怠惰の大罪を背負ったけど何の因果か同時に娯楽神の加護を授かったおかげで働いたら負けの無敵状態になってゲーム三昧
夢を追うもの笑うもの3
期待を裏切られると何故こうも人はイライラしてしまうのか。期待していた事の反動って事なのだろうが、勝手に期待して勝手に裏切られた気になって勝手に怒る。
人としてあまり褒められる事じゃ無いのかもしれない。
それでも怒りの矛先は期待を裏切った者へと向けるしかない。そうしないと自分が辛いから。
「さっきのデカいのはベル曰くマッシブゴブリンでユニーク個体らしい、千尋なら瞬殺、俺でも勝てるってのがベルの評価だ。俺的には一人でぶっ倒したいと思ってるんだけど」
「ふむ……私はまこちゃんに判断を任せるよ」
「俺も拓美の意見に従おう」
千尋と一馬さんは俺に任せてくれるみたいだ。
「私は反対!わざわざリスクを冒す必要無し!皆で倒した方が良いと思う!何でそんなに拓美君がイラついてるかは分からないけど、感情を優先して判断するのは良くないよ?」
純に諭されて冷静になる。
俺は何故こうもイラついていたのだろうか。俺が一人で相手をするなんて合理的じゃないし、非効率だ。期待を裏切られたとはいえ相手はマッシブゴブリンで俺達の敵だ。いつもの俺なら一人で倒したいと思うだろうかという疑問。
「ありがとう純。少し冷静になれた、ここは皆で確実に安全に万全な状態で挑むべきだと思う」
冷静に考えてみるとかなり不自然だ。
もしかしたらマッシブゴブリンには何かヘイトコントロール系のスキルでもあるんじゃないだろうか。
そんな事を考えているとイラつきも収まった。
「陣形は前衛に千尋と一馬さん、後衛に純、俺はその間で相手を槍で牽制するよ。じゃあマッシブゴブリン退治に行きますか!」
俺達はマッシブゴブリンが守る扉のある広場へと戻ってきた。
マッシブゴブリンを見ていると何だかイラついてきた、これはもう間違いないだろう。ヘイトコントロール系の何かをマッシブゴブリンは所持している筈だ。それが分かっただけでも充分な収穫だろう。
「皆、マッシブゴブリンを見てイラつきとかあるか?」
「私は何故か無性にムカつくな」
「俺もだ」
「うーん……私は特に何も思わないかな!」
「ありがとう。たぶんだけどマッシブゴブリンにはヘイトコントロール系のスキルか何かがあるんだと思う。だからマッシブゴブリンを見てるとイラついたり、ムカついたり、怒りの感情が湧いてくるんだと俺は思ってる。純は良く分からないが、耐性でもあるのかもな」
皆に俺の考えを共有する。
予測でしかないが、後でベルに聞いて答え合わせでもしよう。
ヘイトコントロールはマッシブゴブリン単体なら効果は薄いが、これが多数の敵が居た場合はかなり効果的なスキルだろう。ヘイトコントロール出来れば待ち伏せ、奇襲、色んな場面で役に立つのは間違いない。アバターともかなり相性が良い筈だ。
「なるほど……厄介だな、幸い周囲には何も居ないがな」
「ヘイトコントロールってのは察するに、注目を集めるって事だろう?優秀な能力だな、流石はユニーク個体だな!ガハハ!」
「欲しいね!その能力!」
「まぁ、その話は家に戻ってからベルも交えてするとして、そろそろやろうか」
貴重な情報に感謝しながら各自武器を構えながらマッシブゴブリンにとの距離を縮めていく。
「3,2,1、GO!」
俺の合図で一斉に駆け出した。
一番手はやはり千尋だ、俺達を置き去りにしながら千尋がマッシブゴブリンに真正面から突っ込んでいき上段からの振り下ろしをお見舞いする。
「……せいっ!」
マッシブゴブリンも俺達に気が付き迎撃態勢を取ろうとするが遅かった。
マッシブゴブリンが無手で千尋の攻撃を防ごうと両腕で千尋の斬撃に合わせて腕を上げたのだが、千尋の振り下ろしは腕ごとマッシブゴブリンを一刀両断した。
「一撃か……俺達の出る幕無かったな」
千尋によって切り裂かれたマッシブゴブリンは消え、その場には何か石のようなものが転がっていた。
「……私も流石に一撃で終わるとは思っていなかったんだが……」
何処か気まずそうな千尋。
「千尋、ありがとう。簡単に倒せるに越したことは無いからな」
「そうだ!己の強さをもっと誇った方が良い!良くやったな千尋!」
「千尋ちゃんが強いと楽が出来て良いね!」
本当にあっさりと、ベルの言っていた通り一瞬で終わった。
これで仮称九重ダンジョンの攻略も終わりだろう。残すはコアルームに入り、ダンジョンコアに触れるだけだ。
「良し!サクッとコアルームに行こうか!」
「あぁ」「おぅ」「ほいほい!」
遂に他ダンジョンの攻略が終わる。
これで千尋は英雄への第一歩を歩める。
コアルームへの扉を開いて中へと入る。
コアルームは怠惰ダンジョンの時と同じく真っ白な部屋で中央にはダンジョンコアが台座に鎮座している。あれに触れれば攻略終了となる。
「じゃあ一馬さん、コアに触れてください」
「おぅ!じゃあ遠慮なく!」
一馬さんがダンジョンコアへと手を伸ばし、触れた。
その瞬間コアが砕けて破片が一馬さんに吸い込まれる様に消えていった。
「目標達成!これより帰還する!って事で帰りますか!」
俺達は喜ぶ間もなく九重ダンジョンから撤退を開始した。
☆ ☆ ☆
疲れた。
肉体的にでは無く精神的に。
アバターを使ってのダンジョン攻略なので肉体が疲労するという事は無いが、精神は疲労する。
自室で一人布団に寝転ぶ。
我が家には今俺しか居ない。
ベルも英美里も何かやる事があるようで忙しくしているようだ。
今頃千尋達は車で我が家へと帰還している最中だろう。
怠惰の魔眼を千尋に発動しようとするが、やはり何も起きない。
「外でも使えたら良かったんだけどな……」
怠惰の魔眼には効果範囲があるようで、怠惰の居城の範囲内でしか効果が発動しなかった。
「それでも充分便利なんだけど……現状は使い道があんまり無いかな」
怠惰の魔眼の真骨頂は敵が怠惰ダンジョンに侵入してきた場合に発揮されるだろう。敵が侵入してくる事が今後あるかは分からないが、怠惰の魔眼があるというだけで安心感がある。
念話と怠惰の魔眼という戦場の情報戦では負け知らずなコンボにより我らが怠惰ダンジョンは鉄壁だろう。
「明日は忙しくなるな……主に千尋が」
今日のダンジョン攻略を見越して、地元のテレビ局の協力も取り付けている。地方とはいえテレビはテレビだ、影響力は凄まじい。それにネットでも同時に配信する予定なので世界的に注目される事は間違い無いだろう。
「緊急独占生放送!まぁ本来放送される予定だった番組には迷惑掛けるだろうけど……」
九州の片田舎から世界的な英雄が誕生する瞬間が楽しみで仕方が無い。
どれだけの影響があるのかも予想が着かない。
世界に希望を与えられるかどうかも分からない。
せめて、未来ある若者が無駄に命を散らさないようになれば良いなと願いながら仮眠を始めた。
そういえばテレビ放送って何時からの予定だったっけ。
まぁ良いかそれまで寝よう。
俺が出来る事はもう無い。
後は嫁が全部やってくれる。
おやすみなさい。
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