怠惰の大罪を背負ったけど何の因果か同時に娯楽神の加護を授かったおかげで働いたら負けの無敵状態になってゲーム三昧

きゅーびー

英雄も事件が無ければただの人28

 朝は相変わらず稽古とレベリング、嫁の居ぬ間の空いた時間に槍術の訓練、夜は3人でアニメ鑑賞。そんな日々が数日過ぎた。
 世間ではマスコミがまた政治批判を繰り返し。
 無謀な若者が何人もゴブリンの餌食になり。
 超常現象対策本部ではエースとしての活躍を期待されている馬鹿がメディアに積極的に露出するようになり。
 世間的にはダンジョンやモンスターの脅威を甘く捉えがちな空気が漂いながらも、日本のトップの男は毎日のように現状の厳しさを訴え続ける。
 そんな良くも悪くも平和ボケした日本人にセンセーショナルな事件が起きた。その事件は即座に、日本だけでなく世界中の人々を震撼させた。
 遂にダンジョン側も余力が出てきたのか、日本の東京都内の奥多摩で世界で初めてゴブリン以外のモンスターが発見されたのである。


 ☆ ☆ ☆


 部屋で一人、超常現象対策本部、通称PCHのサイトを見ている。最近では超常現象対策本部という呼び名が長いという理由でSNSなんかではもっぱらこの呼び名が使われている。
 Paranormal Countermeasures Headquartersの頭文字でPCHという事らしいが、俺自身は意味は良く分かってないし然程興味も無い。

 この時間は本来ならベルと槍術の訓練を行う予定だったのだが、あまりにも世界中が湧いているので流石に情報を仕入れる為に今日は部屋で色々な情報の精査作業をしていた。
 もちろん、怠惰対策として作業は全てアバター経由で行っている。

「遂にきたかって感じだな……まぁ奥多摩は仕方ないかぁ、あれだけの人が押しかければそりゃダンジョンの成長速度も早まるよな……」

 最近の奥多摩はプチブームを起こしていたようで、観光目的や物見遊山の人とゴブリンを討伐したい人なんかも沢山訪れて居た。ゴブリンが発見された場所の周辺は一応は封鎖されてはいたのだが、遠巻きから眺める人も居れば封鎖されている所へ無断で侵入する馬鹿も多く居たらしい。ただでさえ人手が足りていないのに、多くの人が訪れるという事で人員を無駄に増員させているという事に多くの人は気付けていないのか、それとも気付いていながらも奥多摩へ行っているのかは分からないがどちらにせよ悪手である事には変わりない。

「新種のモンスター、仮称ワーウルフか……」

 新しく目撃されたモンスターは人型で、大きさは大体180cm、衣服は下半身だけ腰巻を身に着けており上半身は裸、全身が犬のような体毛で覆われており、頭部は狼の顔をしていた。

「第一発見者は良くこの姿を動画に収めれたよな、普通ならダッシュで逃げると思うんだが……なるほどな、元々が動画撮影が目的だったのかこの馬鹿は」

 何処にでも居る馬鹿が今回は多少、役に立ったみたいだがこういう奴らが居なければそもそもワーウルフは生成されて無い筈だという事が世間にはまだ知られていない。

「国からは封鎖場所への無断侵入で注意受けたか……厳罰を下さなかったのは今回の情報提供による恩情なのかね、これは」

 今の所、ワーウルフの目撃は一件で被害も不明。
 とにかくここまで大きな事態になったのであれば、俺達もそろそろ動かねばならないだろう。本来の予定ではもう少し時間的猶予があると思っていたのだが、奥多摩に関して言えば想定外としか言いようがない。

「問題は冒険者協会の申請がまだ通ってない事と、千尋が英美里に勝ててないって事か……」

 冒険者協会の設立申請は予定通りに運べば今日、明日にでも通る。問題は我らが英雄千尋様だ。
 剣精召喚は本当に優秀なスキルなのだが、その性能を千尋が十全に引き出せていないのが英美里に勝てない理由だろう。むしろ、剣精を使わない状態の方が千尋は強いとさえ思える。意識が剣精の操作に取られ過ぎているせいで本来の自分の動きが出来ていないのだ。けれど千尋は剣精を使い続けている、これから先の事を見据えての千尋なりの判断なのだろう。

「にしても純の方が先に条件突破するとは思わなかったなぁ……まさかミズチナナがあれほど厄介な存在になるとは、リーダーも思って無かったんだろうけど……あれは初見殺しだよな」

 先日、純は無事にエルフの長、我らがリーダー美帆を見事に打ち負かした。
 ミズチナナが魔法を既に扱えるとは思って無かったのか、リーダーがただの観戦者だと思い込んでいたミズチナナに背を向けた瞬間に水魔法で大きな水球を生成し、その中に閉じ込め、それと同時に純が今まで隠していた新魔法である氷魔法によりリーダー毎水球を凍結、審判を務めていたベルによりTKOの判定が下された。

「あれは流石の俺も血の気が引いたな……にしても流石だよな純は、火魔法と水魔法の応用で氷魔法が使えるとか言ってたけど俺には全く使えないし、魔法の才能で言えばエルフにも匹敵するってベルも言ってたし……」

 正面から魔法を打ち合えば未だリーダーが純に負ける事は無いのだろうが、ここ一番で勝つ為だけに色々な事を考え策を用意し、奇襲し、勝利した。
 それは素直に凄いと思う。明らかに格上の相手を倒すのは容易ではない。

「ともすれば、もうすぐヒーローズが本格始動する事になるのか……長かったような短かったような」

 純は条件クリア、千尋もすぐに条件をクリアするだろう。あの負けず嫌いな俺の幼馴染の事だ、努力して練習して自分を追い込んででも剣精を上手く操作して英美里にも勝ってしまうのだろう。そうなれば晴れて英雄は世界へと羽搏く。

 巣立ちの時は近い。
 舞台は既に整えてある、一馬さんと博信さんに頼んで政府に報告していないダンジョンを確保して貰っているのでまずはそのダンジョンを攻略する。そして攻略後に冒険者協会としてPCHに報告してから、地元のテレビ局を使って大々的にダンジョンを攻略した事を発表する手筈だ。最初は火種も小さいかもしれないが、PCHだけは必ず食いつく。何せダンジョンの情報は喉から手が出る程欲しいだろうからな。初めは嘘や偽りだと疑われても構わない、何れ真実だと気付く者が現れるから。

「さて……日本のトップはどう動くのかな」

 ダンジョンの情報を多く持っている俺から見てもあの人の動きは流石としか言いようがない。ダンジョンについての詳細も分かって無い中であれ程の行動が出来るのは日本の政治家の中でも少ないのでは無いだろうか、柔軟な発想と機敏な動き、その行動のどれもが正解では無いとしても対ダンジョンにおいてはベターなのには称賛しか無い。世界がモンスターとダンジョンにより支配されたとしても、この日本という国だけは無事で居られるという確信を俺に抱かせてくれた。

「頼むよ安相さん……頼むから俺達とは敵対しないでくれよ。そうなれば俺達は争うしか無くなるんだからな……この世界はもう人間様だけの物じゃないんだから、モンスターやダンジョンとの共生を受け入れてくれよ……」

 英雄を世に送り出す為の準備期間がもうすぐ終わる。
 争いは嫌いだ、けれどそうする事でしか存在が認められないというのならば受けて立とう。
 家族を守る為に。



















「もしも争いになったとしても、ベルさえ居れば余裕で勝てるんだろうなぁ……もしかしたらビームとか撃てるんじゃないかベルは?」
 怠惰ダンジョン最強は伊達じゃない。


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