妖狐な少女は気ままにバーチャルゲーム配信がしたい

じゃくまる

第41話 季節外れのプール配信①

「よしっ、ちょっと恥ずかしいけど放送を始めちゃおう」
 ボクがそう言うと、弥生姉様と御津は同時に頷いた。
 今日はボクと御津と弥生姉様の三人で生放送をするために、夢幻酔名義のプライベートプールに来ている。
 ここは妖精郷にあるプールで夢幻酔名義ではあるものの管理は天都お母様が行っている。なので、普段ここを使うのは妖狐族がメインになっている。
 じゃあ他の種族は使えないのか?といえばそういうわけでもない。現に一緒に来ている酒吞童子たちは楽しそうにプールで泳いでいるし、黒奈やスクナは売店でお菓子やファーストフードを食べている。
 まぁ圧倒的に数が多いのは妖狐族の女性なわけで、あっちにもこっちにも色んな色の尻尾が揺れていたりする。基本的にボクたち妖狐族は、水浴びや入浴が好きなので、こういう場所に頻繁に出入りしている。なのでどうしても妖狐族を多く見かけるようになる。
 さて、今回このプールに来た目的は三つ。
 一つめはプールから放送すること。
 二つめは御津のデビューをボクのチャンネルで行うこと。
 三つめは夏にはできなかった企画である、水着配信を行うことだ。
 今回ボクたちは三人とも水着を着用し、配信キャラクターにも水着を着させている。
 そう、ボクと御津の初めての水着お披露目となるのだ。
 ボクとしては正直恥ずかしいのでやりたくはなかった。でも弥生姉様は元より、葵姉様の勢いにも押されて、渋々承諾してしまったのだ。
 ちなみに、御津は自分のチャンネルを持っているものの、配信は初めてということもあってボクと一緒にやることを希望した。まぁ運悪く水着配信がデビュー配信となってしまったわけだが……。
「暮葉。水着、恥ずかしい」
「わかる」
「その気持ちはわかるけど、私も今日を楽しみにしていたんだから恥を乗り越えて一緒に頑張りましょう?」
 そう言う弥生姉様の視線は、ボクと御津を交互に捉えていた。
 ボクと御津は母親は違うものの、お母様たちがそもそも双子ということもあって色違いのそっくりさんだ。いわゆる2Pカラー状態なのだ。しかもバストサイズも一緒。ちょっとした膨らみが同じ大きさで水着を中から押し上げていた。
 ちなみに、弥生姉様はボクより少しだけ年上ではあるものの誤差程度でしかないはずなのだが、なぜかボクたちより発育が良い。人間の女子中学生くらいのサイズ感がある。
 お母様に聞いたところ、同じ年齢でも性徴については個体差があるらしく、大きい子もいれば小さい子もいるそうだ。
 なんだか納得がいかない。
「仕方ない。御津、がんばろ?」
「うん……」
 ボクの言葉に、御津はおずおずと頷いた。
 ちなみにボクの水着は上が白色のフード付きパーカーで、下が黒色のハーフパンツ。中身が水色と白のボーダー模様のセパレートタイプの水着。タンキニというやつを着ている。パーツ数が多いので着替えるのが地味に面倒だったりする。
 御津の水着はボクとは違い、スカートの付いたショーツ一体型のワンピースタイプの水着だ。色は白系統だが水で透けたりしない素材なので安心だ。
 ちなみに弥生姉様だが、ボクとは色違いの同じ水着を着ている。色はライトグリーンで上にTシャツは着ていない。そのせいもあってかボクと御津よりもふっくらしている胸が、上の水着をやんわりと押し上げているのがよくわかる。見ていてなんだか少し悲しい気持ちになった。
「はぁ。やっぱり私の妹たちは最高に可愛らしい」
 今日も弥生姉様は平常運転である。それにしても、時々弥生姉様の目が怖いのは何なんだろうか。葵姉様がボクたちの水着姿を見て描いている時も同じような目をしていた気がする。
「御津が可愛いのは認めますけど、ボクは普通では?」
 と、ボクが弥生姉様にそう言うと、御津がボクに異見を唱えた。
「わたしは普通。暮葉は、可愛い……よ?」
 なぜか言葉をボクの名前で区切り、もじもじしながら御津はそう言う。
 その姿は見ていて非常に可愛らしかった。
「じゃあ二人ともってことで」
「うん」
 ボクがそう提案すると御津はゆっくり頷いた。どうやらお揃いが嬉しいらしい。
「どうしよう。妹たちが尊い」
 姉様は何だか手遅れな感じがした。

 このプライベートプールには様々な施設が入っている。夢幻酔の妖種が使うということもあって食事処や温泉、温水プールにリラクゼーションエリア、果てはマシンジムなんかもあったりする。
 とまぁ一部だけを切り取ってもこれだけの施設が入っているわけだけど、実はここにはレコーディングスタジオやダンスレッスンスタジオ、放送ブースなども入っている。
 今日の目的はこの放送ブースでの生放送である。ちなみに密閉型の放送ブースと公開収録用の放送ブースがあり、今回はプールに面しているガラス張りの放送ブースを使用する。
 バーチャル配信に必要な機材などは最初から準備されていて、データを読み込ませれば簡単に使うことができるようになっている。一応調整のためのスタッフもいるので、問題が起きた時は対処してもらえる。ちなみに本日のスタッフは水着姿の妖狐族の女性たちだ。現在ここの女性比率は百パーセントである。
 余談だけど、夢幻酔所属メンバーも使うので小毬ちゃんたちもここで放送することがある。

「それじゃ、始めますのでよろしくおねがいしま~す」
 ボクがスタッフさんにそう言うと、彼女たちはさっそく仕事を始めた。
 配信タイトルは『真白狐白のまったりゲームチャンネル 【季節外れの水着配信&真白姉妹の三人目デビュー生放送】』となっている。
 すでにかなりの人数が待機してくれているようで、別端末から見たコメント欄には水着を期待するコメントが多数を占めていた。もちろん新姉妹を期待してくれている人もいる。
 やっぱり見ているボクも思うことだけど、水着お披露目ってインパクトあるよね? ものすっごくドキドキワクワクするのわかる。もうね、早く見せろって思っちゃうんだよね。
 ちなみに、一部には遠吠えのようなコメントを残す人がいた。
『子狐小毬:みーずーぎーだーーーーーーーーー!! 神様、ありがとおおおおおおお』
『小毬ちゃん暴走してるんだけど?』
『毎度欠かさずよう来るな~』
『小毬ちゃんの水着はよ』
『おいおい、狐白ちゃんのチャンネルでそれはなしだぞ?』
『あ、すまん』
 小毬ちゃんの登場により、コメントのスピードが加速する。やっぱり人気な子が来るとみんなテンションが上がるようだ。
『真白狐白:概要にも書いてありますけど、うちは他所の子の話してもいいですよ。あ、でも許可取ってる子だけですからね。今のところ夢幻酔の子は全員OK出てます。でも他の放送にお知らせに行くのはダメですよ』
 一応みんなにはくぎを刺しておく。
 ほかの人の基本ルールはわからないけど、うちも似たようなルールを採用している。
 もちろん迷惑がかかるような行為はNGなので、それさえ守ってもらえれば多少のことはOKにしている。
『まぁあまり狐白ちゃん以外の話題は出さないことが吉だな。アンチが出たら面倒だし』
『だよな~』
 ボクの認識が甘い可能性はあるけど、たしかにみんなが言う通り、変な風に話が伝わって事故につながることは避けたい。もう少しルールについて考え直してみる必要があるかもしれない。
『真白狐白:ルールについてはまた考えますね。みんな、ありがとう』
『いいってことよ』
『狐白ちゃんはよ』
 ボクの放送の視聴者さんは優しい人が多いみたいだ。
 と、ボクがそんなことを考えていると、スマホに一通のメールが届いた。
 差出人は宮内杏ちゃん。つまり子狐小毬ちゃんだ。
『今日の放送はどこからですか?』
 珍しくボクの配信場所が気になっているようだ。
「弥生姉様。杏ちゃんがこっちに来たいみたいですけど、呼びますか?」
「そうねぇ。事務所に許可取ってもらえることが前提かしらね。それと、時間をずらしていいなら来てもらいましょうか」
「そうですね。まずは予定のコンテンツ終わらせてからですね」
 弥生姉様と相談した結果、杏ちゃん次第では来てもいいことにした。なので、その旨を送信する。
『杏ちゃん、今日は夢幻酔のプライベートプールからだよ』
 するとすぐに返事が返って来た。
『行く! 行くます!! あ、まずは水着と事務所の許可取らなきゃか。なんとかします!!』
 よほど慌てているのか、『行きます』が『行くます』になっている。
『は~い。気を付けてね』
『ラジャーです』
 杏ちゃんが来ることが確定したので、弥生姉様にその旨を伝える。
「杏ちゃん来るって言ってました」
「でしょうね。あとで告知忘れないようにね?」
「は~い」
 こうして小毬ちゃん緊急参戦のプール放送が始まったのだった。

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