怠惰の大罪を背負ったけど何の因果か同時に娯楽神の加護を授かったおかげで働いたら負けの無敵状態になってゲーム三昧

きゅーびー

英雄も事件が無ければただの人4


 隠れ蓑と情報提供用に設立する民間団体の名称なんて俺にはどうなったって構わない、最低限どんな団体なのかが分かりさえすれば。
 けれど純にはそれが不満だったようで俺がどっちでも良いと答えると軽く口を尖らせ拗ねていた。
 アラサーには見えないとはいえ、実年齢が三十路前の成人女性がおいそれと他人に見せて良いとは思えない拗ね方をしている。

「どっちでも良いかもしれないけど……こういう時は何となくでも良いから、どちらかを選択するものだよ?」

 軽く説教をされてしまった、でも拗ねながら怒る姿もキュートで凄く良い。

「すいませんね……じゃあ<冒険者協会>にしましょうか、漢字で書けた方が何かと便利だと思うので」

「良し!じゃあ民間団体の名称は今後<冒険者協会>で決定!代表は私が務めるとして……千尋ちゃんにも何かカッコいい役職と通り名みたいなものを考えてあげないと!宣伝塔にはキャラクター性が大事だからね!」

「それは良い考えだ!千尋にぴったりの通り名か……昔は剣姫とか言われてたりしてましたけど……もう姫って年齢でも無いんで、剣女帝?剣女王?それとも昔みたいに全方無敗?うーん……悩むなぁ」

 千尋は女子剣道界では知らない人は居ないぐらいの有名人だ、剣道がもしも世界的に人気のある競技だったらもっとメディアにも取り上げられていただろう。
 いかんせんマイナー競技なので全国区のテレビにも数回程しか出演したことは無い。
 中学・高校・大学の公式戦では無敗という伝説的な偉業を果たしている。
 社会人になってからの事は流石に俺も把握していないが、あの千尋が女子剣道で負けるとは思えない。

「確かに昔は色々と面白半分でメディアのネタにされてたよねぇ……懐かしいなぁ!平成の女剣士その素顔とは!女ラストサムライまたも優勝!一騎当千・巴御前の魂を継ぐ者!現代に蘇りし立花誾千代の驚愕の無敗記録!新聞の切り抜きまだ持ってるよ!くふふ!今度持ってきてあげようか?」

 立花誾千代に関しては純の方が血筋的な意味では相応しいとは思う。
 まぁ九州という事を考えると巴御前よりも立花誾千代の方がしっくりくるのは間違いないだろう。

「切り抜きなら持ってるから大丈夫。うちの両親が千尋の大大大ファンだったからな……千尋親衛隊とか名乗ってたのは流石に引いたけど。しかし……千尋も純も立花誾千代要素があるって事は、その夫となる俺はもしかして……西国無双立花宗茂だった……?」

 実際は立花宗茂よりも大友宗麟に倣って南蛮貿易でもしながら優秀な部下に全て任せて左団扇な生活が送りたいというのが本音だが。

「くふふ!それは困るな、もしも私達が立花誾千代なら子孫を残す前に死ぬという事になってしまうよ……まぁ歴史を繰り返さない為にも子孫繁栄!安産祈願!宇佐神宮にでも参拝しに行くかい?」

「神様に祈る前に色々とする事一杯あるんで、無理!」

 神様に祈りを捧げる時間があるなら、他の事に時間を使った方が神様も喜ぶと思う。

「祈りよりも契りの方が大事って事だね!」

 とても良い笑顔でサムズアップしてきた。
 女性も年を重ねると段々下品になるのだろうか。

「もうそういう事で良いや……結局千尋の役職と異名はどうする?インパクトがあった方が人気も出やすいと思うけど」

「そうだね……設立するなら、一般社団法人で良いと思うんだ。だから私が会長で代表理事を務めるから、千尋ちゃんは副会長で良いんじゃないかな!異名は……素直に剣神にした方が説明もしやすくて良いと思う!これから先、主に九州を中心に<冒険者協会>を大きくしていくつもりではあるけど、聞いただけで<神の加護>所有者って事が分かった方が便利になるからね!」

 こうして本人の知らない所で、なんの捻りも無く<冒険者協会副会長 剣神佐々木千尋>が誕生した。

「じゃあそれで決定。とりあえず俺は表には出ないようにするけど、どうしてもの時は俺も表舞台に立つ覚悟はしておくよ」

「ありがとう!とりあえず私は今から実家に戻るとするよ!今なら急げば君の事をぼかしながらお父様に事情を説明して、専門家と相談しながら定款原案の作成と定款認証しに行って、設立登記申請すれば来週には登記完了!晴れて<冒険者協会>は始動出来るようになるから!そういう事だから、ちょっと千尋ちゃん借りて行くね!夜ご飯までには戻るから!」

「あっはい……」

 思い立ったら即行動。
 民間団体設立はベルが発案して俺が純に提案したものだったが、こうも早く設立する事になるとは思ってもいなかった。
 流石は大企業グループのご令嬢なだけはある、設立する為に必要な事を良く知っているみたいだ。俺には何を言っているのかさっぱり理解出来なかったが、純に任せておけば万事解決、俺の出る幕など初めから無かったのだ。

「じゃ!行ってきます!」
 部屋の扉の前で軽く手を振りながら、楽しそうに部屋を出て行った純に手を振り返す。
「いってらっしゃい」

 恐らく今日が世界初のダンジョン攻略団体<冒険者協会>が設立される日になるのだろうと何処か他人事のように感じていた。


 ☆ ☆ ☆


 晩御飯まで何もすることが無い。
 暇と言えば暇なのだが、何かをする気も起きない。
 この人生において無駄な時間がとても幸せに感じられるのは俺が怠惰だからだろうか。
「暇だなー暇だなー暇だなーひーまーだーなー」
 暇なので偶には散歩でもしようと布団に寝転がりながらアバターで<怠惰ダンジョン>を散歩する事にした。


 畑には沢山の野菜。
 果樹園には沢山の果物。
 山へ入れば綺麗に整備された山道。
 森へ向かえばエルフルズのツリーハウス。

「児玉様!こんにちは!英美里様とお散歩ですか?」
 リーダーの言葉を聞き後ろを振り向くが、誰も居ない。
「いや、一人だけど……英美里?」
「はい!ご主人様!千尋が純と出掛けて暇でしたので陰ながら護衛をしていました!」
 英美里の名前を呼ぶと俺の影から英美里が出てきた。
「凄いなリーダー良く気付いたな!俺は全く気付いて無かったけど……なんでわかったんだ?」
「英美里様の魔力が児玉様の影からほんの少しだけ漏れていましたから」
 魔力を感じる事が出来るとこういった索敵もできるのかと改めて魔法や魔力の凄さに感心する。
「そんなことも分かるのか、俺も魔法の練習はしてるけどまだまだって事だな!俺も魔力操作取得しようかな……まぁ後回しか……じゃあ!またな!」
「はい!いつでも遊びに来てくださいね!」
 エルフルズと軽く手を振りあい別れた
 そのまま洞窟へ向かう。
 道中、英美里に質問した。
「ちなみに何時から影に居たんだ?」
「ご主人様が歌を歌っている間にちょちょいと潜んでおりました!」
「そうか……今度からは出来れば声をかけてくれ」
 児玉拓美の「暇」独唱を聞かれていたと知って気恥ずかしくなり、適当に話を終わらせた。


 ほんの一週間程の間で色々な事が変わった。
 本当に色々。
 これからも色々な事が起きて、色々な事が変化していくだろう。
 けれど変化を恐れてはいけない、変わる事より変わらない事の方が少ないし難しいのだから。

 洞窟を通って地下へ進みトンネルを抜けて第二階層に到着した。
 遠くにある畜舎を見れば、黒くてデカい牛と黒くてデカい豚が見える。

「そうか……牛と豚も増えたのか」

 畜舎へと歩いて行く。
 遠くからではサイズ感があまり分からなかったが、牛と豚は近くで見ると迫力満点で流石にデカすぎる気がした。

「いやいや……こいつら何を食わしたらこんなにデカくなるんだよ」

 牛の大きさは大体、中型のトラック程もあって、豚も軽トラックぐらいはあるだろうか。

「こいつらの世話って大変そうだけど大丈夫か?」

 牛、豚、鶏に餌をあげていた番長に聞いてみた。

「大丈夫っす!4人も居るっすからね!しかもこいつらの世話って餌やりと糞の掃除ぐらいっすからね!それさえしとけば賢いんで適当に放牧しとけば問題ないっす!」

 その餌やりと糞の掃除の量が尋常じゃないから心配なのだが、番長的には問題ないらしい。

「まぁ困ったことが有ったらベルに言えば何とかしてくれるから、ちゃんと言うんだぞ?」

「りょーかいっす!」
 何処で覚えたのか、敬礼しながら返事をしてきた。

「じゃあ!またな!」
 敬礼には敬礼で返して地下広場へと向かうべく、畜舎の家の玄関に向かう。

「英美里ってさ、戦闘は専門じゃないって前に言ってたけど……番長と同じレベルだったとしたら勝てる?」
 英美里は加護を持たない。
 もはや<怠惰ダンジョン>では加護を持っていない方が少ない、英美里とたぶんベルだけだ。
「そうですね……正面から殴り合ったとしても力では負けないですし、鬼神化されたとしても力負けはしませんから……鬼人娘衆が相手でも負ける事は無いと思います!」

 圧倒的パワーの持ち主の鬼人娘衆でも英美里のパワーには敵わないらしい。
 戦闘が専門では無いのにこの強さ、もう俺にはなにがなんだか分からない。
「そんな英美里にも勝てるベルって……もしかして世界最強なのか?」
「そうですね!恐らく現状最強ですね!ベル様がどんなスキルを持っているかも分かりません!模擬戦をしても気付けばこちらが倒されて負けているので、私ではベル様の本当の実力すら推し量る事が出来ません」

 ベルはDPを使う事でスキルを得たり、与えたりする事が出来る。
 やろうと思えば俺にも出来るんだろうが、必要性も無いし面倒臭そうなので俺は今後もベルに任せる方針だ。

「まぁ強さもうそうだけど、ベルの凄い所はやっぱり<怠惰ダンジョン>の運営の仕方だよなぁ……正直ここまで早くこんな規模のダンジョンになるとは思って無かったし、DPを生み出す仕組みの構築が異常に早いよな」

 DPは俺達の生命線でもあるのだ、多く稼げるに越したことは無い。
 やはりベルがトップで良かった。
 俺の頭ではここまでの運営は不可能だったと断言出来る。
 運営でベルに対抗出来る可能性が有るとすれば純ぐらいしか居ないだろうが、ベルはワンオペ24hフルタイムな上に肉体と本体で別の作業を同時にこなす事が出来る。
 人間では到底太刀打ち出来ない存在だろう。

「まぁベル様ですから、あの方以上に適任は存在しないと皆が知っていますからね!なにより一番の働き者です!」
「俺とは正反対だな、だからこそ信頼出来る訳だけど……」

 英美里と他愛も無い話をしていると地下広場のコアルームへと到着した。

「ベル!遊びに来たぞ!」

「はい!」マスター!どうぞごゆっくり!」

 あの殺風景だったコアルームもかなり変わった、もはや部屋である。
 床は通路以外は畳が敷かれ、布団、箪笥、ちゃぶ台、流し付きのキッチン、風呂とトイレ以外は大体揃っていた。

「どうぞ!」
「ありがとう!」

 ちゃぶ台の席に着いた俺に英美里がコーヒーを出してくれた。

「マスター……改めて婚約おめでとうございます!ちなみに私の番はいつ頃になりそうですか?ちーちゃんは今日、明日は純にゃんですよね?明後日はベルでどうですか?」

「いやいや……浮気になるからダメに決まってるだろ……」

 何を言うかと思えば急にぶっこんできやがった。

「それじゃあ第二案として!ちーちゃんも純にゃんもまだ行為をしたことが無いので!私で練習するというのはどうでしょうか!私ならどんな無茶をしても平気ですし!」

「ん?」

 何かがおかしい。
 ベルの言葉に違和感を覚えた。

「んんっ!ベル様っ!んんっ!」

 英美里が咳込みながら微かに首を横に振った。

「あっ……」

 ベルが何かに気付き、自分の口を抑えた。

















「……行為をしたことが無い?」
 行為ってなんだ?
 話の流れからして性行為の事だと思ってたが違ったようだ。
「……んぅー?分からん!」





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