怠惰の大罪を背負ったけど何の因果か同時に娯楽神の加護を授かったおかげで働いたら負けの無敵状態になってゲーム三昧
英雄も事件が無ければただの人17
お嫁ーずがアバター無しでダンジョン攻略に向かうのは出来る事ならば避けたいのが本音ではある。
別に千尋や純の事を信頼していない訳では無く、純粋に心配だからだ。千尋は既に俺よりも強いし、純も基本属性の魔法を俺よりも扱えている。戦力で言えば俺と純が現状横並びぐらいで千尋が頭一つ抜けているのは間違いない。純に関してもレベルは俺よりも低い状態で俺と同程度の戦力を有しているので、何れは純に負けるのは目に見えている。
「心配してくれるのはありがたいが……ここまで手厚いサポートを受けているんだ、そうそうダンジョンで遅れを取る事は無い。それに<冒険者協会>が軌道に乗れば多くの人を救える。今更引くという選択肢は私には無い!……最悪まこちゃんと婚約破棄したとしても私が歩みを止める事は無い!覚悟と信念はもう持っている……剣士としての矜持も意地もある」
分かっていた。
分かりきっていた返答に溜息しか出ない。
「はぁ……分かってるよそんな事。それでも俺はお前らの旦那として心配するんだ、アバターを使ってダンジョン攻略をすれば絶対に安全だと思っていたから、大切な人が死ぬかもしれない場所に行ったとしても問題は無かっただけだ。けど今は違う、状況が変わったんだから俺が反対するのは至極当然だろ」
信頼しているから心配しないという訳では無い。
大切な人の命というのは重い、失ってしまえば残された人は絶望に陥るという事を痛感している身としては可能性が僅かでもあるのなら反対して然るべきなのだ。
「それでも止まれない。我儘なのは分かっている、だが救える力があってその力を振るう機会があるというなら私は何があっても振るうよ。そうしなければ私は私を許せない」
昔から頑固者の千尋を説得出来た事は無い。
一度決めたら最後まで。
基本的に真っ直ぐにしか進めないのだ千尋という人間は。
ならば説得は諦めてリスクを最小限に留める方が建設的だろう。縁を切るよりかは幾分かマシだと思う。
「ふぅ……ダンジョン攻略に行くのは認める。代わりに俺が出す条件を満たしてからダンジョン攻略をして欲しい」
「条件?……一応聞いておこう」
「俺が出す条件はベルに勝利、もしくは引き分ける。この条件が達成出来れば俺も安心して千尋を送り出せる」
現状<怠惰ダンジョン>最強はベルだ。
ベルに勝てるのであれば流石に俺も文句は無い。
「それは無理だ、私がベルに勝てるとは思えん。もはや別次元の話になっているので却下だ。せめてもう少し可能性がある事にしてくれ」
「……ソンナコトナイデスヨ!」
棒読みのベルが反論しているが、俺もベルが負ける姿は想像出来ない。だからこそ引き分けでも良いという条件なのだが、それすらも不可能だと千尋は思っているらしい。
「諦めんなよ!出来る出来る!千尋ならベルと引き分けるぐらいならいつかは出来るって!」
「いや無理だ」
「即答かよ!もっとまじめに考えてくれよ!ベルを倒す方法が何かしらあるかもしれないだろ!」
「……ソウダヨ!ベルソンナニツヨクナイヨ!」
「ベルはまこちゃんの味方をするのか?」
冷ややかな目でベルを見つめる千尋。
挙動不審に陥るベル。
俺もベルを見つめる。
我関せず状態で楽しそうにしている純。
「それではベル様の代わりに私がお相手するというのはどうですか?」
沈黙していた英美里が割り込んできた。
「英美里か……分かった。ベルじゃなくて英美里に勝てればダンジョン攻略に行く事を認めるよ」
英美里も実力で言えば申し分無い。
戦闘タイプでは無いと本人は言っているが、その戦闘力は千尋よりも高い。
「……英美里に勝てば良いんだな?」
千尋も存外乗り気らしい。
「英美里に勝てたら俺も文句は言わないと約束する」
千尋が勝つ可能性は充分ある。
でもここがお互いに妥協点だろう。
「じゃあその条件で決まりね!ちなみに私も英美里を倒さないと駄目なのかな?それだと結構厳しいんだけど……どちらかと言えば私は魔法タイプだし!近接戦闘は無理!」
純の言う事も一理ある。
純は近接戦闘に持ち込まれれば英美里には勝てないだろう。それに英美里には影移動というスキルがあるので距離を一瞬で詰める事は容易なので相性は最悪に近い。
「魔法といえばリーダーか……じゃあ純はリーダーに魔法縛りの勝負で勝てたらでどうだ?リーダーに魔法戦で勝てるなら俺も安心出来るし」
「じゃあそれで!魔法戦なら何とか行ける気がする!リーダーに勝てるように特訓だね!」
「良し!話も纏まった事だし、昼飯にしようか」
ダンジョン攻略に行くには千尋は英美里を、純はリーダーを倒さねば出来ない事に決まった。
俺の勝手に付き合ってくれる優しい家族。
ダンジョン攻略は単独では行う予定は無いので、二人共が条件を満たさなければならない。俺はなるべくなら二人が強くなった状態でダンジョンに挑む事で最悪の事態を避ける確率は上がると思う。俺に出来る譲歩はここが限界だろう。
「そういえば!リーダーに名付け出来るから名付けしてあげなきゃ!」
白々しくリーダーに名付けをする事を周知する。
本当ならエルフルズ全員に名付けが出来る状態で同時に名付けをしてあげたかったが、今回の条件を聞けばリーダーもエルフルズも納得してくれる筈だ。
リーダー含め、エルフルズの名前は既に決めているので昼ご飯を食べたら直ぐにでも名付けを行おうと決めてから英美里が作ってくれる昼ご飯を待つ。
「マスターは結構意地悪ですよね……」
「「確かに」」
何とでも言うが良いさ。
もう条件は決定したのだ、ここから条件が変わる事は無い。
☆ ☆ ☆
久々に登場した目玉の乗ったカツ丼をお腹いっぱい食べてからリーダーに念話を掛けた。
『リーダー』
『何か御用でしょうか?』
返事は直ぐに返ってきた。
『実は……純が他ダンジョン攻略する為の条件としてリーダーに魔法戦で勝てたらという事になったんだけど……良かったか?』
『それは……私は構いませんが大丈夫でしょうか?純様はもう既に私に迫る程に魔法が熟達していますよ?あと数日もすれば私を超えると思いますが……私の考えが合っているのであれば、児玉様は純様になるべく強くなってからダンジョン攻略に行って欲しいのですよね?』
相変わらず察しが良いリーダー。
やはりエルフというのは優秀な種族なんだな。
エルフ最高かよ!
『その事なんだけど……リーダーに名付けしようと思ってるんだ。そうすればそう簡単には純に負ける事は無いだろ?』
『っ!……それは本当ですか?』
『あぁ。本当ならエルフルズの皆、同時に名付けしてあげたかったんだけど……ごめん』
『いえ!とても嬉しいです!ふうちゃん、つっちー、ひかりんには申し訳ないですが……ここはリーダー権限という事で納得してもらいます!』
『じゃあ今からそっちに行くから待ってて。ちなみに今何処に居る?ツリーハウス?』
嬉しそうなリーダーの声音を聞いて安心した。
エルフルズは本当に仲が良いから今回の事で軋轢が生まれないように他の皆にもちゃんと説明してあげないとな。
『もうすぐそちらに着きますので!』
『そっかそっか、いきなりでごめんな?』
リーダー自らこっちに来てくれているようだ。
喜んでくれているようで安心した。
「お待たせしました!」
念話から数分も待たずして、満面の笑みを浮かべたエルフルズが俺の部屋に集結していた。
「早いな!」
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