気づいたら異世界にいた。転移したのか、転生したのかはわからない。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者。

雨野美哉(あめの みかな)

第57話 外典 最後の晩餐は繰り返される。~救厄の聖者たち~ ④

だが、何かがおかしい。アンフィスはそう思った。

「自分が大厄災を起こす者であったなら、なぜ自分が処刑され意識を失っている間に大厄災が起きたのか、あなたは疑問に思っている、そんなところでしょうか」

2000年後の大賢者は、見透かすように言った。

「簡単なことです。あなたが処刑され、意識を失うことこそが、大厄災の鍵なのです」

「大賢者さんよ、あんたが何を言ってるのか、全く意味がわかんねーぜ」

「あなたは、両親を殺したことすら覚えていないのでしょう?」

アンフィスは、そう問われ絶句した。

自分が両親を殺した?
両親が財を成すための道具にされることが嫌で、自分は家を出ただけだ。
これ以上両親を嫌いになりたくなかったからだった。

「あなたの中には、目に映るものすべてを破壊してしまいたいという強い破壊衝動がある。
それを必死で抑え込み、目に映るすべての人を魔法で救う旅をし、救厄の聖者としての役割を演じて生きてきた」

確かにその通りだった。

「あなたが必死で抑え込んできた破壊衝動の最初の犠牲者が、あなたの両親なのです。
あなたはその記憶さえも、破壊衝動と共に抑え込んできた。

そして、あなたが偽りの聖者として処刑人の槍に貫かれた瞬間、意識を失うと同時に、これまで抑え込んできた破壊衝動が暴走し魔法となって発動する。

それが大災厄の正体です。

はじめてそれを目にしたとき、私の心は踊りました。

大厄災の魔法は、火、水、風、土、雷、そして光……、闇と時を除く六柱の精霊の力を借りた極大消滅魔法。
この世界から、あなた以外のすべての人と、人が築きあげてきた文明のすべて、そしてこの世界に人が存在したという痕跡さえも、跡形もなく消滅させる。

私もあの魔法を使いたい。
私があの魔法を使えるようになるまで、あなたには何度も、この晩餐から処刑までの時間を繰り返してもらわなければいけません。
『前回』のように、この場にて彼らに殺されるような真似は二度としないで頂きたい。
今回も必ず処刑されて頂かなければ、私はあなたの放つ大厄災の魔法を見ることができない」


両親を殺したことすらも記憶の奥底に閉じ込め、繰り返される時の中で何度も世界を滅ぼしてきた自分に言えた義理ではなかったが、

「あんたは大賢者なんかじゃねぇ。狂ってやがる」

アンフィスは、そう言わざるを得なかった。


「本当に、そう思うわ。
これでは一体どちらが、大厄災を起こす者なのかわからないわね」

静止した時の中で、少女の声が聞こえた。

「『前回』は、ごめんなさい。
あなたにこれ以上、大厄災の魔法を使わせるわけにはいかなかったの。
その男に再現できるとはとても思えないのだけれど、万が一のことがあったから」

少女は、彼が家族のように大切に思っていた者たちのひとりだった。

「その男を相手にする場合、常に最悪のケースを考えて動かなければいけないの。あなたの言う通り愚かだけど、でもとても狡猾な男だから。
だから『前回』は、あなたの命を奪うしかなかった。
けれど、大災厄の魔法の発動条件がわかった以上、今回こそ必ず決着をつけるつもりよ」

少女はまっすぐにアンフィスを見て言った。


「ま、わたしはもう、覚えちゃったけどねー」

もうひとり、静止した時の中で笑いながらそう言った者がいた。

おそらく、ふたりはこれまで魔法で姿を変えていたのだろう。
その姿は、彼が知るものと大きく変わっていた。
ひとりは長い黒髪の美しい少女で、もうひとりはアンフィスと同じアルビノの魔人の少女だった。


「ピノア? あなたの才能をわたしは高く評価しているけれど、いくら範囲を彼だけに絞っていたとはいえ、覚えたばかりの大災厄の魔法を『前回』あなたが使ったときは、さすがのわたしも肝を冷やしたわ。
今後はあなた用の最悪のケースまで考えて行動しないといけないかと思うと頭が痛くなるのだけれど」

「でもさ、大賢者のバカは今度こそここで始末するわけだから、ステラはこれからわたしのことだけ考えればいいだけにならない?」

ふたりの少女は、大賢者を名乗る者と顔見知りのようだった。
彼女たちも未来からやってきたということだろう。

「ステラ・リヴァイアサンに、ピノア・カーバンクルか。
まさか君たちもこの時代に来ていたとはな。
しかし、なぜ君たちが静止した時の中で動ける?」


「わたしは、あなたよりも未来から来たからよ。
まさかあなたが時の彼方に逃げ隠れていただけとは思わなかったけれど、あなたを亡き者にした後、わたしは新たな大賢者に選ばれた。
だから、わたしも時の精霊の魔法を扱えるようになった」

「わたしの場合は、アルビノの魔人だから、かな?
あんたとは産まれもった才能も、してきた努力も桁が違うんだよね」

ピノアという少女は、その言動は一見頭が悪そうだったが、どうやら的確に大賢者のプライドを傷つける方法を熟知しているようだった。


「あんたは、権力にしがみついて長生きしてきただけの、ただの老害だもんね。
あんたの魔法なんて、わたしから見たらうんこ」

しかし、どうやらやりすぎてしまう傾向にあるようだった。


「大賢者は私だけだ!
この世界の歴史上最高の魔法使いはわたしだ!!」


激昂した大賢者は、ふたりに向けて、まだ習得できていない大厄災の魔法を放った。


          

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