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RINNE -友だち削除-

雨野美哉(あめの みかな)

RINNE 2 "TENSEI" -いじめロールプレイ- プロローグ 県立八十三高校1年2組担任・棗弘幸

気が重い。学校へ行くのが憂鬱だった。
夏休みが明け、二学期が始まり、もう2ヶ月になる。
11月。季節は秋ももうすぐ終わりを告げようとしていた。。
そろそろ冬の寒さが近づいてきていて、スーツだけでは少し肌寒い。通勤の間だけでもコートを着るべきなのかもしれない。
今年は異常気象で、先月半ばまでは夏のように暑く、毎週のように日本列島には大型の台風が上陸し、各地に甚大な被害を与えていたのもまだ記憶に新しい。
幸いここN市八十三(やとみ)町は、私の両親が子供の頃に経験したという伊勢湾台風以来、大きな堤防が作られたおかげで、台風や暴雨による河川の決壊などこれといった災害の被害をまぬがれ続けているいるけれど。
いっそ、世界が終わってしまうような、災害に見舞われて死んでしまいたい、そんな気分にこの数ヶ月私はさせられていた。
死ぬのは私だけでいいから。
夏休みからある事情で私は仕事に忙殺され、ストレスから精神は不安定になり、不眠症にもなっていた。
学年主任の教師から心療内科にかかることを勧められ、私は多少抵抗はあったが医師の診断を受けた。
うつ病よりは比較的軽いうつ状態と診断された。医師は最低1ヶ月は仕事を休んだ方がいいと言い、診断書を書いてくれようとしたが、仕事を休むわけにはいかなかったので、私はそれを拒んだ。
私には抗うつ剤をはじめとする精神安定剤と睡眠薬が処方されたが、精神安定剤のおかげで躁状態に近い状態を維持できたのは飲み始めの数日だけで、それがすぎると薬を飲んでもあまり効果があるようには思えなかった。
飲まなければ不安になるから一応飲んではいたけれど。病気を治すために処方された薬が、さしたる効能も示さず、飲まないと逆に精神不安定になる。本末転倒な話だった。
睡眠薬も最初こそ効果があったが、医師に処方された四種類の薬を就寝前に一錠ずつ飲むだけでは、すぐに効果がなくなり、ぼくは二錠ずつ飲むことでなんとか睡魔に身を任せるようにできるようになった。それでも一日の睡眠時間は三時間ほどしかとることができなかった。
原因はわかっている。
ひとつは私が担任を務める教室で、女子の中心的グループが同じグループの生徒をいじめていたのは一学期の時点でわかってはいたのだが、確たる証拠がなく、私はなんの対応もできなかった。そのせいで、夏休みにそのいじめはエスカレートし、よりにもよって売春強要事件が起きてしまった。
ぼくの出世はその事件のおかげでもはや閉ざされたに等しいだろう。もっともぼくは一教師として教壇に立つのが性にあっている(病気を患ってしまった今、性にあっているかどうか甚だ疑問ではあるけれど)し、出世欲なんてものは持ち合わせていなかったからそれはそれで別に問題はなかった。
二つ目も夏休みの間に起きた。サッカー部の部員たちが集団で覚醒剤に手を染めてしまった。その中に私のクラスの生徒も含まれており、クスリ漬けになってしまったからか、元々そういう生徒たちだったのかはわからないが、彼らは集団で女子マネージャーをレイプするという事件を起こしてしまった。
ぼくはそれらの事件の事後処理に追われていた。
2学期に入ってからは授業の合間に刑事たちから事情聴取を受ける日々が続いていた。
私、棗弘幸がこのように病んでしまったのは他ならぬ愛すべき生徒たちのせいだった。
県立八十三(やとみ)高校1年2組は、この他にも問題児ばかりのクラスだった。
中学時代に同じテニス部の同級生をいじめており、自殺に追い込んでいた生徒もいた。高校ではおとなしくしているが、そのいじめの首謀者は彼だったという話だから、いつ彼がまた人を自殺に追いやるか気が抜けない。
八十三町を拠点とする新興宗教の教祖の三女がいて、次期教祖にでもなるつもりなのか学校内で父親の教えを広めている。学校内での信者の数は把握しきれていない。
ある生徒の双子の兄は、春に起きたN市八十三町児童連続殺傷事件の犯人・少年Aだった。少年A自体は我が校の生徒ではないし、その生徒はおとなしい生徒だったが、少年が逮捕されたあとマスコミはその家族の生活ぶりをテレビや新聞、雑誌などで伝えようとしており、逮捕から半年が過ぎた今もなお我が校の前には連日マスコミが押しかけてきている。
小学生時代に誘拐されたことがあることがある生徒もいた。五年前八十三町で起きた連続誘拐殺人事件の犯人は裁判で無罪を勝ち取り、無罪判決を受けた直後、マスコミの取材に対し、その生徒を再び誘拐すると宣言している。その生徒はそれを待ち望んでいる様子だから手に負えない。
大学院を卒業したあと、八十三高校に日本史教師として勤務するようになって、5年が過ぎていた。
大学では教授に散々反対され、研究室に残るよう何度も説得された。教師になるのが子供の頃からの夢であったから、教授には申し訳なかったが、ぼくは研究者ではなく教師になる道を選んだ。こんなことなら大学で研究を続けていればよかったと今更ながら後悔している。
「高校の先生ともあろうお方が、どうしてそんな憂鬱そうな顔をしてらっしゃるのです?」
校門をくぐる私に声をかけた男がいた。
「まるでいじめを苦に自殺を考えている生徒のように見えますよ」
「あなたは?」
どうせマスコミの人間だろう。普段なら声をかけられても無視するところだったが、その日の私はなぜか足を止め、彼に返答していた。男がスーツではなく、喪服を着ていたからだった。これから葬式にでも行くのだろうか。
「要といいます。この国のある研究所に属する者です」
彼は胸に手をあててそう自己紹介すると、
「マスコミじゃないのか?」
そう訊ねる私に、その手を返し手品のように名刺を差し出した。
差し出された名刺には、

「要雅雪(かなめまさゆき)
国立デュルケーム研究所 情報部
特権諜報員『零零七式』」

と、あった。
「国立デュルケーム研究所?」
聞いたことのない名前だった。特権諜報員、零零七式とはなんだろう? 0、0、7……007か。質の悪い冗談だ。
「悪いが、私はつまらない冗談に付き合うほど、今は心に余裕がなくてね。君も早く葬儀に行きたまえ」
私はそう言うと、
「葬儀の予定はありません。この喪服はわたしが所属する組織の制服のようなものです」
彼は名刺を差し出した手とは別の手で、今度は赤い携帯電話を私に手渡した。スマートフォンだ。どこの携帯会社のものか、製造元も、機種名もどこにも記されていなかった。
その携帯電話の画面を見ると通話状態になっていた。
「あなたに大切なお話があります、棗弘幸先生。すでにあるお方と通話状態になっております」
なぜこの男は私の名前を知っているのだろう。
名乗った覚えはない。初対面のはずだった。
「待ってくれ。何の話だ? あるお方とは誰だ?」
私の問いに、
「棗先生は確か大学は文久大学でしたね? 宇宙考古学の権威である佐野教授が手放すのを惜しまれたほど、優秀な学生だったとか」
男はそう答えた。
確かに私は大学で佐野教授のもと、宇宙考古学という学問の研究をしていた。
私が大学で学んだ宇宙考古学とは、人類史上の古代または超古代に宇宙人が地球に飛来し、人間を創造し、超古代文明を授けたという科学の一説だ。宇宙考古学と名を冠してはいるが、正式には学問として認められてはいない。
私の恩師である佐野教授も、大学では法学部で法哲学や法思想史を教える法律学者だった。私は教授の講義ではなく、教授が顧問を務める宇宙考古学研究会というサークルで宇宙考古学を学んだ。
宇宙考古学は、別名を「古代宇宙飛行士説」、「太古宇宙飛行士来訪説」、「宇宙人考古学」とも言い、この範疇でキリスト宇宙人説も唱えられている。
巨大な考古学遺跡やオーパーツは、宇宙人の技術で作られた。
宇宙人は、類人猿から人類を創った。
世界各地に残る神話の神々は、宇宙人を神格化したもの。
など、宇宙考古学の研究は多岐に渡り、学生時代の私はこの学問に夢中だった。
しかし、なぜそれをこの男は知っているのだろう?
「電話のお相手は、この国の歴史を二千年以上前から操り続けてきた一族のお方、と言えばお分かりになりますか?」
男は言った。
その言葉に、私は身震いした。
宇宙考古学において、イエスは古代宇宙飛行士、つまり宇宙人であったとされている。
イエスはこの星で一番優秀な知的生命体である人間の文明を正しく導くために外宇宙から遣わされた存在であった。
古代宇宙飛行士の存在はイエスだけではない。
ムー大陸やアトランティスをはじめとした古代文明や、ピラミッドやナスカの地上絵などの建築物、これらの当時の人類には到底なし得ることのできないものはすべて、古代宇宙飛行士によってもたらされた高度な科学によるものである。
二千年前、ゴルゴダの丘で処刑されたイエスは、3日後に息を吹き返し、その後数人の使者を連れてこの島国に渡ったとされる。
日本人のユダヤ人始祖説である。
イエスはこの島国でキリスト教にかわる新たな教えを使者たちに説いたという。
イエスは西洋でキリスト教を説いた。
しかし、イエスは処刑され、その教えも後の世の時の権力者たちによって都合のいいように改ざんされていった。
キリスト教はもともと男尊女卑の教えだったが、女性信者を増やすために後になってマリアを聖母にまつりあげたように。
そのため、この島国に渡ったイエスは、自らの教えを使者の一族のみに伝えることにした。
そして傀儡の宗教として神道を作り、傀儡の王として天皇をまつりあげた。
アダムとイブ、イザナギとイザナミをはじめとして、遠い異国の宗教であるはずのふたつの宗教の神話に共通点が多く見られるのはこのためだ。
イエスは使者たちに新たに教えを説いた後、別の知的生命体が存在する惑星へと旅立った。
聖書に記されるイエスが起こした数々の奇跡、それはすべて外宇宙の高度な科学文明によるものであった。
イエスは旅立つ際に、それらの技術を埋め込んだ体を使者の一族に託した。一般的に魂と呼ばれるエネルギー体だけになってこの星を旅立った。
それらの技術は二千年前にすでに進化の袋小路に迷い込んでいた人類を更に進化させるためのものであった。
イエスの使者の一族は、イエスが遺した肉体を四八の部位に分け、二千年の時をかけて分析と解析を行っているとされる。
そして使者の一族は以来二千年に渡ってこの国の歴史を影で操ってきたという。
その使者たちの名を、
「まさか十三評議会が実在するのか?」
私は口にしていた。
「話のわかる方で助かります」
要という男はうれしそうにそう言うと、私に差し出した携帯電話を受け取るよう促した。
私は震える手で受け取ると、
「棗弘幸です」
電話に出た。
しかし、キイイインという耳鳴りのような音しか聞こえない。
故障か?
私はそう思う。
男の顔を見るが、貼り付いたような作り物の笑顔を浮かべているだけだ。
そして、私の意識はそこでプツリと途絶えることとなった。

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