怠惰の大罪を背負ったけど何の因果か同時に娯楽神の加護を授かったおかげで働いたら負けの無敵状態になってゲーム三昧
小さな発見は大きな事件11
略語文化を否定したり、嫌っている人をたまに見かけることがある。
そういう人達の事が嫌いだとかは無いのだが、言葉というものは時代とともに変化し、進化してきたから今の日本語になっている事も事実だと思う、だからこそ変化を柔軟に受け入れて使う人は凄いと思う。
人は年を取ると思考が固まっていき、自分の知っている事以外の情報を否定したり受け入れる事が難しくなるものだと聞いたことがある。
最近の若者は、という言葉があるがこの使い古された古の表現だが、どの時代でも言っている人が居る。
大体が成人以上の人だ、既に若者では無いと自覚がある人が良く使っているイメージだろうか。
この言葉はとても秀逸な表現だと感心する。
何故ならこの言葉を聞かされた人は自分が年を取り若者では無くなるとふとした時に出てきてしまうシステムになっているからだ。
誰もが知らぬ間に一度は口にしてしまう魔法の言葉なのである。
若いうちに聞いたり使ったりする流行りの言葉というのは存外頭から離れないものだ。
年齢を重ねると昔に流行った言葉を今なお使い続けてしまうのはそのせいだと思うし、社会人だと若者が使う言葉に触れる機会が極端に減る。
インターネット社会である今はインターネットに触れている時間が長い人ほど流行りに敏感だ。
その世界で流行っている言葉はある種、暗号のような役割も持つ場合もある。
専門用語と言っても良いかも知れない。
その一般人が知らない、使わないであろう特殊な言語を使う事で仲間意識が強くなったりすることもある。
どんな言葉を使うかは結局聞き馴染みがあるか無いか、そこが重要なのだろうと思う。
だからだろうか、ネトゲで使われている言葉が咄嗟に出てしまったりするのは。
☆ ☆ ☆
千尋からのハーレムを許容します宣言を受けて混乱しているせいか、普段使わない言葉で返事を返してしまった。
『こっちは大真面目だ。ふざけた言葉で返してくるな、ちょっとだけイラッとしたぞ。真面目な話をした私に謝罪しろ誠心誠意心を込めて、だがまこちゃんは言葉知らないようだからな私がまこちゃんに言葉をおしえてやろう、私の後に続いて謝罪の言葉を復唱しなさい!』
『ハイ、お願いします』
なんか良くわからないが、おこらしいから素直にいう事を聞く。
『この度は』
『……この度は』
なんだこれ。
『私の言葉で』
『……私の言葉で』
いやいや優しい幼児に教えるような声をやめてくれ。
『千尋様を』
『……千尋様を』
自分で様付けして恥ずかしく無いのか
『不快にさせてしまった事を謝罪』
『不快にさせてしまった事を謝罪』
長い、言葉を切る所が雑。
『したいと思います、誠に申し訳ありま』
『……したいと思います、誠に申し訳ありま』
こいつ楽しんでやがる。
『せん。贖罪として、千尋様を卑しいワタクシめの飼い主として』
『……せん。贖罪として、千尋様を卑しいワタクシめの飼い主として』
不穏な流れになってきた。
『認め、正妻として迎え入れる事をここに誓います』
『……』
なんだこれ。
今時、小学生でも騙されない手法で言質を取りに来やがった。
『どうした、続きを言え。ご主人様に忠誠を誓うと宣言しろ』
なぜこんなにも求めてくれるのかが分からない。
『いや、ご主人様は俺だから』
『ではご主人様に責任を取って頂けるという事ですね!卑しい千尋を妻として迎え入れて頂きありがとうございます!一生お慕い申し上げます……きゃっ』
何がなんだか分からないが、千尋が楽しそうだから良いか。
普段こんな軽口や冗談を自分からは言わないが、昔から俺と話すときは偶にこういう時があった。
楽しいのだろう今が、高校の教師になって指導者になったもののうまくいかず実家に戻る選択をした千尋。
苦悩があっただろう葛藤があっただろう、でも今はストレスからも解放されて不安だった先行きも<怠惰ダンジョン>に加入した事で解消されつつあるんだと思う。
だからこんな冗談も言える、楽しく居れる。
『冗談ばっかり言ってないで、迷宮行くぞ』
ネトゲの話に強引に持っていく。
『……冗談でも無いが、今日はこの辺で許してあげよう!』
そこからは二人でネトゲに集中した。
☆ ☆ ☆
新しい朝が来た。
希望の朝だ。
喜びに胸を広げ。
千尋と二人でラジオ体操をしていた。
朝も早くから、千尋に叩き起こされて。
「ラジオ体操ってさ、建築系の仕事してると毎朝やらされるんだけどさ、正直やる意味が分からん。準備運動とか現代ではもっと効率の良かったり効果が良いものがある筈なのに未だにこの時代遅れな体操をやるってのがどうもな」
不満を垂れ流しながらも体は勝手に動く、何も考えずとも。
「それはそうかもしれんが、ラジオ体操は義務教育課程でやるから覚えている人が多いだから皆が一緒に出来る前提でラジオ体操なんだろ」
「そもそも、準備体操を皆でやる意味が分からない、別に個々人で各々の体操とか運動で良くないか?」
ラジオ体操も終わり、軽くストレッチを始める。
「連帯感とか結束力とかを高める目的もあるんだろう。私は皆でやるのが好きだぞ、体が勝手に動いてくれる分頭をつかっていないから、こうして話ながら出来るからな」
「会社でやったら怒られるやつな」
過去にめちゃくちゃ怒られていた同僚が居たのを思い出す。
「まぁ学校でもあまりにもうるさいと叱ったりするが、私はひそひそと話ている分には見逃していたな。そういう時間が青春だったりするものだって知っているからな」
千尋が四つん這いになり、右手と左足を上げては近づけてを繰り返すのを見て俺も真似をする。
「この動き結構きついな……青春か、言われてみればそうなのかもな。学生時代のちょっとした事を大人になってから思い出したりすると青春って感じる事があるけど、学生だった時はそれが青春だとは思って無かったりするもんだしな。ていうかそんだけ理解がある先生だと生徒からの人気も結構あったんじゃないのか?」
左手と右足でさっきと同じ動きを繰り返す。
「どうだろうか……少なくとも女子剣道部の子らには嫌われてはいないと思いたいが……実際の所は分からん、女というのは10歳を過ぎていれば強かな者が多い。表面上は取り繕ったりするからな、仲間内ではボロクソに言ってたりする事なんか当たり前の事だと私自身理解しているさ……それでも教え子には慕われていたと思いたいな私は……良し!終わりだ!家に帰って朝食にしよう!」
教師という仕事が嫌いになった訳では無いのだろう。
生徒が好きで人に教えるのが好きで。
多少の事には目を瞑るのかもしれないが、剣道の練習の時には厳しくしていたのだろう。
良くも悪くもあまり手を抜かない千尋だから。
なにより、教え子を強くしてあげたいから。
「よーし!飯だ!飯だ!今日の朝飯はいつもより美味しく食べられそうだよ!ありがとう千尋!」
叩き起こされ、体操に行くぞと言われて無理やり地下広場に連れてこられた時はどうしてやろうかと思っていたが、ラジオ体操を終えてストレッチも終えると爽やかな気分になっていた。
「これから毎日やるからな、ちゃんと起きるんだぞ?」
毎日はやりたくない。
「毎日って言うけど、千尋も忙しいだろうから無理だよ」
「忙しくないぞ、両親ともきちんと話し会いをして道場の仕事はしなくても良い事になったからな!」
どや顔で胸を張る千尋、エルフ程では無いが中々に隆起する双子山に視線が奪われる。
ジャージ姿が体育教師っぽくて更にずるい。
「道場の仕事しなくて良いってもうニートじゃん!……どんな話をしたんだお前は……」
「通い妻だと説明したらそれはそれは両親も大層喜んで送り出してくれてな!」
自分の周りから埋めていくスタイル。
千尋の両親とは交流があるのでかなり効果的だ。
「おまっ!それはちょっとずるくないか?」
「言っただろう、私は本気で堕としに行くと。なりふり構わずに使えるものは全て使わせてもらう!このジャージ姿も中々にそそるだろう?」
「お、おう……それ言っちゃうと効果半減するから言わない方が良いぞ……」
「……」
千尋は何も言わずに転移門で家に帰って行った。
恐るべしアラサー剣道女子。
本気で俺を捕食するつもりなのが伝わった。
だがいかんせん、女アピールにあまり慣れていないせいかたまにポンコツが垣間見える。
だがそのポンコツが最高に可愛くて萌えるので今後も是非ともポンコツで居てもらいたいものだ。
☆ ☆ ☆
家の倉庫に帰ってきて居間へ向かう。
「ただいま」
「おかえりなさいませご主人様!」
居間の食卓には朝食が並んでいた。
「私のリクエストで焼き鯖にしてもらったが良かったか?」
「あぁ問題ないよ、俺も鯖は好きだし」
今日の朝食は千尋リクエストで焼き鯖だった。
他にも出し巻き卵、小松菜のお浸し、ナスと豆腐と玉ねぎの味噌汁、かりかりベーコン、サラダが並んでいた。
メンバーは俺、千尋、ベル、英美里。
番長は畜舎の家で暮らしているので朝は居ない。
皆が席に着いた。
「じゃあ頂きます!」
「「「頂きます!」」」
そういえば家畜っていつから飼育するんだろ。
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