうとし、そしてレンジは気づいた。
「ステラ、ちょっと待って。これを見て」
レンジは愛用するふたふりの剣と、父の大剣を壁に立て掛けていた。
鞘がなく刀身がむき出しになっていた父の大剣が、どこかの風景を映し出していたのだ。
そして、その風景の中には大賢者の姿があった。
大賢者がこちらを見て何かを話しているようにも見えた。
だから、それは魔王の、父の瞳に写る風景なのだと気づいた。
「大賢者……まさかこれは魔王が今見ている景色なの……?」
5日目のログインボーナスということか、とレンジは思った。
この大剣があれば、魔王がどこにいても、目印のようなものさえ確認できれば追跡できるということだった。
だが、4日目のログインボーナスは何だ?
それに該当するであろう人や物は、レンジは思いつかなかった。
          
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